4-11.グラントの傭兵たち
4-11.グラントの傭兵たち
「みんな! 大丈夫!?」
ルークたちはぽかんと口を開き固まるが、やがて身体から力が抜けるように地面に座り込んだ。
「さすがティナさん、助かったぁ」サラが声を漏らして、寝転んだ姿勢のまま、伸ばしていた腕を地面にぺたんと戻した。
「さっちゃん意識があるんだね? よかったー。倒れてたし心配したよー」
「ティナさん、助かりました」
ルークが座ったままの姿勢で、ティナに向かってぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます」
ミナも言葉を続ける。
「ううん、いいよいいよー。いやー、ふたりともかっこいいねー。さすが熊の子たちだ。あ、カバンのぬいぐるみ、わたしも見てたけどよかったよー」
ティナが満面の笑みでルークとミナを見た。
「みいちゃんはさー」
「みいちゃん?」
ミナがこてんと首を傾げた。
「うん、みいちゃん。わたしは肉体強化が大得意だから五感を全開で走ってきたけど、聞こえてたよー。動けない状態で囮になろうとして、熱いねー、かっこいいねー。熱いの大好きだよー」
「あ、聞こえてたんだ……えへへ」
ミナが照れたように笑った。
「そしてルーくん」
ティナがルークに顔を向ける。
ルークは無防備な表情で「ルーくん」と繰り返した。
「お腹から血を流しながら、さっちゃんの前に立って守って。うーん、王子様だ。王子様がいた。大好物だよー」
ルークは驚いたように顎を上げると、口を真一文字に結び、たちまち顔が赤くなっていく。
何も言えず、たまらず目を閉じて下を見た。
寝そべったままの姿勢で、サラがルークに顔だけ向けた。「おお、相変わらずかわいさが健在だ」と言葉を漏らして笑顔をこぼした。
ルークは赤面したまま「うっ」と声を漏らして、腹を手で押さえながら立ち上がった。
「みんな、応急処置しよう」と声を裏返しながら荷物の方に足を向けた。ふらふらと歩き出す。
3人は顔を見合わせて笑い声を漏らした。
「ちょっとわたしは先に黄色クマくんのほうを見てくるね!」
ティナはそう言うと、ソルのところまで駆けて行った。
ティナとソルはしばらく会話をしていたが、ティナが大きく頷いて「いいねー」と言いながら、ソルを軽々と持ち上げた。
歩きながらふたりに目をやっていたルークは、思わず「うお」と声を漏らした。
「うわあ、自分で這っていくよ!」
ソルが手をじたばたと動かしながら上擦った声で抗議するが、ティナはおかまいなしだ。
「はいはい、そーくん動かないでねー。今は時間ないからねー」
ティナは視線を彷徨わせると、荷物をまとめてある木の根元で視線を止めた。ソルを抱えたまま木の場所まで走ると、ソルを優しく降ろした。
「みんな1箇所に集めちゃお。みいちゃんは自分で動けそう? さっちゃんは任せて」
ティナは機敏に動き回り、ルークたちを荷物のあたりに集めた。
ルークは荷物の横に座り込んで、薬や包帯を取り出す。
「わたしはすぐに動けそう。ちょっと待ってて」
ミナが薬を足首に塗り込んでしばらく待つと、薬が淡く光った。ミナは足首を回すと「よし」と小さくつぶやいた。
「怪しい男を気絶させてるんだよね? ちょっと取ってくるね」
ティナはソルが指差した方向に走っていった。
「みんなティナさんに気に入られたみたいだね」
身体を地面に預けたまま、サラが3人に視線をやった。
「そうなのかな? 嬉しいな」とミナが微笑んだ。
「黒曜石が俺を?」ルークは驚いて口を開けた。
すぐにティナが男を担いで戻ってくる。男を地面に降ろすと、手足の拘束を確認していく。
「うーん、怪しいねー。なんていうか、怪しいよねー。すっごく……怪しいねー」
「そうなの。今日の異常事態の中で巣穴から走り出てきて、こちらを攻撃してきたわ」サラが言う。
「怪しいなー」ティナが頷く。
「ティナさんにはさっき言ったけど、変な薬を飲んでたんだ。身体が紫色の光に包まれて、そのあとすごく強くなって」
ソルの言葉にルークが顔を向けた。
「コボルトたちと同じだな……」
