3-6.幻
3-6.幻
「ルーク!」
2階の部屋にソルが駆けこんでくる。
ミナに支えられ、地面に胡坐をかくルークに、ソルが飛びついた。
「うわあ」
ルークが情けない声を出しながら、仰向けに倒れる。
ミナも巻き込まれて、ルークとともにソルの下敷きになった。
「ちょっとソル……苦しいよ」
ミナが苦笑する。
「だって心配だったんだもん」
ルークは苦しそうに呻いていたが、ソルの言葉を聞くと、微笑みながらソルの頭をわしゃわしゃとなでた。
「ありがとう、ソル。助けに来てくれて嬉しかったよ」
「ふふ、いい仲間に出会えたんだね、ルークくん」
サラが3人を見下ろしながら、明るい声で言う。
「サラさんも改めてありがとう」
3人は体を起こして、口々にサラにお礼を言った。
「構わないわよ! 道場への依頼だし。でも、ウチに話が来てよかったよ。こうして私も来れたし」
ミナとソルに引っ張られ、ルークはよろよろと立ち上がった。
ふたりの肩に手を置き、身体を支えた。
「あれ? その手首の紐って」
サラがルークの左手を指さす。
「あ! サラさん、ごめん」ルークが慌てて手を顔の前で合わせる。ふらつくルークを、ミナとソルが支える。「もらった腕飾りが、戦いのときに壊れてしまって」
サラが口を軽く開き固まるが、やがて笑い声を上げた。
「いいよ、道場土産って言ったでしょ? 律儀なんだから。捨てちゃっていいよ」
「いや、この革紐だけでも、俺に似合ってるかと思って。それに、せっかくもらって嬉しかったし」
ルークは話しながら、少しずつ赤面する。
照れたようにはにかみながら、鼻をかいた。
「え……そうなんだ。ちょっと嬉しいな」
サラは口に手を当てると、身体を揺らしながら唇をゆがめる。首の動きに合わせて、前髪が小さく揺れた。
ミナとソルは顔を見合わせ、にやにやと笑った。
「それにしても!」サラがごまかすように、少しだけ大きな声を出した。
両手を握り、悔しそうに床を蹴る。
「あの赤髪のにやけ野郎! 次見たらぶっ飛ばしてやる!」
「え?」ミナが驚いて声を上げる。「さっきここにいた人のこと? 白髪だったでしょ?」
「何を言ってる? 栗色の髪の毛だっただろ? こう、ふわふわっとした髪型で」ルークは片手を上げて、自分の頭の近くで動かした。
サラはルークの言葉を遮る。
「いや、赤髪の長髪で、後ろで結んでたでしょ!?」
3人は顔を見合わせた。
「やられたな」
顔を向けると、アルドヴェインがしかめっ面で立っていた。
「幻術か何かの魔法だろう」
「対策はしてたんだけどな」副官の女が、懐から魔石が埋め込まれた短い棒を取り出す。「相当な使い手だったってわけだね」
「あの」ルークがアルドヴェインのほうに体を向ける。「黎明学派と言っていました」
アルドヴェインと副官の女が顔を見合わせ、舌打ちをする。
「黎明学派か」
騎士たちの様子を見て、ミナが首をかしげた。
「捕まえられないんですか?」
アルドヴェインが首を振る。
「できない。あいつらは組織じゃない。思想だからな。学会や大学、商会とか貴族、教会にだっているんだ。誰かを逮捕しても終わらない」
副官の女が口を斜めにして後を引き継ぐ。
「しかも厄介なことに、表では活躍していることが多い。研究者や商人としてね」
「厄介だね」
サラが槍で床を突いた。
ミナが心配そうに、ルークを見る。
「また狙われないかな?」
「本当かわからないけど、もう俺たちには手を出さないって言ってたよ。まあ、仲間にするのは諦めたとしても、会いには来るらしいが……」
「なんにせよ、気を付けてくれ。騎士団の研究所から、追えないか調べてみる。何か気になることがあったら、いつでも支部に相談しに来てくれ」
「ありがとうございます」
ルークは、アルドヴェインと副官の女に頭を下げた。
――――――――――――――
「うーん、なんだかんだ言って、おもしろかったね」
エルシオンが、ミレーネとフェリクスに話しかける。
3人は丸いテーブルを囲んで、コーヒーを飲んでいる。
エルシオンの言葉に、ミレーネは呆れた顔をした。
「次は何をするか事前に言ってくださるかしら?」
フェリクスはテーブルに研究資料を広げ、顔を上げずに口を開いた。
「エルシオンらしいだろ」
「もうグラントで使ってた研究職の身分は使えないわよ」
「まあ、グラントでやりたかった研究はひと段落ついてたしな」
ふたりの会話を遮るために、エルシオンが手を前に出した。
「それより聞いてよ。ルークくんを連れてくるように依頼した盗賊たちにさ、余分にお金を渡して、ルークくんは客人だから決して無礼を働くなって伝えてたんだけどさ」
エルシオンが愉快気に笑う。
「無表情なのに丁寧すぎて、逆に怖かった、ってルークくんが言ってたよ」
ミレーネがため息をつく。
「まだまだ余裕はあるけど、研究費だって無限じゃないんだからね?」
「あ、それなんだけどさ、ちょっとひとつ提案があってね」
エルシオンの提案に、ミレーネは呆れ声を出し、フェリクスは「本気でやってみるなら面白いかもな」と頷いた。




