1-4.なみだの光
1-4.なみだの光
ルークは街に戻ると、さっそく旅立ちの計画を立てることにした。
「まずは、どこに行くか決めるか」
ルークは、ギルドの図書室に向かった。
昼下がりのギルドは閑散としており、図書室も利用者はいないようだ。
地域の特徴が載っている地図帳を選び、窓際の席に座る。
男からはグラントを勧められたが、念のため他の地方も確認していく。
いくつか良さそうな候補が見つかるが、特に決め手はない。
あの男は、なぜグラントを勧めたのだろう。
そんなことを考えながら、ルークはグラントのページを開いた。
グラントは、大陸の西端に位置する、辺境と呼ばれる地域だ。
山脈に囲まれており、精霊にゆかりのある場所も多いと記載されている。
もしかしたら、自分の能力を掴むきっかけになるかもしれない。
そうでなくても、魔法の能力の向上など、できることは多そうだ。
グラントのページをペラペラとめくっていると、魚料理の特集ページが目に留まる。
ぐうっと、お腹が鳴った。
ルークは、苦笑しながらお腹に手をやる。
「暮らすなら、料理も大事だよな」
ルークは自分の言葉に、小さく笑う。
「よし、グラントにしよう」
ルークは席を立つと、図書室の司書に声をかける。
書類仕事をしていた司書が顔を上げた。
「ちょっといいか、地図を買いたいんだけど、ここからグラントまでの地図はある?」
「いくつか種類があるけど」
司書が棚から数枚の地図を取り出すと、カウンターに並べていく。
ルークはうんうんと唸りながら、地図を手に取り見比べる。
悩むルークに、司書が話しかける。
「グラントは遠いから、宿場町や旅の宿が載ってると困らないよ」
ルークは顔を上げて、司書の言葉に「なるほど」と返す。
「できるだけ安いのがいいんだけど、おすすめを教えてくれ」
「それなら」
司書が小ぶりの地図を手に取る。
「これがいいと思う。必要な情報は最低限載ってるし、その中でも安いよ」
ルークは地図を受け取る。
「それに」司書は本棚を指さす。「調べて必要な情報をメモする傭兵も多いよ」
「いいね、じゃあこれをください」
ルークは司書に勧められた地図を選び、代金を支払った。
「依頼、頑張って」
「ありがとう」
司書の言葉に笑顔で礼を返し、ルークは席に戻った。
地図を眺めながら、旅の計画を進めていく。
「どうせなら、できるだけ精霊祠も寄って行きたいな」
グラントまでの道のりは長い。
できる限り有意義な旅にするため、ルークは懐から魔炭筆を取り出し、購入した地図に細かくメモを記入した。
「あとはギルドへの報告と、旅支度だな」
ルークは立ち上がると、地図帳を本棚に戻す。
司書にもう一度お礼を言うと、図書室を出てギルドの受付に向かった。
ギルドは先ほどよりも少しだけにぎわっていた。
依頼を終えた傭兵が、少しずつ戻ってきているのだろう。
ルークは壁際に立ち、受付が開くタイミングを待つ。
馴染みの受付嬢が空いたのを見て、足早にカウンターに立った。
「こんにちは」
受付嬢とあいさつを交わす。
「実は活動拠点を変えようと思って」
「え」
ルークが差し出した紙をみて、受付嬢が動きを止める。
「グラント。そうなんだ、遠いね」
「うん、しばらく向こうで頑張ってみる」
受付嬢は少しだけ寂しそうな顔を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「そうなんだ、頑張って」
ルークも微笑みを返す。
「うん、そっちも元気で」
「書類は受け付けました。いつか、ちゃんと無事に帰ってきてね」
ルークは頷くと、ギルドを後にした。
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その夜、ルークは宿屋の自室で酒を飲んでいた。
窓際の机に座り、ナッツをかじりながら酒をすする。
地図を広げ、図書室で記入したメモを確認する。
「今日は久しぶりに良い日だったなあ」
思わず、そんな言葉が口に出た。
なんだか嬉しくて、微笑みがこぼれた。
窓の外から、やわらかい風が入り込み、ルークの前髪をなでた。
酒で火照った体に、夜風が心地よい。
外に意識を向けると、街の喧騒が聞こえてくる。
酒を飲んだ帰りだろうか、男たちの威勢の良い声が響いた。
ふと、傭兵として活動してきた日々が思い出された。
「まだ、やっていける」
自分を励ますために、繰り返し口にしてきた言葉。
ルークは、地図を小さくなでる。
コップを手に取り、窓から月を見上げる。
酒を一口飲んでから、今日も同じように「まだ、やっていける」と呟いてみた。
その瞬間、視界が開けたような感覚がした。
大きく光る月、向かいの屋根の色、街の明かり、街路樹の輪郭、夜空に広がる星々。
景色が目に飛び込んでくる。
耐えるための言葉だった「まだ、やっていける」。
未来の機会を思い描いた「まだ、やっていける」。
宿屋でひとり泣いていた、あの日々のように、涙が溢れてくる。
涙がぽとりと、手の甲の魔法陣に落ちる。
月明かりに照らされ、きらりと光った。
ルークは涙を拭わずに、ナッツをかじり、酒をすする。
頬を流れる涙の感触が心地よかった。




