4-13.偵察に向かない、向かわない
4-13.偵察に向かない、向かわない
傭兵たちが街道に向かって進んでいるころ。
ミナは、ユーゴとティナの背中を小走りで追いかけていた。
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ミナはコボルトの巣を出発する際に、リフィルから完治のお墨付きをもらっていた。
選抜メンバーで偵察することを聞いたミナは、指揮を執るカレンの元に向かった。
「わたしも偵察を手伝えないかな?」
カレンとバルトに近寄り、ミナはふたりに話しかけた。
「いや、銀級がこれだけいれば大丈夫よ。ミナは足を怪我してたよね? 真ん中のグループにするよ」
そう言いながら、カレンはバルトの顔を見る。カレンの言葉にバルトも頷いた。
ミナは指示に従い、ルークやソルとともに歩き出した。
そこを同じく偵察メンバーから外されたユーゴとティナが「暇だ暇だ」と通りかかった。
「みいちゃん、バルくんとかっちゃんに話しかけてたねー。偵察ダメだって?」
「うん、わたしは真ん中のグループになっちゃった」ミナは微笑んで答えた。
「偵察行ってみたいの?」
「うん、わたしは村で狩猟にはよく行ってたけど……傭兵としての偵察も経験したいな」
「そっかー。ユーくん、みいちゃんに偵察練習させてあげたいねー」
ティナの言葉にユーゴが大袈裟に頷いた。
「これは、先輩として協力せざるを得ないな。お、ティナ、リフィルがいるぞ」
「リフィちゃんー、みいちゃん元気だよねー?」
ティナは近くにいたリフィルの腕を掴んでミナの状態を確認するが、リフィルは口を閉ざして視線を逸らす。
ユーゴもリフィルに顔を近づけるが、リフィルはさらに身体を反転させて離れようとする。
ティナはリフィルの腕にしがみついた。腕に巻き付くようにして身体を寄せる。
ユーゴは素早く立ち位置をずらしてリフィルに向き合うと「怪我を心配する気持ち」であるとか「黒曜石が考えるべきグラント傭兵の成長」などを唾を飛ばして捲し立てた。
ユーゴの硬軟織り交ぜた必死の交渉に、リフィルは舌打ちして眉間に皺を寄せた。
リフィルは「うざ」と小さく呟くと、周囲の魔素を利用して光魔法を発動する。リフィルの左手の甲が白く輝いた。
ルークは隣を歩くソルに顔を寄せると「黒曜石の回復職の肉体活性だ!」と興奮気味に囁いた。
リフィルは光魔法を使って肉体を強化すると、左手でユーゴの身体を持ち上げる。
次いで、ティナが巻きついたままの右腕も上げていく。
バルトが近寄ってきてため息をついた。
「ミナ、さっき偵察に協力したいって言ってたよな?」
「あ、うん。せっかくだし経験しておきたいと思ってるよ」
ミナは小さくぴょんとジャンプして「足も平気」と言った。
バルトは頭をガリガリとかくと、ミナに身体を向けて小さく頭を下げた。
「ミナ、すまないが、ウチのパーティのアホふたりの引率を頼む」
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その後、ミナはユーゴやティナとともに森を移動していた。
ユーゴは大振りな盾とショートスピアを手にしており、かたやティナも巨大な棍棒を振り回しながら走って行く。
ふたりはあまり足音を立てずに走っており、ミナはふたりの走る姿勢を観察しながら後ろを付いて行く。
ふと少し上を見ると、木々の隙間からわずかに青空が見えた。
太く背の高い木々が多く、競い合うように葉が生い茂っている。日光が遮られ、昼であるにもかかわらず、森の中は薄暗かった。
「みいちゃん大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
ミナは額に汗を浮かべてはいるものの、呼吸を乱さずに軽やかに走っていた。
「熊の子は努力家だからな」
ユーゴがそう言うと身体を真横に向けた。
頭や腰を真横に向けたまま、脚を交差するように動かして、巧みな足捌きで走り始めた。
ティナがそれを見て真似をする。
森の地面は折れた枝や岩などが多く転がっており、ところどころに巨大な木の根っこも顔を覗かせている。
ミナは漁村で暮らしていたときは、村の大人たちの狩猟にも積極的に参加して、森での動き方を身体で学んできた。そんなミナでも、この地面では走るのに集中力を要している。
ユーゴとティナはそんな悪路であるにもかかわらず、速度を落とさずに器用に走り続ける。それどころか、視線を合わせると、ニヤリと笑って速度を上げていく。
「あの、偵察だよね?」
ミナは躊躇いがちにふたりに話しかけた。
「安心しろ、俺たちは偵察の頭数には入ってない」
ユーゴが顔を向けずに答えた。
「そうそう、バルくんがわたしとユーくんは活躍したから偵察はいいって言ってたよー」
「ああ、是非ゆっくりと過ごしてくれって言われたぞ」
「バルくんは優しいよねー」
「ああ、ウチの頭脳は人格も優れているよな」
そう言うと、ユーゴとティナは頷きあった。
「まあ、なんとなく事情はわかったよ」そう言いながら、ミナは苦笑した。
「だからみいちゃんも走ろう!」
「えっと、それはそれでいい訓練になりそうなんだけど、せっかく森の中だし偵察のことが知りたかったな」
なおも食い下がるミナに、ティナは「あ」と言って申し訳なさそうな顔をした。
「そういえばそういう話をしてたね、ごめんよみいちゃん」
「ううん、大丈夫だよ!」
ミナの言葉に、ユーゴは自分の胸を叩いた。
「よし、俺に任せておけ。ついてきてくれ。バルトから全体の配置を聞いてる」
ユーゴは背を向けて走り出した。
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少し走ると、ユーゴは足を止めた。
「この辺のはずだが」
なぜか声を潜め、足音を抑えて歩き出す。
ティナとミナも、ユーゴの真似をして姿勢を低くしながら、首を動かして周りを伺った。
「わたしたちがこの方角を受け持つのかな?」と、ミナは隣のティナに話しかけた。
ティナは「なんだろうねー」と答えた。
しばらくすると、ユーゴは「おかしいな」と言いながら、少し開けた空間に歩み出た。
ミナは木陰から興味深げにユーゴの姿を目で追った。
ユーゴは身体を伸ばして視点を高くして、首を回す。
「あれ? 今本隊があの辺だから、この方角のはずなんだが」
そう言いながら、ゆっくりと身体を回すようにして、前後左右を伺う。
ミナは首を傾げながら、ユーゴを見つめていたが、「あ」と声をあげると慌てて口を押さえた。
ユーゴが横に向かって歩き出すと、ユーゴの身体に隠れるようにして、細身の男が立っていた。
「ユーゴさん何してんの?」
「うお」
ユーゴが小さく声を出して、ぶるっと身体を震わせた。
「誰もいないことを確認したはずの場所から声が聞こえるのは、相変わらず心臓に悪い。速く動いてるだけなら絶対に気づけるんだが」
ユーゴは身体を男に向けると、小さく息を吐いた。
「みいちゃん、あれは熊の森のメンバーのフェインだよー」
「今どこから出てきたの? 気づいたらユーゴさんの向こうにいたけど」
ミナはフェインの周囲を眺めるが、近くに木など遮蔽物は見当たらない。
「上も横も隠れる場所なんてなかったし……もしかして地面?」
ミナが身を乗り出すと、隣のティナが難しい顔をして腕を組んだ。
「わかんない、びっくりさせるのが趣味だから教えてくれないよー」
ティナはそう言うと不満げに口を尖らす。
「俺は偵察してただけなんだけど」
そう言うと、フェインは苦笑した。




