幕間3.研究者たち
幕間3.研究者たち
翌日、ルークたちは宿を出るとバザーに向かっていた。
3人で買いたいものを話し合いながら、楽しく歩く。
傭兵ギルドの前に差し掛かったとき、依頼票を手にした3人組の傭兵が出てきた。
すれ違いざま、依頼の準備について話し合っている声が耳に入る。
ソルとミナは気にせず通り過ぎるが、ルークだけが足を止めた。
真ん中を歩く人物と目が合うと、その男はルークに向けてウィンクをした。
栗色のふわふわとした髪の毛の男だ。
丸メガネで、くりっとした目を覆っている。
男は口元に人差し指を当てると、手を水平にして首の辺りでパタパタ動かす。
「ルーク? どうかしたの?」
ルークは、ミナの声に振り返る。
「あ、ちょっとセントリアの知り合いかもしれない人がいて、少し話してきていいか?」
「いいよ、俺たちはバザーの入り口まで行ってるね」
ソルとミナはバザーに向かって歩いていく。
ルークは頷くと、振り返って駆け出した。
少し離れたところに、先ほどの3人組が待ち構えていた。
「やあルークくん。昨日ぶりだね。騒ぎにならなくてよかったよ。こんなとこで暴れたくないし」
「……頭がおかしいのか? 昨日の今日で、グラントの傭兵ギルドに来るなんて」
「心配しなくても君以外には別人に見えてるし。こんな感じ」
一瞬だけ、3人の容姿が変わって見えた。すぐに元の姿に戻る。
驚くルークに、ミレーネは顔を近づけて耳元でささやいた。
「ルーク、声をかけてきたということは、気が変わったのかしら?」
うっすらと漂う花の香りに、ルークはすこし顔を赤くする。
たまらず軽くのけぞった。
「いや、俺の気が変わることは、ない」
ルークの言葉を聞き、フェリクスが依頼票をパタパタと振った。
「それなら話すのはまた今度でいいか? 今日は初依頼でな、念入りに準備したいんだ。真剣にやらないと、試してみる意味がないからな」
フェリクスは依頼票を手に、ルークを見ずに雑貨屋の方を眺めている。
「え? 依頼を受けるのか?」
エルシオンが愉快げに笑う。
「ルークくん、君が言ったんでしょ、傭兵やってみろって。学びの機会がありそうだから、たまに活動してみることにするよ。あらためてよろしく」
「うそだろ」
ルークは呆れたように小さく呟いたが、3人の手にあるライセンスカードを見て目を丸くする。
「あ、銀級!?」
エルシオンたちは、つられて手元のカードに目を落とす。
「ああ、これ?」
「王立魔道大学の卒業生だからな」
「在学中の活動や、研究成果をいくつか伝えたら、銀からでいいんですって」
「ルークには本名や所属はまだ教えないけど、毎年研究者として、いろいろ発明や発表もしてるしな」
口をぱくぱくと動かすが、ルークは言葉を返せない。
エルシオンはルークをにやにやと見つめていたが、真面目な顔になり「あ」と声を出した。
「そういえばルークくん、左手、気を付けたほうがいいよ」
「左手?」
「うん。僕がルークくんを見つけたのって、左手の精霊の魔素、灰色のモヤが見えたからだから」
「え」ルークは左手の甲を眺めた。「そうだったのか」
「そうそう。だから、何か対策したほうがいいかもね」
そういうと、エルシオンはにっこりと笑って、ルークに顔を近づける。
「あとさ、一応言っておくと、僕らのことは内緒にしておいてね。グラントは僕らも好きだし、静かに暮らしたいからね」
ルークの耳にエルシオンの息が当たる。
「離れろ!」
ルークは顔を背けて、手でごしごしと耳をこすった。
エルシオンは楽しそうに笑い声を上げる。
「それじゃあ僕らは行くよ。善良な傭兵としては、助けを待つ依頼人のところに一刻も早く駆け付けたいからね。ルークくん、気が変わったら教えてね」
ルークは3人組を呆然と見送ることしかできなかった。




