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吸血神姫《ヴァンパイア・プリンセス》  作者: 瓜姫 須臾
序章 「目覚める」少女・月島礼羽
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第21話 宵の魔女セラータ

お久しぶりです。すみません!

4月中に投下しようと思っていて、私生活がバタバタしていたので投下しそびれていました…!

それでは、どうぞ!

「彼方っ!!」


 跳んだセラータは、彼方に向かって杖を振り下ろした。

 同時に、斐甲が悲鳴のような声で彼方の名前を呼ぶ。


 その杖の周りには、黒いもやもやとした煙のようなものが漂っていて、一目で触れたらまずいものだと見て取れる。


「……っ、問題ない!

 厳島の名にかけて、張った結界を破らせるようなミスはしない」


 バチィッ!!!!!!

 火花を散らして、セラータの杖が景の結界に触れる。


 額に汗をにじませながら、景は結界へ込める霊力を増やすが、セラータの杖は弾かれずに結界へ触れたままだ。

 その上、杖の纏う黒い煙は量を増していくばかり。


「うふふふふ……活きが良いあなた達のようなお子様はきらいじゃないわ……。

 でも……」


 夜闇に響くセラータの声は、どこか悍ましい。


「ざーんねんっ☆

 私ね、人間にも異形にもなりきれない、半端なあなた達のような存在が……だぁい嫌いなのよねぇ!!!!」


「くっ……!!

 “我が祖たる天の女御よ! さらなる力をこの身に授けたまえ……!!”」


【む、この世界にとって脅威となる存在か……これまでは干渉度合いに制約をかけていたが、そうも言ってはおれぬようじゃ。

 人間(我が子)よ、妾の力を存分に使うがよい。

 お主に、我が力を降ろす権限を許す。

 その宝珠を持って念じよ】


「っ!? これは……」


 必死に印を結んでいた手に、何かコロンと触れる感触がした。

 印を崩さぬようにしつつ手の中を覗き込んでみれば、そこには不思議な色をした宝石のような玉がある。


 先程の声からして、景の助けに応えた神によってもたらされたモノ。


「ほらほらぁ、気張らないと私がそのかわい子ちゃんを痛ぶってしまいますわよぉ!

