episode12 不完全な体
―俺は、死ぬのか?
―俺は、何なんだ?
―どうしてこうなったんだろう?
―ここからは出られない。
―俺は・・・必要とされなかったから。どこにもいけはしないのか・・・?
『だいじょうぶ』
そうして差し出された小さな手は、俺の冷え切ってしまった手には酷く暖かく感じた。
―君は・・・?誰・・・?
目を開けると、そこには俺の顔を覗き込むセイラがいた。
「・・・?・・・セイラ・・・?」
「ウィン・・・良かった・・・生きてた・・・」
起き上がろうとすると、体中が痛んだ。
「いっ・・・。」
「ほれ、あまり無理するんじゃない。」
起き上がるのを諦め、首だけ動かして声をするほうを見る。・・・白髪のじいさんが立っている。誰だ?
「・・・。あの・・・。あなたは・・・。」
「わしはこの村の医師のモリスじゃ。安心しろ。治療はしておいたよ。」
「ウィン、あのね、モリスさんが助けてくれたの。」
・・・話を一気にされて分からない。どういうことだ??それから順序を追ってセイラに話を聞いた。
つまり、こういうことだ。おれは飛行機の操縦をしながら気を失ってしまったらしい。セイラがいくら呼びかけても返事はなく、飛行機の操縦を俺の変わりにセイラがした。しばらく持ちこたえてはいたものの、バランスを崩して落下したところが運よく海だった。その時近くにいたのが釣りを趣味としているこのハリヤ村の医師、モリスじいさんで、俺達を拾って治療までしてくれた・・・というわけらしい。
セイラもよくみたら擦り傷だらけだが、大した怪我はしていなかった。俺も打撲が殆どだということだ。しかしさすがにまだ動けないな・・・全身ズキズキしている。
「ウィン、大丈夫?」
「ああ・・・動けるようになったらすぐに行こう。生き残ってるのが奇跡だ。」
「うん・・・。」
「おーい、薬草を取りに行くのを手伝ってくれんか!」
「あ、はーい!じゃあウィン、モリスさんのお手伝いしてくるね。」
「ん。ああ・・。」
セイラの話では3日、気を失っていたらしい。大分うなされていたようだ・・・。ピックとシースは無事に列車に乗れたのだろうか・・・?イエローは見つけられなかったが・・・塔から脱出できたのだろうか・・・?キディといった、あの男はどうなったのか・・・。
第4収容所襲撃計画は見事に失敗した。収容所は確かに崩壊したが、囚人は殆どが亡くなっただろう。帝国の兵士も・・・。俺達が・・・殺したんだ・・・。
俺はそのまま眠った。体がつかれきっていたのだろう。夜、薬草の粥を食べるために起こされたが、そのあとも朝まで一度も起きることなく眠った・・・。
そして、そのまま朝を迎えた。横のベッドではセイラが眠っていた。擦り傷だけといっていたがすっかりいいようだな。俺の体も昨日と比べると随分と痛まなくなった。もう、動けるはずだ・・・。あれだけの騒ぎを起こした後だ。早くアジトに戻って無事を伝えなければいけない。セイラの事を通報されてもこの体じゃ十分に戦えない。早く立ち去ろう。
「セイラ、起きろ。」
「んー・・・。ウィン・・。もういいの?」
「随分な。行こう。とりあえずここを出るんだ。」
「?もう?」
「ああ、早く・・・」
「こらこら。まだ退院許可を出しておらんぞ。」
もう起きてたかじいさん・・・。さすが年よりは朝が早い。
「お世話になりました。すいません。行くところがあるんです。」
「小さな村だが一応医師じゃ。おぬしを治す義務がある。それに、ききたいこともあるんじゃ。座りなさい。」
「・・・。」
・・・言うことを聞いておくか。
「ふむ。体の打撲はもうほとんどいいようじゃな・・・。あと、上着を脱ぎんさい。」
モリスは俺の胸に聴診器を当てて、心音を聴いている。
「ふむ・・・。後ろを向いて。・・・ふむ。いいじゃろう。」
聴診器を降ろしたモリスはふう、とため息をついた。
「お主が気を失ったわけは・・・ここじゃろう。」
モリスは俺の左胸を指差した。
「お主が寝てるときにお主が持っていたこの薬・・・これと同じ薬を点滴で入れさせてもらったよ。」
・・・そうか・・・だから随分と楽なのか・・・。
