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はいいろの精霊憑き  作者: 果物のぐみぐみ
第2章 新たな出会い

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2-3.優しい漁村

2-3.優しい漁村


「昼前に着けたな」

 ルークは緩やかな坂を下り、漁村へ足を踏み入れた。


 木造の家々が肩を寄せ合うように並び、その間を細い道が海へ向かって伸びている。

 軒先には漁網が干され、木桶や樽が積み上げられていた。

 家の前では老人が網を繕い、道端では子どもたちが貝殻を並べて遊んでいる。

 ルークは、村人とあいさつを交わしたり、子どもたちと手を振りあったりしながら、ゆっくり歩いた。


 潮風が頬を撫でた。

「これが海の匂いか」

 ほんのりと塩の香りを含んだ風に、ルークは思わず呟いた。

 甲高い鳥の鳴き声が響き、ルークは空を見上げた。

 白い鳥が何羽も旋回し、ときおり海の方へ急降下していく。


 ルークは無意識に足を速める。

 建物の隙間から見える海が、歩くたびに少しずつ大きくなっていく。


 やがて視界が開けた。

 陽光を受けた海が、どこまでも青く輝いていた。

 波は穏やかに砂浜へ寄せては返し、その向こうでは大小さまざまな漁船がゆっくりと揺れている。


「すごい」

 ルークは息を呑んだ。


「お兄さん、旅の人?」

 しばらく立ち尽くしていると、背中から声が聞こえた。

 振り返ると、少女が立っている。

 簡素な弓を肩にかけていた。

 日に焼けた小麦色の肌。肩まで伸びた黒色の髪の片側を細かく編み、桃色の貝殻の髪飾りをつけている。

 年はルークより少し下だろうか。人懐っこい笑みが印象的だった。


「ああ。君は村の人?」

「うん」

 少女は頷くと、ルークの隣へ歩いてきて、一緒に海を見つめた。

「海は初めて?」

「初めてだ。採集に来たんだけど」ルークは苦笑する。「思ったより大きくて、見入ってた」

「ふふふ」

 少女も海へ目を向ける。

「わたしは毎日見てるから慣れちゃった」


 そのとき、動物の鳴き声が聞こえた。

「ミャーオ」

 あたりを見渡すが、姿は見えない。

「あれ、おかしいな」

 ルークは辺りを見回した。

 少女が空を指差す。

「上だよ」

 白い鳥が二羽、大きく旋回していた。

「あれ、ウミネコっていうんだよ」

「さっきの鳴き声、鳥の鳴き声だったってことか?」

「うん。猫みたいな声でおもしろいでしょ」

「へえ、不思議な鳥だな」

 ルークが感心したように頷くと、少女は少しだけ得意そうに笑った。

「わたし、ミナ」

 ルークもつられて笑みを返す。

「俺はルーク」

「もしかしてだけど」ミナは首をかしげる。「採集ってことは、傭兵なの?」

「ああ。グラントで貝殻を納品する予定なんだ」

「やっぱり」

 ミナの目が少し輝く。ルークの腕飾りを指さした。

「ねえ、貝殻を探すなら綺麗な場所を知ってるよ。その腕飾りについてるような貝殻も採れると思う」

「本当?」

「案内するよ」少しだけ照れたように笑う。「その代わり、もしよかったら、傭兵のこと、聞かせてほしいな」

「話くらいなら構わないが」

 ルークは苦笑して、頭をかいた。

「期待するような話はできないと思う」

「どんな話でもうれしいよ」

 ミナは肩にかけた弓を軽く叩いた。

「わたしも、もうすぐ村を出るから」

「村を?」

「うん」


 ミナは、視線を海に戻す。


「傭兵になるために」


 ――――――――――――――


 二人は波打ち際を歩き、砂浜の端へ向かった。

 岩場が増えるにつれて、砂の上には大小さまざまな貝殻が散らばっている。


「この辺りなら、綺麗なのが見つかるよ」

 ミナがしゃがみ込み、一枚の白い貝殻を拾い上げた。

「ほら、こういうの」

「本当だ」

 ルークも腰を下ろし、砂の中から貝殻を探し始める。


 丸いもの、細長いもの、白いもの、淡い桃色に光るもの。


 森で薬草を探すのとはまるで違うが、不思議と夢中になれた。

 しばらく拾い集めていると、ルークが口を開いた。


「そういえば」

「うん?」

「なんで傭兵になりたいんだ?」


 ミナは手の中の貝殻を眺めながら、小さく笑った。


「昔から憧れてたの」

「憧れ?」

「うん」


 それ以上、ルークは何も聞けなかった。

 ただ一言だけ、「そうか」と返して、手元の貝殻に意識を戻した。


 ――――――――――――――


 気がつけば、太陽はすっかり頭の真上まで昇っていた。


「お昼にしよっか」


 ミナは砂浜に腰を下ろし、小さな布包みを広げる。

 中には、こんがり焼かれた魚と、小さなおにぎりが並んでいた。


「うまそうだな」

「ルークは?」

「保存食しかないけど」


 鞄から干し肉と固いパンを取り出すと、ミナがくすりと笑う。


「じゃあ交換しよう」

「え?」


 ミナは、焼き魚を半分に割り、おにぎりをひとつ差し出してくる。

 代わりにルークも干し肉を渡した。

 一口食べた瞬間、思わず声が漏れる。

「うまい」

「ほんと?」

「ああ」

 焼き加減も塩加減も絶妙だった。


「こんなに美味しいお弁当と交換なんて、申し訳ないな」

「ううん」ミナは首を横に振り、にこりと笑う。「楽しいよ」

 その笑顔につられ、ルークも笑った。

「ありがとう」


 潮風が吹き抜ける。


 二人は海を眺めながら、旅の話や村の話を、ゆっくりと交わした。


 ――――――――――――――


 日が傾き始めるころ。


「案内してくれて助かった」

「ううん。わたしも色々と話が聞けてよかったよ。じゃあ、またね」

「ああ、また」


 手を振るミナを見送り、ルークは村の中へ戻っていく。

 今夜はこの村で一泊し、明日の朝にはグラントへ向かう予定だ。


 夕暮れに染まる漁村には、家々の煙突から夕餉の煙が立ち上り始めていた。


 潮の香りに、魚を焼く香ばしい匂いが混じる。


 ルークは小さな宿屋の看板を見つけると、静かに扉を開いた。


 ――――――――――――――


 翌朝、村には怒号と悲鳴が響き渡った。

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