12バッハ バハムートちゃん御一行のバイト探し
さわやかな朝フェンリルは異議申し立てをしていた。
「反対です!断固拒否いたします! 引っ越しなんてイヤです!!」
議題はこの間の第2回トップ会談でもあった『ベッド足りない問題』である。 フェンリルがシャワー離席でいない間にイフリートがバハムートちゃんを丸め込み、さも2人で寝る事の窮屈さ、負担さ、大変さをを訴えかけたのである───なんとも器の小さい話である。
「むぅ、しかし、ここよりも広い部屋にいけばベッド数も増えて、お主も窮屈な思いをしなくて済むのだぞ……」
「わたくしは窮屈でも構いません……でも、バッハ様が窮屈だと仰るのでしたら──わたくしは、わたくしは────」
大きな瞳に涙をためて訴えかけてくる───あれ?ナンカ聞いていた話と違うな……とバハムートちゃんは小首を傾げた。 旗色がおかしくなってきたので、マズいとイフリートはバハムートちゃんに加勢した。
「ハイ、ハ────イ! オレもソファーだと狭いのでベッドで寝たいデ──────ス!!」
「床で寝ろ」
ジト目で言われ、バッサリと返り討ちにあう。 相変わらずの切れ味である。
「オイ、お前ら」
魔道士が参戦した。
「引っ越すのはいいが、誰が金を出すんだ?」
一刀両断され、とりま3人は議題を中断して、先立つものを得るためにバイトを探しに行った────その姿をホテルの部屋の窓から魔道士は見ていた……その手にはかなり年代物の古書が大事そうに握られている。
「……これでいいんだろ──なぁ、………」
───最後の方は聞き取れなかった……その表情は窺い知れない。
「──さて、どうするっすかね〜〜〜?」
「我の顔の広さに任せるのだ! バイトなぞすぐ見つかるであろう」
えっへんと胸をはるバハムートちゃんにフェンリルは嬉しそうにパチパチと拍手をする。
「まずはクシヤキ屋のおっちゃんのとこに行くぞ!」
「? クシヤキ……屋? とはどういうものですか?」
「うむ?クシヤキは美味いものだぞ!! いい匂いしてホフホフしてジュワ〜〜〜とするのだ!」
クシヤキが美味しいモノ以外はさっぱりだった───が、バハムートちゃんが恍惚しながらエアホフホフする表情を見てフェンリルも恍惚しながらホフホフ真似た。
「串焼き屋か──旦那にはちょっときついんじゃないんすか? 結構肉体労働ですぜ、あれ」
「肉体労働?」
フェンリルの表情が怪訝に曇る。
「1日中立ちっぱだし、露店だから店内と違って天候にも左右されっからな───あと、とにかく熱い! 火で焼べた薪で調理するかんな〜〜〜それがいんだけど」
「ダメです!!」
そう言ってバハムートちゃんのぷにっとした小さな両手をキュッと握る。 表情は真剣そのものだ。
「バッハ様のこの尊いお手手にもしもの事があったら、このフェンリルは────」
よくわからないが、クシヤキ屋がダメという事はわかった……クシヤキ食べたかったのぅ、とちょっとだけしょんぼりした。 バイトが何かわかってない事もわかった。
「しかし困ったのぅ……我の知り合いは露店のモノばかりだからな……」
「では、あそこはどうですか?」
フェンリルがニッコリと微笑む。
そこは会談でお馴染みの、いつものカフェである。
「なる程、そうでしたか……バイトをお探しと。 あなた方は私共の恩人です───できればご協力させて頂きたいのですが─────」
と言って店内を見渡す───広めの店内には客がポツポツいるだけだ。 それは知っていた。だからこそ会談の場所に都合がよかった。
「ご覧の通り、店にはワタシとあと1人でいれば間に合っておりまして……」
店長は申し訳無さそうに頭を下げる。
「要は3人雇えるだけの稼ぎがあればいいって事っしょ? ここが埋まれば問題ないっすよね? オレにまかせておくっすよ」
そう言って胸をドンと1つ叩いてイフリートは店から飛び出す様に出て行った。
「僭越ですが、わたくしも行ってまいります」
丁寧にお辞儀するとフェンリルも颯爽と出て行く。
間もなくして、ワッと人が押し寄せて席はあっという間に満席になる。 店は一気に慌ただしくなる。もちろん3人もスタンバった。
イフリートの口の旨さとスキンシップ、フェンリルの計算され尽くした笑顔と胸チラ、そして何よりもバハムートちゃんの溢れんばかりの愛嬌とご相伴で店は瞬く間に人気店だ。 外には行列もできて最後尾札まである。 どこぞの世界なら視聴数アップ必死のマスコミやチューバーがハイエナの如く食いつく事だろう。
店は1日中忙しくて、忙しくて、忙しくて、忙しくて─────1日にして店長が根を上げた。 どうか勘弁してくださいと土下座されてしまっては仕方ない。 また一客に戻る事になったが、もちろん義理堅い店長は色をつけて3人に今日の分のバイト代をくれた。
こうしてバハムートちゃん御一行のバイト探しは振り出しに戻ったのだった。 バイトがダメになり失意のメンバーの中でただ1人、こっそりフェンリルはにんまりなのである。




