3-5.光跡
3-5.光跡
ミナたちは、ルークがいる建物を取り囲んでいた。
屋敷を守る盗賊たちを無力化し、騎士たちが素早く縄で縛りあげていく。
見張りのために数名を残し、アルドヴェインは屋敷に突入する命令を出した。
屋敷に入ると、フェリクスが一団を出迎えた。
目を細めてミナたちを見る。
手で階段を指し示した。
「よく来たな。ルークは2階だぞ」
フェリクスはそういうと、扉を開けて奥の部屋に入っていく。
「3名はやつを追え! ランゼルクは俺についてこい、2階に行くぞ! 残りの者は、1階の各部屋を確認しろ!」
アルドヴェインは素早く指示を飛ばすと、階段に向かって駆けだす。
ミナもあとに続き、走り出した。
サラは緑の光をまといながら跳躍すると、壁を蹴って跳び上がる。アルドヴェインやミナを追い越して2階に降り立つと、素早く首を動かし、周りの様子をうかがった。
ミナは階段を上りながら、立ち止まっているソルを見た。ソルの肩当てから一瞬だけ淡い光が漏れたように見えて、ミナは何度か瞬きした。
その間に光は収まっている。
「ソル?」
「ミナ、そっちはお願い。俺はさっきのやつを追うよ」
「わかった! 気を付けて」
「ミナもね」
すでに3人の騎士は、フェリクスを追って部屋に入っている。
ソルは駆け出し、フェリクスが通った扉に向かった。
――――――――――――――
エルシオンが尻もちをついたまま、小さくため息を吐いた。
「僕は君には手を出さないことにするよ」
ルークは倒れたまま身体を動かさずに答える。
「それは助かる。もうこんな目にあうのは勘弁してほしい」
「不安な思いをさせてごめんね、まあでも、ルークくんも精霊のことも少しだけ知れたし、僕も精霊を検査したり傭兵の話を聞けたし、お互い素晴らしい日になったね」
「断言する、おまえのほうが変わっている」
ルークの言葉に、エルシオンは愉快気に笑い声を上げた。
「ルークくん、黎明学派に気を付けて」
「なんだって? 黎明?」
「うん、僕と同じく、世界を救おうとしてる人たち」
「おまえの仲間ってことか?」
「いや、そういうわけではないよ。そもそも組織ってわけではない。同じ方向性の人たちが、まとめてそう呼ばれてるんだ」
「気を付けてって……おまえは止められないのか?」
「関係ない組織の人も多いし、会ったこともない人もいる。そもそも黎明学派の全員を把握してる人なんていないから、止めることはできないよ。ただ、僕から誰かにルークくんのことは伝えることもない。その程度の関係性なのさ」
「協力も敵対もしてないってことか?」
「そうだよ。僕としては、別に世界を救うのが僕じゃなくていいし。他の誰かがやってくれればそれでもいいんだ。まあその場合、ぜひ論文として方法を発表してもらいたいとは思っているけど。ただ」
その時、エルシオンの言葉を遮るように、衝撃音が部屋に響いた。
吹き飛んだ扉が、床を跳ねて壁に激突する。
「危ないなあ」
エルシオンが微笑む。
「ルークくんを吹き飛ばしたのが、こっち側でよかったね」
「ルークくん!」
槍を持った女性が部屋に駆け込んでくる。短く切りそろえられた赤茶色の髪が、耳元で小さく揺れた。
「え、サラさん?」
ルークは顔を向けて、つぶやく。
続いて、騎士とミナの姿も見えた。
「ルーク、大丈夫!?」
倒れているルークを見て、ミナが悲鳴のような声を上げた。
「ああ、時間切れだね」
エルシオンが立ち上がる。
いつの間にか、手には虹色の魔石を握っている。
ルークは部屋の床に視線を彷徨わせるが、戦闘中に落とした魔石が見当たらない。エルシオンが拾っていたようだ。
魔石は強く発光すると、直後、甲高い音を立てて砕け散る。
「ルークくん、僕は君に恋しちゃったからさ、また会いにくるね」
「ルークくんから離れろ! このにやけ変態野郎!」
サラは槍を片手にエルシオンに向かって駆ける。
緑色の光をまとって、一瞬で距離を詰める。
しかし、突き出した槍はエルシオンに当たらない。
魔石が砕け散るとともに、エルシオンの姿が消えていた。
――――――――――――――
ソルが部屋に入ると、中には誰もいなかった。
壁際に地下に向かう階段があり、その下から金属がぶつかるような音が聞こえる。
ソルは階段に向かって駆けた。
地下室に降りると、騎士のひとりがフェリクスと切り結んでいる。
フェリクスの周りには、ふたりの騎士が倒れており、どちらも血を流しておらず、うめき声を漏らしている。