 それとも、あなたはそれをお望みなのかしらぁ?」


 今も依然として、セラータは結界を破ろうと杖と黒い煙を結界にぶつけてきているのだ。


 この宝石を使うと、おそらく景はまた普通の人間から離れてしまうだろう。

 何の代償もなしに、神の力を借りることなどできるはずはない。

 強大な力には、それ相応の対価や犠牲が必要となる。


 一族が力を求めすぎた代償として、人としての道を外れそうな行為の結果として、母の命と引き換えに産み落とされた罪の結晶(自分)のように。


 何かを得るためには、代わりとなる何かが失われなければならない。


 瞬間、結界に(ヒビ)が走る。 迷っている暇はない。


「……我が神よ、この身に変えましても、きっと世界を護りましょう」


 伏せていた目を開き、前を見据えた景。


 覚悟は決まった。

 元々、普通の人間としては欠陥品であるのだ。

 今更、何を失おうとも怖くはない。


 唯一、許嫁として定められた彼女を傷つけるようなことだけは避けたいが。

 そもそも今の戦況をやり過ごさなければ、彼女との未来もない。


「“我、この身に授かりし名に於いて、天の女御……天照と一体となり、世界を守護せん!”」


【己が真の名を叫べ、その身に隠された神性を解き放つのだ!!】


 いつも景へ力を貸してくれる神の声が聞こえた。


「“我、厳島の血を引きし景の尊……真の名を、市杵島姫命!!”」


 己が身に封じられし神性なモノの名が、口から紡がれる。


【お主に許しを与え、お主とともに脅威から全てを護ろう】


 神の返答と共に、景はその身を焦がすような熱を感じた。

 否、それこそが神の力。


 宝石から光が放たれる。

 光が収束して武具を形作り、景の体へ纏われる。


「これが……俺の中にあった神性……」


【水の力を司っていた我が娘の力じゃ。

 妾も力を貸している今、光や太陽に関する力をも制御できるじゃろう】


 景は、その身に神を降ろした。

 正真正銘、自分の一族で支えてきた神社の祭神を。


 将来的には、この神降ろしの力が決定打となり、祭神として祭り上げられてしまう景だったが、それはまだ誰も知らない未来である。


「ありがたき幸せ……。

 我が神……天の女御よ、御身より授かりし力、存分に使わせていただく」


 神と意思疎通を図っていると、怨嗟の籠った呻き声が聞こえてくる。


「何をごちゃごちゃと……いつまで、一人芝居してるのかしら。

 全く、いきなり光を放つなんて反則だわ。

 眩しすぎてつい杖を引いてしまったじゃないのよ……」


 セラータはどうやら、景が行った「神降ろし」によって放たれた光をもろに見てしまったらしい。

 目を擦りながら、杖を構え直していた。


「それは失礼。 目潰しをするつもりはなかったのだがな」


「あらそう……。 それじゃ、気を取り直して、と。

 この鬱陶しい結界も破ってあげるから、待ってなさい。

 たっぷりとお・れ・いしてあげるわねぇ!!」


「そうは行くか! はぁっ!!」


 杖を振り上げた彼女の動きに遅れないよう、新たな結界を張る。

 壊れかけている既存の結界を丸ごと包み込むように。


 景は、その神のごとき力の一端を、身をもって体感する。

 あれだけ展開に苦労していた結界が、念じるだけで張れてしまう。


「くっ!? なによこれぇ、何なのよぉ!?」


 新たに張られた結界に弾き返されて、尻餅をついたセラータは、目を瞠って叫ぶ。


 それまでの柔い結界じゃないことは理解できた。

 自分の嫌いな雑種にしては力が強すぎる、とも。


 ホームグラウンドの夜であるとはいえ、魔物も斐甲にかなりの数倒されてしまい、万全の状態でもない。

 しかも良くないことに、もう月は天高く登りそろそろ朝の時間だ。


「……我が神の助力の賜物だ。 そう簡単に破らせはしない」


「……フンッ! 気に食わないわねぇ。

 ノッテもなかなかこちらに来ないし、夜は明けそうだし、良いことがないわ。

 帰ってしまおうかしら……」


 ノッテが来ない今、このやばい力を発揮している景とやり合うのは得策ではない。

 自分達と相反する「光」の気配を感じるということは、最悪セラータ側が消されかねないのだ。

 景の覚醒という予想外の展開は、セラータからすると勝ち目は消え失せたといって良い状況だった。


(このまま逃げ帰っても……お仕置きされてしまうだけだわ。

 あっ、そうだわ……♪)


「ふふふ……うふふふふ。 あはははははははっ!

 せっかくだから置き土産としてこの地脈を呪いますわ。

 永劫、この地には混じり物達が集まり、朽ちていくように!!」


 狂ったような微笑みで、悍ましい笑い声を上げたセラータは、直後に不思議な言葉を唱え始める。


【まずい、何か良くないモノが地脈へ注がれている!

 このままでは、この地に顕現した神は力を半減されてしまうわい!!

 景よ、我に体を貸せ!】


「我が神よ、どうぞお使いください」


 焦ったような神の声に、素直に従った景。

 途端に意識が遠のき、体がふわふわとした感覚に包まれる。


「人の体なぞ、数千年ぶりだが……ひとまず、何とかせねばな。

 宵の魔女……貴様のその呪言、止めてみせるわ!」


 景の体を借りた神は、地脈に自分の力を流し込む。

 セラータが夜……闇ならば、この神は太陽……光なのだ。

 必ず相殺できるはずなのだ。


(ぬっ、何なのあの少年!? さっきの結界と言い、今の妨害と言い……まさか本物の神を降ろしたとでも言うわけ!?)