「・・・助かりました。ありがとうございます。」
「自分で分かってると思うが、これはかなり強い心臓の薬だ。」
「・・・はい。分かっています。」
「しかし、お主の心臓を診察してみたところ、本当の心臓病ってわけではないね。」
「・・・・ありがとうございました。あとは失礼します。」
俺は話を中断して席を立とうとした。俺の体の事が普通の医者に判るわけがない・・・。今までどれ程の医者がさじを投げた事か。
「待ちんさい。お主の体の事だ。悪いようには絶対せん。・・・お嬢さんも聞いておきなさい。彼といるなら。」
・・・モリスの強い目に押され、俺は半分腰を上げた席にもういちど着いた。
「何故心臓病でもないのにこんな強い薬を飲む?」
「・・・心臓が、熱く、早くなって苦しくなるんです。痛みも激しい。・・・年々酷くなってます。」
「それは・・・お主のその瞳と関係あるのか?それは・・・レッドアイという、帝国の兵士のものではないのか?」
「・・・。」
「お主を見つけたとき、痙攣を起こしていた。心臓と・・・左目を抑えて苦しんでいた。目は、熱を持って血が滲んでいた。わしは眼球が傷ついているのかと思ってみてみたが・・・傷は無かった。血の・・涙だったんだ。それに飛行機が墜落して、おぬしは酷い怪我だったんだ。わしが見つけた3日前は。今は・・・全身打撲程度にまで傷が治っている。こちらのお嬢さんもだ。お主ほど酷い怪我ではなかったが・・・3日でここまで回復するのは・・・。医者の目から見れば異常じゃ。」
このじいさん、お見通か・・・。
「俺は確かにレッドアイですが・・・
不完全なレッドアイなんです。」
「不完全も・・・?レッドアイ“赤い英雄達”じゃろう?戦といえば彼らが取り上げられる。それに完全も不完全もあるのかね・・・?」
「・・・そうですね。レッドアイは英雄と称えられ、一般の方から見れば憧れにもなっています。俺もレッドアイに憧れて帝国の兵士になったんです。」
「この村で憧れるものも多いよ。子供達は特にな。優秀と認められた兵士はレッドアイになれる、と。わしから見れば兵士もレッドアイも変わらない。戦などただの殺し合いじゃ。・・・。」
「・・・モリスさん?」
セイラがうな垂れたモリスを心配する。このじいさん、どうしてここまで・・・?
「わしの息子は・・・12年前に帝国の兵士になったんじゃ。」
「!!・・・まさか・・・。」
「“レッドアイに選ばれた”・・・その手紙が着てから・・・息子は帰ってこない・・・。英雄となって・・・忙しくて帰ってこれないのかと思っていた。手紙も出せないのかと思っていた・・・。だから、お主を見つけたとき・・・わしは・・・。いったい、どうなってるんだ?レッドアイとは・・・。頼む・・・教えてくれ・・・。」
「・・・モリスさん。」
・・・息子が・・・12年も前か・・・恐らく・・・
「俺が・・・知ってることの全てです。俺が・・・レッドアイになった時のこと・・・」
―4年前―
帝国ビリアスにそびえるに白いビル・・・。国立研究所マテリアル。食品から兵器まで、世の中の科学の最先端が集結している。俺達はこの日、レッドアイになるためにマテリアルに連れてこられた。その門は大きく、くぐれることを誇りに感じた。ここから出てくる時、俺達は英雄の証である紅い瞳を手に入れている。そう、信じていたから。
俺はレオと他の候補者達と、待合室らしい部屋で待たされていた。白い壁に白いタイル。全てが真っ白で清掃されている。研究室の外は普通の会社のようだが、研究員はやはり白い白衣に身を包んでいる。
「えー、レッドアイ軍候補に選ばれた兵士諸君。よく来てくれた。私がレッドアイの担当ビットだ。」
白衣に、メガネの小太りの研究員が奥から現れる。
「はい!!!よろしくお願い致します!!」
「ははは。元気がいいね。いいことだ。さて、早速はじめよう。着いてきてくれ。」
ビットは一番奥にあるエレベーターに鍵を刺す。なぜわざわざこのエレベーターを?俺は少し疑問に感じたが、さほど気にせずエレベーターに乗った。そのままエレベーターは降りていった。地下なのか・・・?