騎士がフェリクスの剣に打たれ、悲鳴を上げる。
騎士の身体から力が抜けていき、ぐらりと身体が傾いた。
フェリクスは手を伸ばすと、倒れかける騎士を手でつかみ、優しく床に下ろした。
「おまえはルークを助けに行かなくていいのか? 2階の部屋にいるぞ」
「あっちは任せて大丈夫そうだし、俺はおまえを足止めするよ」
フェリクスは口を斜めにして、軽く息を吐く。
ちらりと倒れた騎士たちに視線をやると、ゆったりした歩調で騎士たちから距離を取った。
「別に上に戻って邪魔する気はないが、まあ暇だしな。剣を抜けよ」
フェリクスはそういうと、大剣を手に構える。
両手で柄を持ち、切っ先をソルに向けた。
ソルはポケットから白色の魔石を取り出すと、左手に握りこむ。
手の甲が白色の光を放つ。
「光魔法? 普通に肉体強化魔法でよくないか?」
「さあね。試してみなよ」
ソルはポケットに魔石を戻すと、長剣を抜いた。
剣を金色の光がまとう。
「へえ、見たことのない魔法だな。その光はなんか意味あるのか? 俺が勝ったら教えてくれ」
「やだね」
「研究したいだけなんだが。まあ終わったら話し合おう」
ソルはフェリクスに向き合いながら、じりじりと横に動く。
肩当ての隙間から、わずかに金色の光が揺らぐ。
『ソル』
『スピカ、言われた通りこっちに来たけど、強そうなやつだね』
『そうだね、わたしの光を、光魔法でごまかせるといいけど』
『じーちゃんの肩当てもあるし、大丈夫』
ソルは深呼吸をする。
体を光の膜がうっすらと包む。
顎を引き、目を細めてフェリクスを見た。
ソルは勢いよく息を吐くと、弾けるように飛び出した。
直線的に動かず、右へ左へ小刻みに軌道を変える。
左に跳んだと思えば、左足が地面に触れた瞬間、速度をまったく落とさずに右に跳ぶ。
慣性を感じさせない動きに、フェリクスが目を見開いた。
ソルの体をうっすらと包む光が視界に残り、フェリクスは目をぱちぱちと瞬きをしながら叫ぶ。
「すごいな! 残像が見えるぞ!」
ソルは自分の身長にも迫る長剣を、手首を捻るだけで軽々と角度を変える。
フェリクスの死角に回り込み、さらに外側から剣を振り上げる。
フェリクスは素早く身体を反転させ、両手で持った大剣の位置を調節してソルの剣を弾く。
ソルは剣を振り抜く格好のまま、さらにフェリクスの斜め後ろに回り込んでいる。姿勢を変えず、弾むように跳躍しながら身体を回転させ、身体に巻きつけるように長剣を振り抜く。
フェリクスは半歩後ろに下がりながら、大剣を斜めに動かしてソルの剣戟を防いだ。
その間にソルは高く跳躍し、身体を上下に反転させ、天井に足をついている。
ソルはフェリクスの頭目掛けて、長剣を振り抜こうとするが、突如視界の端に青色の塊が迫り、咄嗟に身体を捻って塊を躱す。
天井を蹴って斜めに跳ぶ。地面に着地する際も、滑るようにするすると移動し、フェリクスから距離を取る。
「走り出す瞬間から最高速度、停止する際も全くブレず、左右に反転する際も速度が一切落ちない。頼む、その光魔法を研究させてくれ。そして発表させてくれ。もちろん、おまえの名前を共同著者として論文に明記する」
ソルはフェリクスの言葉を無視して、自分が足を置いていた天井のあたりを眺める。
濡れており、水がポタポタと床に落ちる。
『水魔法……魔石を握ってるようには見えないな』
『いや、あの剣士さんは、周りから取り込んで魔法を使っているわけではないよ』
『でも両手で剣を握ってるよ、左手は……からっぽに見えるな』
フェリクスの後ろに強烈な光を放つ発光体が現れる。
ソルは思考を中断し、顔の前に手をかざしながら、さらにフェリクスから距離を取る。
「帰るよフェリクス」
「エルシオンか。ひとりってことは断られたのか?」
「残念ながらね。でもルークくんは本当におもしろい」
「ミレーネは?」
「重要な書類だけ持って、先に帰ってるよ。僕らも帰ろう」
「ちょっと待ってくれ、少しこいつと戦いたいんだが」
「うーん、そうさせてあげたいけど」
背後の階段から足音が響く。
アルドヴェインたちが駆け降りてくる。
「あれを相手取るのはさすがに厳しい」
フェリクスはため息をつくと、頷いてエルシオンの肩に手を置く。
エルシオンは虹色の魔石を取り出すと、にっこりと笑ってソルに手を振る。
直後、虹色の魔石が弾け、エルシオンたちの姿が消えた。