 自分の呪いを妨害されているセラータは、内心取り乱しているが、ここで言葉を止めるわけにはいかないのだ。


「くっ、なかなかしぶといのぉ……。

 しかし、これより先は日の昇る、昼の世界。 宵闇は夜にこそふさわしい」


 目を一度閉じ、ゆっくり開く景(の中の神)。

 その目には、金の紋様が浮かぶ。


 そしてその口からは、清らかな声で言の葉が紡がれていく。


「“天の磐戸隠れにて、暁を告し鶏の聖音。

 日の出を告げるその音に、浄化されるが良い”」


「ぅぁぁああああっ!?」


 景の体から放たれた光は、校庭全てを包みこんだ。


 瞬間、セラータの悲鳴が聞こえる。


 光が収まると、セラータは地面に倒れ込み、杖は木片と化していた。

 セラータの配下だった多数の魔物達は消え去り、静寂が支配する。


「己が闇の力が跳ね返ったか。

 この地で太陽を司る我の浄化をもろに喰らい申したのだ。

 お主、棲家に帰りつけても、長くはないぞ?」


「くっ……お前らみたいな混じり物なんてっ!!」


「ほれ、仕上げじゃ」


 帰りつけても、なんて口では言いながらも返すつもりはないらしい神。

 セラータの体を細い蜘蛛の糸のようなモノで拘束すると、空中へ極小の結界を作り出して閉じ込めてしまった。


「景くん……」


「景……お前まさか……」


 全てが終わり、ようやく我に帰ったらしい斐甲と彼方。

 おずおずと話しかけるその様は、景の体が無事なのか不安なようだった。


「お主らは我が子の友か。

 心配するでない。 我が許しを与えた神降ろしじゃ。

 この体には何一つ大事ない」


 くるりと後ろを振り返った景(の体を借りる神)は、安心させるように微笑む。

 普段は帽子で表情を隠すことの多い景だが、実は結構な美男子である。

 もし今この場にクラスメイトでもいたなら黄色い声が上がっていたかもしれない。


「そう、ですか……」


 斐甲と彼方は、その返答に安心したようだ。

 とりあえずぶっつけ本番な戦闘でも、この3人が誰1人欠けることなく生還できたのだから。


「そろそろ、我も天へ戻るのでな。

 我が抜けた後しばらくは目を覚さないかもしれぬが、我が子をしっかり頼んだぞ」


「わかりました。 お任せください」


「うむ」


 斐甲と彼方の顔を見て満足げに頷いた神は、景の体から抜け出たらしい。

 途端に景の体から力が抜けて倒れそうになるのを、斐甲が慌てて支えた。


 周りを見ても、見える範囲の校庭側にはもう敵はいなさそうだった。

 セラータを捕らえている結界は頑強そうで、そう易々と消え去りはしなさそうである。


 ただ、景が意識を失っている今、セラータを動かせない。

 下手に触って結界が破れても困るし、かと言って放置してこの場を離れるわけにもいかない。


 どうしようか、と考えようとした時。


『3人とも、お疲れ様。 宵の魔女を捕らえてくれたこと、感謝します。

 彼女だけは暴れられたら困るし、先に回収しますね。』


 どうやってなのか、瑠の声が聞こえてきた。

 校庭にいくつが設置されたスピーカーを通している……にしては、目の前に立っているかのような距離感で声が聞こえるのだが。


『ただ、二往復分の転移陣を起動できるだけのエネルギーが溜まっていないから、申し訳ないけど校舎まで歩いてきてくれると嬉しい。

 昇降口までは、部下に迎えにいかせるので』


 言い終わると、こちらの返答を聞かずに瑠は音声を切ってしまったようだ。

 目の前のセラータが結界ごと一瞬で消えた。

 おそらく、何らかの呪術的な設備で回収されたのだろう。


「……とりあえず基地内に戻ろっか」


「そうだな」


 歩いて帰ってこいとのお達しもあったので、悩むことなく景を背中へおんぶし、歩き始める斐甲と彼方。


 2人並んで、校舎を目指すのであった。

 


また書き溜めができたら、そのうち続きも投下します!

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