4-6.連携
4-6.連携
「それじゃあ、最終確認だ、みんな集まってちょうだい」
作戦の日。
街道で馬車を降りると、カレンが傭兵たちを集める。
御者たちは馬車を操り、グラントに引き返していった。
御者たちへの支払いは、あらかじめ依頼料から捻出されている。ギルドが代理で手配し、約束の時間に傭兵を迎えにくることになっている。
「作戦内容はすでに説明しているけど、配置だけ最終確認するわよ。出口は4つ。まず、わたしたちカレン隊は、ユーゴ隊、マシュー隊とともに森の奥側から押し入る。コボルトの巣内を襲撃する」
マシューと呼ばれ、金髪のオールバックの男が片手を上げた。
「次に西側中腹の出口。ここはイリア隊が受け持つ。出口を守るのが任務だけど、分岐までは進む」
「うん、任せて」直剣を携えた細身の女が頷いた。直剣の柄には紐飾りがついており、イリアの動きに合わせて揺れる。
ソルはイリアの剣を見て「あれ、かっこいいな」とつぶやく。ルークは肘でソルの腕をちょんと押した。ソルは慌ててカレンに視線を戻した。
「街道側の新しい出口は2つある。それぞれルーク隊とアルド隊に守ってもらう。中には入らず、外での包囲に徹すること。街道側で森が浅く、周りの魔獣も少ないはず。でも、決して油断しないようにね。アルド隊には、フォローとして銀級をひとり付ける。ルーク隊のフォローはサラ、頼んだわよ」
「了解」サラが返事をする。ルークたちも頷いた。
「最後に、クロノ隊は指定のポイントに散開して、それぞれの状況確認や遊撃だ。アルド隊にもひとり出してもらうわよ」
姿勢のよい覆面の男が頷く。
「よし、では各自ポイントに向かいましょう。みんな、油断せず、危険な真似はしないように。帰ったら全員で打ち上げするわよ!」
カレンの声に、傭兵たちは「おう」と応えた。
――――――――――――――
ルークたちは、巣穴から出てきたコボルトと向かい合っていた。
6体のコボルトが、木の槍や石の塊を持って動き出す。
手前の2体はルークとソルに向かってそれぞれ駆け出した。すぐ後ろにいた2体も続く。
奥の2体は石の塊を持って唸り声を上げた。
「ルーク、炎で中列をけん制! ソルは右から順に! 奥はわたしが!」
ルークは魔石を握った左手を突き出し、火の球を放つ。立て続けに炎を打ち出し、中列の2体にそれぞれぶつけた。
手前に迫るコボルトが、ルークに向かって木の槍を突き出してくる。
ルークは半歩後ろに下がり、左腕の小盾で槍を横に逸らす。
奥の2体を視界にとらえつつ、回転の勢いのまま体を反転させ、剣でコボルトの首を切り裂く。
奥の2体のコボルトは、ミナに向かって石を投げる。
石は大きく、スピードも速いが、ミナはコボルトの動きを観察して、投石と同時に横に踏み出している。
ミナは石を避けつつ、素早く矢をつがえて放つ。
奥の1体が悲鳴を上げた。ミナの矢が突き刺さり、背中から倒れてもがいた。
ソルは手前のコボルトを素早く切り捨てると、ルークの火の玉にひるむ2体のコボルトに迫る。槍を切り払い、中列の1体をなぎ倒す。
横にいた中列のもう1体がソルに意識を向ける。
ソルは奥側にステップを踏み、中列のもう1体が持つ槍を弾いて穂先を切り落とす。
ソルはルークの位置を横目で確認すると、そのまま身体を反転させ、奥側のコボルトに向かって駆けだす。
中列のもう1体のコボルトは、背中を見せたソルに折れた槍を向けようとするが、すでにルークが背後に移動している。ルークは、無駄のない動きでコボルトの背中から剣を突きこんだ。
残された奥側のもう1体はソルに石を叩きつけようと腕をふるが、ソルは躱してコボルトの腕を切り落とす。
コボルトが悲鳴を上げて座り込むように倒れた。
同時に、回り込んでいたミナが矢を放っており、腕を切り落とされたコボルトの首に矢が刺さった。
矢を受けてもがく後列の2体を、ソルが手早くとどめをさす。
「隊列維持!」
ミナが声を上げると、3人は素早く元の立ち位置に戻り、武器を構える。
サラが岩の上に飛び乗り、出口の中を眺める。
「ミナちゃん、問題なし」
出口は低い岩壁に開いているが、巣穴はやや下方向に傾斜しており、地面に立っていては奥まで見通しが利かないつくりになっていた。
カレンから各隊に松明が配布されており、出口の内側に設置するよう指示されていた。ルークたちは現場に到着してすぐに、穴の内側に松明を設置し、外からでも確認しやすいよう対応済みだ。
「警戒解いて! ルーク、ソル、今のうちに亡骸はどけて、戦いやすいようにしよう」
「了解」
ルークとソルは、倒れたコボルトを岩壁側に移動させた。
その後も散発的にコボルトが飛び出してきたが、3人は問題なく対応した。
