4-15.帰還
4-15.帰還
森の中を歩いていると、やがて木々の切れ目が見えてくる。
ルークは無意識に歩調を上げた。
広々とした草原に出ると視界が開けた。街道の低い石塀が見え、ルークは小さく息を吐いた。
日光を遮るものがない街道は明るく、開放感があった。両腕を上げて、うーんと身体を伸ばす。
隣に目をやると、同じく身体をほぐしているソルと目が合った。
「やっぱりちょっと気を張っちゃうな」
「見通しが効かない場所を歩くときはどうしてもね」
共に歩いていた真ん中グループに配置されていた傭兵たちも次々に森から出てくる。
ルークは振り返り、先ほどまで歩いていた森を見ていると、背後に配置されていた偵察役の傭兵が颯爽と森から出てきた。
ルークの視線に気づくと、微笑んで手を上げた。
傭兵たちは数台の馬車に分乗してグラントに戻る。
ルークたちもそのうちの一台にまとまって乗り込んだ。
御者が手綱を操作すると、馬車が走り出した。
サラが3人の顔を見回す。
「初めての合同依頼、どうだった?」
「うーん、死にかけたけど面白かったね」
ソルがのほほんと答えた。
ルークとミナはソルの言葉に苦笑した。
「そうだね、村での狩猟とは全然違ったよ」
「でも普通のコボルト相手の連携は、上手くいってたよな」
「ミナの指示はすごかったね」ソルが笑った。
「ああ、戦闘終了後も、隊列維持って言ってくれるのは助かるよな。ついついその場で息を整えちゃうから」ルークもソルの言葉に頷きながら言った。
「ルークとソルの連携もすごかったよ。魔法と組み合わせて、お互いに戦ってる相手を入れ替えたりして」
「ルークの魔法も良かったよね。練習通り、連射や魔石の節約もバッチリできてたね」
「変異体相手にはすぐに魔石を空にしちゃったけどな」ルークは苦笑した。
3人の言葉にサラは頷いた。
「そうね、変異体のことは置いといて、予定の連携はバッチリ決まってて気持ちよかったわね」
「そういえば」ルークはサラの顔を見た。「臨時でフォローに入ってくれて本当にありがとう。サラさんがいなかったら変異体が出て来たときに全滅だったよ」
ルークはサラに笑顔を向けた。
「今日だけじゃなくて準備のときも色々助けてもらったもんね」ミナもルークの言葉に続けた。
ソルも笑顔で「ありがとう」とふたりの言葉に感謝を重ねた。
サラは少しの間黙っていたが、小さく息を吐いて笑顔を見せた。
「ううん、わたしの方こそ、臨時で入れてもらえてよかったわ。またぜひ誘ってちょうだい」
「しかたないな」ルークたちから少し間を空けて座っていたユーゴが口を開いた。
ユーゴは馬車の中で器用に立ち上がると、サラの隣に座った。
「どうしたの? ユーゴさん」
サラは驚いて顔を上げた。
ユーゴは難しい顔をしたまま頭をかいた。ルークには、ユーゴが少し赤面しているようにも見えた。
「ルーク、ミナ、ソル、ちょっと相談があるんだが」
「どうしたのくまさん」ミナは首を傾げた。
ユーゴは咳払いすると、サラの肩に手を置いた。
「こいつをパーティに入れてもらえないか」
ユーゴの言葉を聞いてサラは驚いて声を上げる。
「ちょっとユーゴさん! 急に何を」
「さっきの様子を見ると、パーティ加入の相談をしてないんだろ? 道場で話したときに、パーティに入りたいって言ってただろ」
「勝手に言わないでよ」サラは目を三角にしてユーゴの顔を見た。
「シオンから、お前が固定パーティに入ってないことを相談されてるんだよ。ランゼルクの門下生の俺からしても、お前は妹みたいなもんで心配ではあるんだ」
