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episode4 なくした名前

 一瞬、その美しさに見とれて止まってしまった。いけないいけない。

 「気がついたか。」

 そう言って近寄った・・が、びくっと体を震わせて、ベッドの端に後ずさりしてしまった。どうやら脅えさせてしまったようだ。

 「大丈夫、何もしないよ。」

 ・・・彼女は何も言わず、ベッドの端から俺を見上げている。だめだ。完全に怯えている。

 「飲み物でも持ってくるよ。少し、待っていて。」

 落ち着かせよう。らちがあかない。そう思って一度、寝室から出た。

 寝室の前に椅子にはピックが座っている。出たよ、うるさいのが・・・。

 「なあなあ、起きたのあの子?!」

 「起きたけど、酷く怯えているんだ。何も話さない。」

 「まじ?俺あーゆー子すっげータイプ!なあ、会わせてくれよー。」

 「今飲み物を持ってくる。それからな。」

 キッチンに向かう。丁度ヒナが夕食を作っていた。

 大人数の食事を作るのは結構な時間がかかるらしい。食事当番は当番制で、もちろん俺も当番がくれば作るがどうもうまくいかない。ヒナの料理はここのメンバーの中でいちばんうまい。

 「ヒナ、立て込んでるところ悪いけど彼女が目を覚ましたんだ。お茶、もらえないか?」

 「丁度お湯沸いてるから・・・はいどうぞ。どう?彼女。」

 「怯えてて・・・。まだ全然しゃべってないんだ。」

 「そう・・・。あんまり興奮させちゃだめよ。何かあったら呼んでちょうだい。」

 「ああ。」

 キッチンを出ると、ピックが待ち伏せしていた。

 「俺が持ってくぜー?へへっ」

 ああ・・・しつこいな・・・こいつは。でもこいつの軽さで彼女の緊張も解けるかもしれない。

 「・・・ああ。宜しく頼むよ。」


 寝室のドアを開ける。

 彼女は変わらず、ベッドの端っこで小さく座っている。

 「お待たせ。気分は・・・

 「はじめましてー!気分はどうっすか?!はい、熱いお茶っす!気をつけてね!」

 俺の言葉をさえぎってピックがハイテンションでお茶を差し出す。ああ、お前のこういうところはさすがだ・・・。

 彼女はびっくりしながらも勢いでお茶を受け取っていた。

 「・・・っ」

 思いがけず熱かったらしく、お茶を少しこぼす。

 「あぁ〜気をつけて言ったじゃん!!」

 すかさずピックがタオルでふきとった。

 「へへっ・・・(めっちゃくちゃかわいいじゃん♪ってかすっごい綺麗じゃん!いいね、これはいいね♪)」

 ひそひそとピックが耳打ちをしてくる。・・・そうだな。俺もこんな綺麗な女見たことない。ピックの耳打ちには答えずに俺は彼女に話しかけた。

 「・・・少しは落ち着いたかい?」

 こくん、と彼女は頷いた。何だかうつろな目をしている。

 「よーかった!!いや、良かったっす!!ねえねえ、名前は?俺ピック!で、こっちのちょっとクールぶってるのがウィン。よろしくね!!」

 「なまえ・・・。」

 初めて彼女が口を開いた。でも、そう一言言った後、彼女は持っていたカップを手から落とした。見事にカップはピックの手に落下。

 「あぢゃーーーー!!!」

 熱いお茶を手にこぼされてピックは慌てて椅子から転げた。

 そんな大騒ぎのピックはもう無視でいい。

 「分からない・・・。なまえ・・・?」

 彼女は頭を抱えて、顔を苦痛に歪ませた。

 「頭・・・い・・・た・・・。」

 「だ、大丈夫か?!ピック、ヒナを!!」

 「あっち〜〜親分、合点だ!!!」

 回復力の速い奴だ。そう言うとピックは寝室を飛び出していった。

 「分からないって・・・君、記憶がないのか?!」

 「い・・・たい・・・。」

 記憶がない・・・。いろいろと聞きたいことがあったのに・・・

 「くそ・・・。」

 ヒナが寝室のドアを思いっきり開けた。

 「はいはい、どいてどいて!!」

 ヒナにどかされる。

 「大丈夫よ、どうしたの?」

 「頭が・・・いた・・・」

 「マテリアルのことも・・・覚えてないのか?!」

 俺は興奮して割り込んで言った。

 ヒナに間髪いれず頭をはたかれる。

 「でっ!!」

 「病人に大声出さないの!!どうしたの?何か悲しいことでもあった?」

 彼女を見ると・・・彼女は泣いていた。泣きじゃくっているわけでもなく、頭痛に顔をゆがめながら涙をこぼしていた。

 「痛いわね・・・そうね。いいのよ。とりあえず、休んで。」

 ピックがベッドの周りをちょろちょろする。

 俺もどうしていいかわからずおろおろしていた。

 ヒナが振り向いて言った。

 「男は出て行って頂戴!」

 「え・・・なんで」

 「いいからでていきなさい!!」

 

 ヒナに部屋から追い出された・・・。

 「あーあ。追い出されちゃった。ウィンがでかい声だすから」

 お前がちょろちょろうるさいからだろうが!!!!

 くそ・・・帝国の剣のこととか聞きたいことがいっぱいあったんだよ!!何はなしてるんだ?俺は寝室のドアを少し開けて覗いていた。

 

 「大丈夫?」

 彼女がこくこくと頷いている。頭痛は治まったらしい・・・。

 「私、ヒナよ。女同士だから。よろしくね。」

 男でも何かするかっての・・・。

 「なまえ・・・」

 「名前・・・。覚えていないのね?」

 彼女はまた頷く。

 「きっと嫌なことがあったのね。そのうち思い出すわ。無理に思い出さなくてもいいのよ。」

 「・・・。」

 「とりあえず、なんだかすごく汚れているみたいだから汚れを落とそう。おいで。」

 やべ!こっちにくる・・・。

 俺は急いでドアから離れて、近くの椅子に掛けた。

  ご覧いただいてありがとうございました!

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