4-5.現場の時間、準備の時間
4-5.現場の時間、準備の時間
ルークたちは、ギルド近くの食堂で昼食をとっていた。
「バルトさんは傭兵なのに、ギルドマスターと対等に会議を進めてたな」
ルークがサラを見ながら言った。
「一部の高ランクの傭兵は、自分のパーティだけじゃなくて、グラント全体のことを考えてるみたいよ。ギルドとそういう話をできる傭兵が、他にも何人かいるみたい」
「そうだね、銀級の人に、先のランクを目指すならって言ってたね」ミナが頷く。
「すごいね。俺は戦いは自信があるけど、そういうのは想像できないな」
ソルの素直な言葉に、サラは笑い声を上げた。
「あはは、ほんとに一部だと思うよ。たとえば今日の会議でいうと、ティナさんやユーゴさんはそういうタイプじゃなさそうだよね。それに『熊の森』で言えば、リーダーはバルトさんじゃなくてユーゴさんだし」
食事を済ませると、ルークが席を立ってカウンターに向かう。コーヒーを4杯オーダーして、席に戻った。
4人は資料を確認し、依頼の準備について話し合う。
「俺たちはここの出口を見張るんだね」
ソルが資料を眺めて言った。
「そうだね。中には入らず、出てきたコボルトを討伐するのが役目だね」ミナは頷いた。
「立ち回り方を決めておかないとね。あとは連携についても、作戦は3日後で余裕があるけど、今日のうちに街の近くか、それかわたしんちの道場で動いておこう」
サラの言葉にルークは頷く。
「そうだな、経験を考えると、指示役はサラさんだと思うんだが」
「いや、わたしはあくまでも臨時だからね。まずは今回の依頼を、3人でどうやって立ち回るかを考えてみて」
「そうなると」ルークは顎に手をやる。「基本的に俺とソルは前に出るから、ミナが全体を見て、声を出してもらうのがいいかな」
「え? わたし?」資料を見ていたミナは、慌てて顔を上げた。
「そんなに気負わなくていいぞ? 今回は敵が出てきそうな場所も、出口がひとつだけって限られてるし」
「うん、そうだね」ソルがにっこり笑った。
サラは口を開きかけるが、少し息を吐いて身体を引いた。
ソルがサラに視線を向ける。
「サラさん、どうしたの?」
「いや、いったん3人の話を聞くよ。後でわたしの考えを言うね」サラが微笑む。
「わかった、きっと穴があると思うから、後で教えてくれ」
ルークはサラの言葉に頷くと、ミナを見る。
「村で漁や狩猟を経験してるよな? まわりを見て動くのは、得意かなって思ったんだ」
「それにさ、ルークが偽物の騎士に連れていかれた時も、冷静で判断がすごかったし」
「ああ、ソルに聞いたよ。ミナは頭がいいし頼りになるよな」
「うん、ミナの判断に従えば、間違いない」
ふたりに褒められて、ミナは顔を赤くした。
「……わかった。ふたりがそう言ってくれるなら、できそうな気がしてきたよ。やってみる」
「今回のコボルト戦の、3人での動き方はこんなところかな?」
ルークの言葉に、ソルとミナは頷く。
「ここまでで、サラさんは何かあるか?」
3人はサラの顔を見る。
サラは笑顔を作って、3人に頷く。
「わたしもミナちゃんなら大丈夫だと思う。信頼し合ってて、素敵なパーティだと思うわよ。でも、少しだけ確認させて。まずは、敵が出てくる場所が限られてるっていうのは、油断しすぎかもね」
「たしかにそうだな」
「森の中だもんね。ミナから離れすぎないようにしよう」
ルークとソルは頷き合った。
「あとは、戦いの陣形もいいんだけど、敵が出てきていないときのことも考えないとね。疲れるし、ずっと陣形を組んで立ってるわけにはいかないわよね?」
「なるほど……それなら、出口を見やすい場所を確認しておいて、出てくる前に気付けるようにするといいね」
ミナが手を叩いた。
「うんうん」サラがミナの頭を撫でる。
「休憩のローテーションや、周辺の見張りのことも話そうか。あとは緊急事態に備えて、伝令は誰が行くかとか」ルークが言う。
サラがにっこりと笑って頷いた。
ルークもミナのように、頭をサラに向かって出しかけるが、すんでのところで思いとどまった。
「あとはコボルトを逃がしちゃったときのことも考えよう。ルークと俺がふたりとも追いかけるわけにはいかないもんね」ソルが言う。
「3人ともいいね! その調子で、戦いだけじゃなくて、いろいろと準備しておくことが大事だよ」
「あ」ソルが腰を浮かした。「じーちゃんが言ってたかも。現場では一瞬しか考える時間がないのに、なぜか時間がある準備のときに検討しないやつが多いって」
ソルが視線を上に向けて「こういうことか」とつぶやいた。
その後、恥ずかしそうに笑って舌を出した。
「さっきの俺たちだね」
「たしかに依頼中は余裕ないもんな」
「そうだね、きっとパニックになっちゃうね」
3人は頭をかいた。
「ほんとにいいパーティね……」サラは続けて何かを言いかけるが、言葉を切る。「おっと、時間もないし、決めること決めて動きましょう」サラはごまかすように、少し早口で言う。
ミナは、サラの様子に首をかしげるが、ソルの発言に意識をテーブルに戻した。
「あと」ソルはルークを見る。「ルークは炎の魔法も上達したし、指示役のミナに見ておいてもらわないと」
「わたしの訓練の成果も、見せておきたいな。そういえば道場の人に聞いたけど、油壺と炎の魔法を組み合わせる方法もあるらしいよ。わたしの矢に括り付けて飛ばして、ルークが魔法を打つのはどうかな」
「いいね、この後いろいろ試してみようか」
「サラさんはどうするの?」
「うーん、この編成なら、ルークくんを真ん中に置いて、わたしも前に立ちたいんだけど……今回は後ろでフォローするよ。ミナちゃんと一緒に動いて、背中を守るよ」
「わぁ、頼もしいね」
ミナとサラは微笑み合う。
「よし、あとは買い物だけど、明日みんなで行こうか。必要なものは……」
資料の確認を終えると、4人は会計を済ませて店を出た。