「こんな怪しいのは絶対に逃がせないよねー。ほんとにいい判断だったよー」
ルークはティナの言葉に頷いて、ソルに拳を突き出した。
「やったな、ソル」
ソルは微笑んで拳を合わせる。
「ルークもね。速いやつを倒したときなんて最高だったよ」
サラとミナはふたりを見ると視線を合わせて微笑んだ。
「おまえら、大丈夫か?」
ルークたちが声の方を見ると、バルトが立っていた。後ろにはマシューたち数人の銀級の姿もあった。
銀級たちは変異体コボルトの亡骸を確認している。
「ああ、巣穴を通ってきたんだ」と、バルトは腕を上げて親指を巣穴の方に向けた。
「ユーくんは?」
「分岐で別れた。別の出口に向かったはずだ」
「そうなんだ。あ、バルくん、この子たちがすごいんだよー」
ティナが立ち上がって腕を大きく広げた。
小コボルトと大コボルト、次いで気絶した男を指さした。
「そうみたいだな。一番でかいヤツはティナがやったようだが……これを乗り切ったのか」
バルトは大小2体の変異体に視線をやって、小さく頷いた。
ルークたちを見ながら「これは、ギルドに昇格の推薦をしないとな」と呟いた。
「黒曜石が俺を?」
ルークは先ほどと同じ言葉を口にして、大きくのけ反った。「うっ」と声を漏らし、身体を丸めて腹を押さえた。
――――――――――――――
バルトはルークたちから男の話を聞くと、気絶した男の前にしゃがみ込んだ。
「普通の賊じゃないな」
男の顔に手をやって、口を開かせる。右手だけで器用に口を固定すると、左手で明かりの魔法を発動して男の口内を覗き込んだ。
手を突っ込むと、口内から小さな球体を取り出した。
「毒かな? これは領の仕事だな。傭兵が対処できる問題ではなさそうだ」
「毒?」ルークは声を上げた。
「ああ、捕縛された際に嚙み砕くんじゃないか? 依頼で何度か見たことがある。もっとも今回はソルのおかげで、その暇なく失神したようだが」
バルトは話しながら、共に巣穴から出てきた銀級たちと協力して男の身体を改めていく。
刃物や薬瓶、カバンや書類を男の身体から取り上げては地面に置いた。
「応急処置しようか」
別の銀級の男がルークたちのところに歩いてくると、ルークの前で膝をついた。
ルークの身体を確認すると、腹の傷のあたりに左手を触れた。手の甲から白い光を放った。
しばらくすると、腹の傷がふさがっていく。
「うーん、俺の魔法だとここまでかな」
ルークが身体を動かすと、傷のあたりがぴりっと痛んだ。
「いえ、ありがとうございます」
ルークがお礼を言うと、男ははにかんだ。
「未熟で悪いね。銀級に上がるまでは攻撃だけ磨いてきたから、まだまだなんだ」
男はそう言うと立ち上がり、サラの方に歩いていく。
「ニール、頭痛いー」サラが男に向けて声を出す。
「頭を打ったのか? リフィルさんを待った方がいいかもな」
ミナが包帯と薬を手に、ルークの隣に座った。
「ルーク、薬を塗って、包帯をまいておこうか」
ルークはお礼を言って、腕を持ち上げた。
ルークは座ったままの姿勢でミナから包帯を巻かれていると、ティナがルークの前にしゃがみ込む。
「まだ痛むの? リフィちゃんが来るまで、しばらく待ってねぇ」
「大丈夫です。ティナさんは肉体強化が得意なんですか?」
「そうだよー。肉体強化はすっごく自信があるの」
「そうなんですね。俺も普段から練習しているんですが、まだまだで」
バルトが近づいてきて「ティナは天才だからな」と淡々と言った。
ティナはバルトの言葉を聞いて、胸を張る。
「すごいですね」
「ルーク、敬語はやめろ」
「え」
ルークはバルトの顔を見た。
「最近グラントに来たらしいが、おまえはもうグラント傭兵の一員だろ」
バルトがなおも淡々と言葉を続ける。
横に立っていたマシューも、オールバックに撫でつけた金髪を触りながらにかっと笑う。
「そうだぜ、一緒に死線を乗り切ったんだからよ、そんな堅っ苦しいのはいらねえぜ」
「あ……ありがとう」
ルークは微笑んでうつむいた。顔に力が入り、言葉を続けることができなかった。
ミナとソルは、視線を合わせると微笑んだ。




