1-2.まぐれのルーク②
1-2.まぐれのルーク②
茂みの間から1頭の大猿が顔をのぞかせた。
歯をむき出しにして、低く唸り声をあげる。
「俺から行く」
ルークは一歩踏み出した。
ガイアとエイルは顔を見合わせ、短く頷くと後ろに下がった。
ルークは大きく息を吐く。
魔石を握り直し、剣を構える。
大猿がルークを見て強く吠えると、巨体を揺らしながら駆けてくる。
凄まじい迫力だ。
ルークはひるまずに体を前に傾けた。
左手に握る魔石が赤く光る。
魔石に連動するように、ルークの左手の甲も赤く輝いた。
迫る大猿に向け、火の魔法を放った。
大猿の首筋に炎が当たり、短い悲鳴が漏れた。
ルークは魔石を大猿に投げつけながら、剣を振り上げ大猿に走り寄る。
大猿は咆哮を上げて、両腕をめちゃくちゃに振り回した。
ルークは必死に肉体強化魔法を発動し、剣で大猿の腕をいなすが、繰り返し突き出される腕への対処が追いつかない。
あの特技が発揮できれば、そんな言葉が頭をよぎるが、祈っても状況は変わらない。
一瞬、視界が暗くなった。すぐに明るくなった視界から、大猿が消えている。
殴られ、自分の顔が横を向いていることに気づいた瞬間、強い衝撃を受け、ルークは意識を手放した。
その後、目を覚ましたルークは、大猿を難なく倒すガイアとエイルの姿を、馬車の座席に体を預けながら、ぼうっと眺めていた。
ふたりは戦闘試験を突破し、ルークは不合格となった。
帰り道。
ふと手のひらを見る。
もうカードの跡は残っていなかった。
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ガイアとエイルは次の試験に進むこととなる。
ルークはその間、ひとりで対応できる簡単な依頼を請け負い、日々を過ごしていた。
早朝、依頼掲示板から小型魔獣討伐の依頼を選び、受付に向かう。
「依頼の受注と、活動場所を確認しました。ルークくん、気を付けて」
「うん、行ってくる」
ギルドの外に出ると、ルークは朝日に目を細める。
手をかざしながら、空を見上げた。
青空には大きな雲が浮かんでいる。
無意識に、ため息が口に出た。
しばらくぼうっと立ち尽くしていると、背後から咳払いが聞こえた。
扉の前をふさいでいたことに気づき、慌てて横にずれて道を開ける。
「すまない」
ルークが謝罪を口にすると、傭兵の一団は軽く手を上げて、通り過ぎていった。
周りを見渡すと、街は今日もにぎやかで活気づいている。
店番をする人、郵便配達をする人、巡回する騎士たちや、広場を掃除する人。
ルークは小さく首を振ると、顔を上げた。
「立ち止まってられないよな」
ふと、次の試験に進んでいる、ガイアとエイルを思い浮かべる。
きっとふたりも頑張っているはずだ。
自分も、やれることをひとつずつやっていこう。
ルークは、荷物を確認すると、街の入り口に向かって足を踏み出した。
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その後もルークは、日々を依頼と訓練に費やしていた。
ある日、ギルドの受付で薬草を納品していると、2階から降りてくるガイアとエイルが目に入る。
その手には、新しいライセンスカードが握られており、ルークはふたりの昇級を知った。
その夜、ルークは宿屋の一室に呼び出された。
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ルークが部屋に入ると、水を飲むガイアと目が合った。
エイルは席につかず、壁に背を預けている。
中に入り扉をしめると、ふいに「3人で白金級になる」という、力強いガイアの言葉を思い出した。
しかし、そんな思い出に反して、目の前のガイアの口調は静かだった。
「パーティを解散する」
ルークは小さく息を漏らした。
「待ってくれ、次は俺も上がるから」
「待っただろ」
ガイアが声を上げる。
「試験だけの問題じゃねえんだよ」
「え」
「上がったところで、お前とはやっていけねえよ」
ルークは肩を落とし、下を向く。
「ルーク」
ガイアの言葉をエイルが引き継ぐ。
「ルークは不安定すぎる。たまに見せる動きができれば、今回だって勝てただろう。普段の仕事でもそうだ。勝てるはずの相手に負け、危機に陥る」
「なんとかする、自分でなんとかするから」
「できねえだろ」
ガイアはぎゅっと目を瞑る。
「お前を見殺しに、できねえだろうが」
ルークの胸に、ガイアの言葉が突き刺さる。
部屋がしんと静まり返った。
ルークが言葉を発せずにいると、エイルが静かに話し出す。
「今回ではっきりした。ルーク、君の努力を我々は見てきた。今までやってきたことが、まぐれだなんて言わない。だが、自分で勝手に追い込まれて自滅して」
エイルは壁から身を離し、ルークの横に立つ。
「依頼は等級で制限がかかるが、気まぐれに能力が変わる君では、その制限も意味をなさない。今のままでは」
肩に手を置かれ、顔を上げると、苦悶の表情のエイルと目が合った。
「いずれ死ぬぞ、ルーク」
ふだん、聞いたことがなかった、ふたりの絞り出すようなかすれた声。
ルークは軽く上を向いて、泣くのを必死に堪えた。
部屋を沈黙が包む。
やがてルークは立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
「わかった」
ルークは扉を開いた。
「解散を受け入れる。でも、でもいつか」
それ以上何も言えず、ルークは部屋を後にした。
扉を閉めるときに「ルーク、3人で白金になりたかったんだよ」と聞こえ、こらえていた涙が溢れた。




