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まぐれと呼ばれた傭兵は、新天地で仲間と歩き出す〜はいいろの精霊憑き〜  作者: 果物のぐみぐみ
第4章 グラントの傭兵たち

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4-1.熊と剣と串焼きと鳥

4-1.熊と剣と串焼きと鳥


「あ、ルーク、こっちだよ」

 ソルはバザーの入り口でぴょんと跳ねた。

 手を振って、大声でルークに呼びかける。

 ルークは小走りで駆け寄った。

「知り合いの人と話せた?」ミナが首をかしげる。

「ん、ああ……話せたよ。待たせて悪かった」

 ルークは苦笑して頭をかいた。

「ねえねえ、まず何を見る?」

 そわそわと体を揺らすソルを見て、ミナが微笑む。

「手前から順に見ていこうよ」

「お昼は串焼きでいいか? グラントに来た日に見て、気になってるんだ」

「いいね。わたしも食べたい」

「俺も! じゃあさっそく行こう!」

 ソルは早歩きで一番手前の店に向かう。

 ルークとミナも歩き出した。


 ――――――――――――――


「あ、見て! かわいい」

 ミナが熊のぬいぐるみを手に取る。

「ふわふわだぁ」

 両手で包むようにぬいぐるみを持ち、弾力を確かめようと手を優しく開閉した。

「いらっしゃい、自由に見ていってくれよ」

 店主の男が威勢の良い声を上げて、ルークたちを出迎える。

「ねえねえ、熊。かわいいよ」

 ミナがルークとソルに向かって、小さな熊のぬいぐるみを見せる。

「うーん、俺は隣の、小さい剣の飾りのほうが好きだな」

 ソルは人差し指サイズの小型の剣を手に取った。

 柄と刀身の間に埋め込まれた小型の魔石が、怪しく光ってソルの心を震わせた。

「ソル、剣のアクセサリーはやめておけ、確実にもてあますぞ」そう言いながら、ルークはソルにやさしい目を向けた。

 店主は3人の様子を静かに眺めていたが、にっこりと笑うとミナに向かい合った。

「お嬢ちゃん、そのぬいぐるみが気に入ったのか? ほら、ここの紐でカバンに括り付けられるぞ。色の種類も豊富だ」

「わあ! いいなあ、ねえねえ、ひとりずつカバンに着けようよ」

「え? 俺も付けるのか?」ルークはのけぞる。

「ええ……俺は剣の飾りのほうがいいよ」ソルは唇を尖らせた。

「みんなの髪色に合わせようか? ソルは黄色の熊にしよう。ルークはこのグレーの熊がいいね」

 ミナはふたりの言葉を無視して、籠の中の熊をかき分ける。

「ルーク……」

「ソル、あきらめろ。剣よりはいいと思うぞ」

「そうかなぁ」

「あった、私はクロクマ!」

 ミナはこわもての黒い熊のぬいぐるみを手に取り、満足げに頷いた。

「ママ、わたしも熊さんほしい!」

 熊を持つミナを見た子どもが、母親に訴える声が聞こえる。

 店主はミナに向かって、拳を握って親指を上に立てた。


 ミナとルークは先に会計を済ませ、店の脇に移動した。

 ソルも遅れて会計を済ませると、小走りでふたりに駆け寄った。

「さっそく付けようか。ふたりもそのカバンは普段使いのだよね? 依頼のときに持っていくと、汚れちゃうから」

「俺が山で会った熊は、みんな野性味あふれてたけど」

「黄色い熊だし、汚れてないほうがいいと思うぞ。ソル、観念して付けよう」

「よし、じゃあソル、後ろ向いて。ルークも。わたしが付けてあげるよ」

 ふたりのカバンについた熊が、左右に揺れるのを見て、ミナは微笑んだ。


 ――――――――――――――


 その後も楽しいバザーは続く。

 バザーには様々な店があふれ、時間を忘れて買い物を続けた。

 お昼になると、出店で串焼きを購入して、並んで食べ歩く。青や緑の甘い果実水に舌鼓を打つ。

 傭兵として実用的な道具も購入することができ、3人が宿に戻ったのは日も暮れかけたころだった。


 宿の食堂で夕食を済ませると、3人は宿の1室に集まり、戦利品の確認をすることにした。


 それぞれ購入した品々をお披露目していたが、ルークは、荷物を整理する手を止めた。

「ちょっといいか? ふたりには話しておきたいことがあるんだが」