エレベーターが開くと、人気の無い廊下にドアがいくつか並んだ。さっきと違い、証明は少し暗く感じた。そして少し温度が低く感じた。
「・・・なんか、怖いですね。」
ビットが振り向く。
「ははは。大丈夫。地下だからそう感じるのかもしれないね。」
ビットが鉄製のドアを開ける。金属音を立ててドアが開く・・・。そこには白衣を着た研究員が数人と、簡素な・・・手術用のベッドがあった。
「なっ・・・?!」
「では、ここにそれぞれ横になりなさい。」
「ビットさん・・・これは?」
「いいから横になりなさい。レッドアイになるために必要なことだ。」
「でも・・・」
「命令だ。」
俺達はレッドアイになるために何をするのか、何をされるのかは何も聞かされていなかった。だからそのベッドを見てかなり動揺した。
「大丈夫。ほんの一瞬だ。」
俺達はベッドに横にさせられる・・・。体を拘束され・・・動けない。何だ?何が・・・。そして研究員が固定された俺の腕に・・・注射が刺された。
「っ!!」
「大丈夫だ・・・苦しいのは一瞬だ。あとは何も感じなくなる。」
何も・・・・?!体が・・・おかしい・・!!熱い・・・痛・・・い!!!
『うわあああああああああああーーーーーーーーー!!!!!!!!』
俺は激痛が走る体で転げ回った。
酷い力が出たのだろう。拘束具が外れてベッドから落ちていたのだ。
ただ痛みに耐え切れず叫んでいた
全身が焼けるように熱かった。
左目が取れて落ちそうだ。
『あああああああ・・・・・!!
れ、レオ!!レオ・・・・・』
俺は隣のベッドにいたレオを探した。だがそこに、レオはいなかった。そこにいたのは・・・レオじゃなかった。
床を這いずり回っていた俺の視界には、瞳が紅く染まった、そしてその目が巨大化し眼球から飛び出したまま動かない・・・さっきまでレオだったものだった。
「う・・・うぎゃああああああああああ!!!!!!」
俺は痛みと驚きと恐怖で叫んだ。その部屋の、奥のドアが少しだけ開いていた。その奥の部屋からは人間の
手が見えた。何体か・・・死体が放置されている・・・!!!!レッドアイになるために・・・これは・・・何なんだ?!?!動かなくなったレオを見下ろして研究員達の会話が聞こえる。
「もうだめだなこれは。廃棄だ。」
「そっちはどうだ?」
のた打ち回る俺を研究員達が上から覗き込む。
「うっ、ぐうううぅっ、、・・がああぁ・・・。はあ、はあ、はあ・・・」
「どうだ?それは?もう10分だ。」
「落ち着いてはきましたが・・・痛みがあるようですね。」
「眼球が左しか赤くなっていない。」
「惜しいが・・・失敗だな。」
「廃棄だ。」
「この2体は、先の失敗作と一緒に焼却炉に」
「はい。」
「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ・・・」
は・・・廃棄・・・?
俺は痛みは治まったが、今度は動機が止まらなくなっていた。奥の部屋へと研究員に足を引きずられる。奥の部屋にあった死体の上に無造作に投げられる。そこから、思い通りに動かない体で、部屋の様子を見ていた。
「そっちは?」
「成功だ!!」
「2体か。こんなものだな。」
俺達と一緒に来た二人だ。拘束具が外される。目が赤くなっているが・・・目に光が無い。表情がない。
「よし。付けろ。」
ビットが命じ、研究員が二人の首に、金属の首輪のようなものをつけた。
「つけました!」
「よし!立て!」
二人はむくりと立ち上がった。両目から血が流れている。鼻血と涎が流れているが、拭こうともしない。
「よし!いくぞ!」
ビットと研究員と二人が部屋から立ち去る。研究員が二人、残った。一人がレオだったものの足を持つ。もう一人が俺の脚を持つ。そのまま引きずられる。俺は体が麻痺して、動けなかった。ただただ荒い呼吸を繰り返していた。
「・・・こいつ生きてるぜ。」
「どうせすぐ死ぬ。」
「そうだな。」
研究員が俺を見てそんな会話をして・・・そのまま俺は、ダストシュートの中に落とされた。随分高いところから落ちたが、レオの体の上に俺は落ちたので無事だったようだ。
俺は、焼却炉の中、廃棄物として投げ込まれた死体に埋もれながら、少しずつ体が楽になってきたのを感じた。動機は治まったし、左目の出血は止まった。麻痺は少しずつ痺れに変わり、体が自由になってきた。そして―どのくらい時間が経ったのかは分からないが、俺は生きているものが他にない焼却炉に立ちあがっていた。
―俺は、レッドアイになれなかった。
そして憧れていたレッドアイは、人間としての意思は失くしていた。
レオは死に、俺は失敗作として、廃棄物として焼却炉に投げ込まれた。
そして残ったのは、不完全な紅い左目と壊れかけた肉体。
人間とはいえない体を引きずって、それでも、俺は生きたいと思った―。
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