4-12.あとかたづけ
4-12.あとかたづけ
その後、傭兵たちは後片付けに追われていた。
周囲の見回りを機動力が高いクロノパーティに任せ、各員はコボルトの解体のために巣穴の中に戻っていく。
出口や巣の中には夥しい数のコボルトがおり、傭兵たちは武器や小物の素材となる牙や爪、防具の内張など汎用性がある毛皮を剥ぎ取っていく。
あまりにも数が多いため、状態が良いものに限って対応する方針となった。
多少のだるさはあるが動けるようになったルークは、立ち上がって身体を回していた。
「おいルーク」
マシューがルークを呼んだ。
「この小さい変異体、おまえが倒したんだよな?」
「ああ、ギリギリだったけど」
「巣穴にも似たようなやつが何体かいたが、こいつの骨はすげえぞ。柔軟でしなやかだ。いい弓の素材になる」
「なるほどな、ところで変異体って?」
「ん? ああ、こいつらは変化してから出てきてたのか。巣穴でな、目の前でコボルトが変化するのを見たんだよ」
ルークは驚いて声を上げた。
「変化って、こいつや、でかいのも、あの普通のコボルトと同じだったってことか?」
ルークは岩壁側に寄せていた、普通のコボルトの亡骸を指差した。
「すべてがそうなのかはわからねえ。ただ、巣穴のど真ん中だったから相当な数がいたからな。巨大化したやつも、小さく俊敏になったやつも、どちらもいたぜ」
「そうだったのか……」
ルークは岩壁側のコボルトたちに再度視線を送ると、ぶるっと身体を震わせた。
「もしあの数のコボルトがすべて変異していたら……」ルークはつぶやいた。
「ああ、熊の森は生き残るかもしれねえが、ほぼ全滅だっただろうな」
ルークはごくりと唾を飲み込んだ。
「グラントには、こういったことが多いのか?」
「いや、俺はずっとグラント領で活動しているが、目の前で変化するのは初めてだ。バルトさんが白穴の樹海で起きるって言ってたが……」
「白穴?」ルークはルスティカのことを連想して、思わず白穴という言葉に反応する。
「白穴がどうかしたか?」
「あ、いや、なんでもない。白穴はずっと遠くだろ?」
「ああ、変だろ? 話に聞くと、あの男がなんかやってたのかもな。あいつも紫の光を放ったらしいし」
マシューは気絶した男を指さした。
「あんたたち」
女の声に、ルークたちは顔を上げた。
「さっきから楽しそうだね」
ルークとマシューの前に女が立っている。腰に手を当て、顎を上げてルークとマシューを見下ろすようにしている。
「やべえ、ルーク、作業を再開しよう」
「あ、ああ、そうだな」
女は、ふんっと息を吐くと、大コボルトの方に歩いて行った。
「俺のパーティのエマだ。コボルトより凶暴だから気をつけろ」と、マシューはルークに耳打ちした。
「マシュー!」
「うおお! なんで聞こえんだよ」
「あんたが若手になんか言うのはバレバレなんだよ!」エマは自分の耳を指さした。「肉体強化で丸聞こえよ!」
「おい、こんなことに能力を発揮するな!」
ルークはふたりのやり取りに笑い声を上げた。
――――――――――――――
その後、後片付けは順調に進んだ。
素材を回収し終えると、コボルトの亡骸は傭兵たちの手で地面に埋められた。
ティナやユーゴ、銀級の前衛たちがスコップを手に、効率よく作業していく。
すべての亡骸を埋めたわけではなく、変異体コボルトの何体かは袋に包み持ち帰る準備が進められていた。騎士団や研究施設に搬送され、謎の男とともに調査が進められることになる。
また、巣穴にはコボルトが周囲から拾い集めていたと思われる鉱石や金品などが見つかった。
巣穴自体の対処も必要とのことだが、あまりに大きいため現状では見送りとなった。盗賊などが住み着かないように出入口のみを崩し、ギルドや騎士団に報告することとなった。
傭兵たちは隊列を組んで街道に向かう。
俊敏なものが選抜され、周囲を偵察しながら街道に向かっていく。中央には後衛担当の者や、怪我を負った者が集められている。ルークやソルも動けるようになってはいたが、真ん中のグループに割り振られた。
ミナは足の痛みがなくなり、問題なく動けるようになっていた。リフィルからもお墨付きをもらっており、「偵察の練習だ」とユーゴとティナに連れられて行った。
「あんなに広範囲に偵察するんだな」
ルークが横を歩くソルに向けて言った。
「そうだね。偵察はどこまで妥協するかだって、じーちゃんが言ってたよ」
「妥協?」
「うん、先に見つけたほうが強いから、偵察してるやつを見つけるために偵察するんだけど、それを見つけるために偵察するって……難しいね」
ソルは手を頭の後ろで組んで、少し上を向いた。
「剣聖様と秘境から出たりしてたのか?」
「うーん、そういえば結局詳しく話せてなかったね。俺のせいで長い期間を秘境から出れなかったんだけど……」
「ああ、グラントに着いた日に言ってたな。落ち着いたときでいいよ」そう言いながら、ルークは軽く手を上げる。
「ありがとう。たまに出ることはあったよ」
「そのときに実践してもらったりしてたのか?」
「いや」ソルは苦笑した。「じーちゃんたちは近づいてくる魔獣の気配とかわかったらしいから。横でお菓子を食べながら、今偵察中とか言ってたけど」
ルークもつられて苦笑した。
「すごすぎて参考にならない」
「ね。でもほんとみたい。子どものころに夜に家を抜け出すと、いつも先回りされてたし」
「夜の秘境で子どものときに? 危なそうだ」
「俺が住んでたところは、魔獣が近寄らない場所だったんだよ」
「へえ、不思議だな。今度連れてってくれよ」
「うん。ぜひ。それですごいのがさ、先回りされてたわけじゃないらしくて」
「ん? どういう意味だ」
「最後まで気づけなかったんだけど、夜に出歩くときはいつもずっと真後ろにいたぞって言われて」
「あはは、さすが剣聖様だな」
「いつかそんなふうになれるといいね」
「ああ、これからも一緒に強くなろう」
ルークとソルは笑いあうと、横向きにした拳を合わせた。