「どうしたの? ルーク、大丈夫?」

 ミナが、ルークの深刻な表情を見て、心配そうにルークの顔を覗き込んだ。

「実はエルシオン、あ、昨日の研究者な。そいつが言うには、俺には精霊が憑いているらしい。俺に目を付けたのも、精霊のモヤを見たからだって」

 ふたりは息を呑む。

 ミナは驚いた表情を、ソルは失敗した子どものような表情をする。

 ルークは左手を見る。

「正直、そこまで信じてはいないんだ。ただ、たまに手の甲から灰色のモヤが出ることや、戦いのときにゆっくり感じることがあることを、言い当てられた」

「そうなんだ」ミナが小さくつぶやくが、すぐに笑顔を作る。「本当なら素敵だね」

「え?」

 ルークが顔を上げた。

「わたしの村で助けてくれたとき、精霊さんの力で戦ってたってことだもんね。精霊さんが助けてくれてるなら心強いね」

「ごめん」ソルが頭を下げた。

 ルークとミナは驚いて顔を見合わせた。

 しばらく頭を下げていたソルが、カバンから包みを取り出した。

「俺、気づいてたんだ、ルークが精霊憑きだって」

 包みを開き、3組のグローブを取り出す。

「漁村でルークたちのところに走ってるときに、遠目だったけど左手の光が見えて」

「そうだったのか」

「光やモヤを目立たせないようにグローブを買おうと思ってたんだけど……言うのが遅くなってごめん」

 ルークはソルの手からグローブを取ると、両手に嵌めた。

「似合うか?」

「わたしのもあるの?」

「あ、うん。3人でそろえようと思って。ふつうの魔法を使うときも、光の色を隠せるやつだよ。左手は、手のひらが空いてるから、魔石を握ってそのまま使えるよ」

「ありがとう」

 ルークとミナは、左手に嵌めたグローブを見せ合う。

 そんなふたりを笑顔で見ていたソルが、再び表情を歪めた。

「実は俺……」

 ソルは、グローブを胸に抱いて、再び下を向いてしまう。

 しばらくの沈黙の後、ルークとミナは立ち上がり、ソルの横に移動した。

「大丈夫か?」

 ルークはソルの肩に手を置き、ミナはソルの背中をさすった。

 ソルはふたりの顔を見ると、安心したように微笑んだ。

「ありがとう。ふたりと出会えてほんとによかったよ」

「ソル」ミナが優しく言う。「何か言いたいことがあるなら、何でも聞くよ。でも、言いづらいことなら、急いで話さなくてもいいんだよ」

 そのとき、ソルの肩が金色に瞬いた。

「あ」ソルが驚いて、小さく声を上げた。

 光は、やがて小さな鳥の姿になり、3人の真ん中に降り立った。

 ルークとミナは言葉を出せずに、口をぽかんと開いて光の鳥を見た。

「ソル、ふたりなら大丈夫だよ」

「スピカ」

「ルークさん、ミナさん。わたしはスピカです。ソルのともだちの精霊だよ」

 ルークは口をぽかんとあけて、膝立ちの姿勢のまま固まっている。

 ミナは「わあ」と小さな声を漏らし、手を口に当てた。

「きれいだね。それにかわいいなあ」

「ありがとう、ミナさん」スピカは飛び立ち、ミナの上をゆっくり旋回する。

「あはは」

 ミナは笑いながら立ち上がり、スピカの動きに合わせてくるっと回った。

 ソルは、動きを止めて微動だにしないルークの顔をちらっと見る。

 ルークはしばらく固まっていたが、自分の顔を見つめるソルと目が合うと笑顔を返した。

「すごいすごいとは思っていたが、まさかこんなにすごいやつだとは」

 ソルもつられて微笑んだ。

「あれ? そういえば、スピカさんが言っていた、ふたりなら大丈夫って何が大丈夫なんだ?」

「じーちゃんにね」ソルが視線をスピカに向ける。「精霊のことは簡単に話すなって言われてたんだ。でもふたりには紹介したいって思ってて」

「なるほどな、たしかに精霊のことが知られると、変な研究者も寄ってくるしな」

「あはは、そうだね。それで踏ん切りがつかなかったんだけど」

「ふたりなら信頼できそうだから、勝手に出てきちゃった」スピカはルークの周りを1周して、再び3人の真ん中に着地した。

「ソルともども、今後ともよろしくね」

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