2-2.焚き火のあたたかさ
2-2.焚き火のあたたかさ
その夜、ルークは他の乗客たちとともに焚き火を囲んでいた。
若い護衛が周囲を見回ってくれており、乗客たちは夕食を口に運ぶ。
「ねえねえ、おにいちゃんは炎の魔導士なの?」
乗客の子どもが、ルークにキラキラとした目を向ける。
「いや、違うんだ」
「ええ、僕見たもん。炎で敵をやっつけるの見たもん」
「あれは魔石のおかげだ、訓練すれば誰でも使える、火おこし用の魔法だよ」
「なあんだ、つまんない」
「あはは」
子どもの正直な反応に、ルークは笑い声をあげた。
「こら、この子は恩人に向かって、すみませんルークさん」
慌てて父親がルークに謝る。
「いや、いいんです」
「だが、鮮やかな戦い方だったな」
ディーンが言う。
「うんうん、わたしもそう思う」
「ディーンさん、サラさんまでやめてくれ」
ルークは苦笑して鼻をかいた。
「魔法の使い方も良かったけど、突きもすごかったねえ。狼が避ける前に体向けてなかった?」
「うむうむ、見事だったな」
ルークは照れながら顔に手をやっていたが、ふとディーンとサラの顔を見る。
「あれ」
間の抜けた声を出して、顎に手を当てる。
「というか、ふたりも戦ってたよな? なんでそこまで」
「ふつうに見てたけど」
「え」
ルークが口をぽかんと開けているのを見て、サラがにやりと笑う。
「いや、わたし狼に近かったし、槍はリーチ長いしすぐ終わって」
「そういう問題か? でもディーンさんは奥のを相手にしてたし」
「護衛として、一応全体を見ながら戦ってたからなあ」
ディーンはがりがりと頭をかきながら言った。
「すごい」
顔に手を当て、あいた口がふさがらないルークを見て、サラがついに吹き出した。
「反応が可愛い。ルークくん、戦ってるときはかっこいいのに」
焚き火を囲みながら、他愛もない話は夜遅くまで続いた。
ふと焚き火に手をかざす。じんわりと指先が暖まっていく。
楽しそうに笑う乗客たちを見渡すと、不思議と胸の奥まで温かくなる気がした。
ルークはこの馬車を選んでよかったと思った。
「ルークくんもこのままグラントに向かうの? 着いたら案内してあげよっか」
「いや、途中で降りるつもり。すぐそこの漁村で採集する予定なんだ」
「そうなんだ。そのあとは?」
「俺もグラントに向かう予定だ」
「じゃあグラントついたら声かけて。ランゼルクの道場ってとこ、わかりやすいと思う」
「わかった、きっと顔出すよ」
しばらくして、乗客たちが焚き火の周りで眠りについていく。
ルークは昼の狼のことを思い出して、見張りを申し出たが、御者から丁寧に断られた。
御者と護衛がふたりずついるため、問題なく対応できるとのことだった。
ルークは枕元に鈍色の魔石を転がす。
その後、枕元に置いた装備を確認して、眠りについた。
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ルークは夜明けとともに目を覚ました。
寝袋から這い出て体を起こす。
大きく伸びをすると、枕元に転がしておいた魔石を拾い上げ、立ち上がった。
魔石を朝日にかざすと、淡く赤色に光る。
「おはよう」
顔を向けると、寝具を片付ける乗客と目が合う。
御者や乗客たちも起き出して、食事の用意を始めている。
「おはよう」
ルークも笑顔で挨拶を返す。
御者から、豆のスープと焼いた芋が差し出された。
礼を言って受け取ると、腰を下ろして芋を齧った。
懐から小さな青色の魔石を取り出して握り、魔法を発動してコップに水を注ぐ。
周りの人のコップにもお裾分けしていく。
そんなルークの姿に、乗客の子どもが羨ましそうな顔をした。
「早く魔法使いたいなあ」
ルークは優しく微笑む。
「キミは何歳なんだっけ」
「まだ6だよ」
「そうか、あと4年、我慢だな」
「それ痛かった?」
子どもが、ルークの左手を指差す。
「痛い?」
子どもの問いかけに、ルークは首をかしげる。
「あっくんが言ってたよ。魔法陣をつけるとき、どうしようもないくらい痛いって」子どもが両手で自分の体を抱く。「運が悪いと死んじゃうって言ってた」
ルークは突拍子もない話に吹き出しかけるが、子どもの切実な表情を見て、優しく笑って答える。
「いや、ちょっとピリっとするぐらいだ。人によるかもしれないが、俺の時は誰も痛がってなかったぞ」
「ほんとに?」
「大丈夫だから安心していい」
ルークの言葉に安心したのか「よかったあ」と言いながら、笑顔の子どもが芋を頬張った。
みんなで協力して後片付けをすませると、馬車は野営地を後にした。
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「もうそろそろ漁村に着くぞ」
振り返った御者が言う。
「ああ」
ルークはうなずき、荷物を整える。
装備や小物などを確認する。
ルークは肩を叩かれて顔を上げる。
隣に座るサラと目が合った。
「グラントに着いたら、ちゃんと寄ってね」
「もちろん」
「道場の名前、覚えてる?」
「え」
ルークは一瞬固まり、狼狽して顔の前で手をばたばたと動かす。
「うん、えっと、あれ?」
サラが苦笑する。
「しょうがないなぁ、これあげるよ」
サラは腰のポーチから、小さな腕飾りを取り出した。
「え、いいのか?」
「うん、道場で作ってるやつ」
貝殻に紐を通した簡素な腕飾りだ。
「お土産で売ってるやつだから気にしないでいいよ」
よく見ると、貝殻に文字が刻まれていた。
「ランゼルク」
ルークが言うと、サラは満足そうに笑う。
「約束だからね」
「ああ」
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馬車が漁村の近くで止まる。
ルークは荷物を背負い、馬車から飛び降りた。
「お兄ちゃん、またね!」
子どもが元気よく手を振る。
ルークも笑って手を振り返した。
「みんな、元気で」
「おう、お前もな」
「またな」
「頑張れよ、若い傭兵さん」
馬車がゆっくりと走り出す。
小さくなっていく馬車を見送り、ルークは一度だけ漁村へ視線を向けた。
「よし」
小さく呟くと、漁村に向かって歩き出した。