戦闘中に森側からロックドッグが突っ込んできたことがあったが、サラが手早く片付けた。
――――――――――――――
そのころ『熊の森』は、巣内でコボルトを討伐していた。
『熊の森』は、会議に参加していたメンバーに加えて、メイスを手に戦うこともできる回復職のリフィルと、斥候を担当するフェインの5名で、銀級パーティのフォローを務めていた。
銀級のマシュー隊と、カレン隊のメンバーが前線に出ている。
カレンは見張りとともに入り口方向に残り、指揮をとっている。ときおり訪れるクロノ隊からの伝令を聞き、情報をまとめて判断を下す。
「バルくん、わたしも前に出たいよー」ティナが棍棒を振り回す。頭の上でふたつに結んだハニーブラウンの髪を揺らして、頬を膨らませた。
「バルくん、わたしもー」ユーゴも甘えた声を出し、巨体をくねらせながらバルトを見た。
「おまえらは一番後ろで筋トレでもしてろ」バルトはふたりを見ずに答えた。
直後、前線を担当していた銀級パーティのひとりが、跳ね飛ばされて後ろに転がってくる。
「なんだこいつは!」
前から、傭兵の叫ぶ声が聞こえた。
「1体だけじゃないぞ! こいつら、コボルトじゃないのか?」
バルトは前に出て、コボルトの様子を眺める。
コボルトの身体を紫色の光が淡く包んでいた。
ユーゴもバルトの横に立つ。
「これは……変異か?」
「魔素を取り込んでいるな。全身が発光するほどに」
横をティナが素早く通り過ぎる。
ティナは巨大な棍棒を軽々と振りかぶりながら回転するように跳躍して、コボルトに向かって振り下ろす。
「どーん! あれ?」
ティナが振り下ろす棍棒を、発光するコボルトが受け止めた。
コボルトは踏ん張りきれずに後ろに滑りはしたが、棍棒での攻撃を両腕で止めている。
リフィルが、着地するティナを追い越すように前に出る。腕を上げているコボルトの腰をメイスで砕く。たまらずコボルトは身体を倒す。
「今度こそどーん!」コボルトは呻いて身体を起こそうとするが、ティナが棍棒で頭を砕いた。
「ティナちゃんの攻撃が止められるなんて」リフィルが後ろに下がりながら、息を吐く。
「すごい力だねー。でも、力の入り方は見えたから、次はスムーズにどーんできると思うよー」
ティナとリフィルが、ユーゴたちのところに戻ってくる。
ユーゴとティナがハイタッチをした。
リフィルは跳ね飛ばされた銀級の男に駆け寄る。仲間に支えられて立ち上がっていた男は「大丈夫だ」と声を出した。
「白穴の樹海で見られる変異だ。ただ、グラントにも白穴はあるとはいえ」バルトが顎髭を撫でる。
「あまりに距離が離れすぎているよな。樹海とここの間に、山や森をいくつ挟んでると思ってる」ユーゴは首を傾げた。
「そうだな。だが、目の前で変異した。変異体が紛れたんじゃない、ここで変異したんだ」
「まずいかもな、バルト」
「ああ。ティナ、フェイン、街道側の若手が守ってる出口にそれぞれ向かえ! リフィル、カレンに状況を説明してくれ。街道側にはティナとフェインが向かい、ここはユーゴと俺が抑える。銀級パーティたちの指揮は任せると伝えろ。その後は必要に応じて、カレンを補佐してやってくれ」
『熊の森』は、バルトの言葉に一斉に動き出した。
巣穴に残ったユーゴは、バルトに目を向けた。
「バルト、横穴は黒曜石がいないが、イリアがいるから大丈夫ってことだな?」
「ああ、イリアとカレンに任せておけば問題ないだろう。さてと」
バルトは素早く周りを見回して、発光するコボルトの数を確認する。
「銀級は前に出すぎず、2、3人で1体を確実に仕留めていけ! 変異体のサイズを見極めろ! 特に巨大なやつらには注意するんだ! ユーゴ、おまえは」
バルトが言い切る前に、ユーゴは前に出ている。
ひときわ巨大なコボルトの腕を正面から盾で受け止めると、重たい衝撃音が響く。コボルトはそのまま腕を押し込むように動かすと、ユーゴは半歩後ろに下がる。
先ほど跳ね飛ばされた傭兵が、後ろで声を上げる。
「ユーゴさん! ひとりで前に出るなんて」
その言葉をバルトが遮る。
「大丈夫だ、うちのリーダーがあんなのに負けるかよ」
ユーゴは盾の向きと角度を調節すると、コボルトが体勢を崩す。直後、ユーゴのショートスピアがコボルトの喉を貫いている。
ユーゴは素早く首を動かして周りを見ると、巨大なコボルトに向かって駆ける。
バルトは笑うと、左手の魔法陣を輝かせて氷の塊を放ち、銀級パーティが向き合うコボルトをけん制する。
氷がコボルトの肩や腹に突き刺さり、コボルトは呻き声を漏らした。
銀級たちは隙を見逃さず、コボルトに武器を突き出す。
「ユーゴ、おまえは好きに暴れろ!」
「了解!」




