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「……つかないなぁ」
ここに来てから毎朝やっていることがある。
ハノーファー国に着たとたんに電源がつかなくなった携帯。
今年機種を買い替えたばかりで故障は考えられないし、登校するときには充電は十分にあった。
ここに来てから一番気になっているのは、ハノーファー国に来てしまってから家族や友達が心配していないかどうかだ。
携帯の連絡もつかず、ユイレルさんにホリデー明けじゃないと詳しく調べられないと言われてしまえばもう成す術はない。
どうしようもできない事態に焦燥がつのり、薄い靄が少しずつ重なっていくようだった。
「おはよう、ユイレルさん」
「おはよう」
服を着替え(といっても背の高いユイレルさんの服を借りているので大きく捲らないといけなかった)、ダイニングに行くと、いつものように紅茶を片手にユイレルさんが寛いでいるところだった。
「ユイレルさん、ここではメールとか使えるの?」
聞いてみるだけでも、と一縷の望みをかけてユイレルさんに聞いてみることにした。
「メール? メールとは?」
「遠くの人と連絡したいときに、文章を送れるの」
「ああ、なら【ふくろう便】がある。ふくろうに手紙を括り付けて飛ばすんだ」
【ふくろう便】!
なんとも予想以上に原始的な方法だった。
ハノーファー国民は、必ず一家に一羽ふくろうを飼っているらしい。
ふくろうは賢く、簡単な言葉なら理解しているらしく、住所を伝えれば届けてくれるらしい。
「それってハノーファー国以外でも送れます?」
「いや、試したことはないな……やってみるか?」
ユイレルさんの提案を受け、まずは手紙を準備することにした。
ユイレルさんはいつも書き物をしている茶色の古紙を数枚分けてくれ、自分の羽ペンとインク壺を出してくれた。
私はやたらと柔らかい古紙と羽ペンの使い方に四苦八苦しながら自分がハノーファー国というところにいること、元気であることを書留めて封筒に入れると、くるくると小さく丸めて白いふくろう――ヴァイスという名前で気品があった――に括り付け、住所と家の特徴を伝えた。
ヴァイスは飛び方を確かめるように家の中を2回くるくると回った後、ダイニングにある窓から出ていった。
「ユイの使っていたメールのようにすぐに返事は来ない。あとは待つのみだな」
ヴァイスが山の向こうへ飛び去るのを見てユイレルさんが言った。
私はやれることをして少し満足した気分だった。あとは待つのみなのだ。
でも届かなかったら?
ヴァイスに通じていなかったら?
不安はある。でもあとはヴァイスを信じるしかない。
ヴァイスが見えなくなってもなかなか窓際から離れられない私を見て、ユイレルさんは私の隣に立ち、私の頭を撫でた。
「ヴァイスはばかじゃねぇ。しばらくしたら返事を持って帰ってくるから、ユイはそれを待ってりゃいい」
「うん」
ユイレルさんの手は身長に比例して大きく、心に比例してとても温かかった。
少しぶっきらぼうだが私を慮った言葉にひどく安心を覚えた。
Weiß(ヴァイス)はドイツ語で「白い」という意味です。