ユーゴは言葉を切ると、ルークたちの顔を見回した。
「この3人はいいやつだしな。それにパーティのバランスを考えると、ルークたちにとっても悪い話じゃないはずだ。入りたいんだろ?」
サラは俯いていたが、少し顔を赤くしながら上目遣いでルークたちを見た。
「うん、パーティに入れてほしい」
ルークたちはユーゴの話を聞いているうちに3人とも笑顔になっており、微笑みながら顔を見合わせると頷きあった。
ミナが小さく手を上げて口を開く。
「赤茶色の熊のぬいぐるみをバザーで探さないとね」
「み、ミナちゃん」そういうとサラはミナに抱きついた。
ソルはミナの言葉を聞くと、不満げに顔を歪めた。
「ええ、俺は恥ずかしいから熊のぬいぐるみは外したいよ」
「ダメだ」
ルークはソルの言葉に首を振った。
「俺も最初は恥ずかしかったが、今は気に入っててな。あれはうちのパーティの印にしよう」
「うん、そうしよう」ミナはルークの言葉に頷くと、嬉しそうに言った。
「かわいいパーティの印ね」サラも笑顔を浮かべた。
「あ、それで思い出した。ルーク、返してよ」
ソルがルークに手を突き出す。
「ん? 何をだ?」ルークは首を傾げた。
「何って、剣の飾りだよ! まさか置いてきてないよね……」
ソルは口を突き出して、目を細めてルークを見た。
「あ! いや、多分カバンに入れたはずだ」
「多分って……」
ルークは身体を捻って鞄をあさると「あ」と言って腕を奥の方に突っ込んだ。
「へへへ、あったあった」
ソルに剣の飾りを手渡す。ソルは剣の飾りを確認するように、優しく手で撫でた。
「へへへじゃないよ。大切に扱ってよね」
「剣の飾り? そんなの持ってたんだ?」
ミナは興味が無さそうに、座席に背を預けたままソルの手を見た。
ルークはミナの反応に苦笑する。
「一番でかいコボルトに油矢を使ったときに、俺はソルから魔石を投げ渡されて魔法を撃ってただろ?」ルークはミナに視線を向けながら言う。「あのとき、この飾りについている魔石で魔法が撃てたんだよ」
「そうなんだ?」ミナは少しだけ身を乗り出して、飾りの魔石を確認するようにした。
「熊のぬいぐるみの店で一緒に買ったんだよ」ソルはミナの方に手を出して見せつけるようにした。
「へえ、あ、そういえばなんか会計に時間がかかってたね」
「そうだ、これもお揃いに」
「それはいらない」ソルの言葉をルークとミナは遮った。
ルークとミナの反応に、サラが笑い声を上げた。
「ふたりとも優しいのに、こういうところははっきりしてるのね」
「なんだよー」
ソルは頬を膨らませて、剣の飾りの魔石を指で擦った。
「うーん、魔素がなくなって鈍色になっちゃってるね」
「小さくても魔石だろ? 月明かりに晒しておけば、回復しないかな?」
「そうだね、今日の夜に試してみるよ」
馬車は順調に道を進んだ。
草原の彼方には、グラントの城壁が夕日に照らされて赤く染まっていた。
ルークはグラントに来た日のことを思い出していた。
あの日も、仲間になりたてのミナやソルとともに、馬車に揺られながらグラントの城壁を見ていた。
「なんだか、初めて来たときとは違って見えるな」
ルークは横に座るミナとソルに声をかけた。
「ああ、そうだね」
「わたしの村を出てから、いろいろあったね」
「そうだな、グラント領に来てよかったよ」
ルークはグラントの城壁を見つめたまま、小さくつぶやいた。
街に近づくにつれ、街道の路面もより安定し、馬車は速度を強めた。
ルークは風を顔に受けて灰色の髪を宙に躍らせながら、街に着くまで城壁を見つめていた。




