1-1.まぐれのルーク①
はじめまして。
『はいいろの精霊憑き』です。
楽しんでもらえたら、うれしいです。
1-1.まぐれのルーク①
ガタガタと馬車が揺れる。
馬車は、ギルドの昇格試験に向かって、森の小道を進んでいく。
ルークは、馬車の座席に体を預け、浅い呼吸を繰り返していた。
顔からは脂汗が吹き出し、とても試験に向かう傭兵には見えない。
「ルーク、水を」
隣に座るパーティメンバーのエイルから、水を差し出された。
「エイル、すまない」
ルークはお礼もそこそこに水を飲み干し、大きく息を吐いた。
ふいに、顔に何かがぶつかる。
ルークは驚き、「わっ」と小さく声を上げる。
慌てて顔を覆う布を手でつかむ。
「落ち着けよ」
「ガイア」
同じくパーティメンバーであるガイアが、カバンから取り出した布を投げてよこした。
ルークは顔の汗を拭う。
「がっかりさせるんじゃねえぞ」
「ああ、わかってる」
ガイアのぶっきらぼうな言葉に、ルークは苦笑して鼻をかいた。
御者がロープを巧みに操り、馬車は速度を上げる。
ガイアとエイルは、武器の手入れを行い、集中力を高めているようだ。
ルークは、心の中でふたりにお礼を言いながら、懐からライセンスカードを取り出す。
ふたりのおかげで心は落ち着いたが、黙っていると、不安がふつふつと湧き上がってくる。
ルークは不安を抑えつけようと、ライセンスカードを強く握りしめる。
モンスターと戦うのが怖いわけではない。幼馴染のふたりに置いて行かれることが、何よりも怖かった。
まぐれのルーク。
ふと、自分のあだ名が頭をよぎる。
ふだんは、どうでもいいと聞き流している悪いあだ名。
しかし、今日ばかりは、頭の中で鳴り響く「まぐれのルーク」がかき消せずにいた。
ルークは小さく首を振り、仲間と笑っていた夜を、必死に思い出そうとする。
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「白金級になるぜ」
ガイアの野太い声が響く。
「3人で白金級になってやるんだ」
3人で酒を飲むときの、ガイアの口癖だ。
エイルは「当たり前だ」と短く答える。
ルークは、そんなふたりをニコニコと眺めながら、自分の夢を熱く語った。
3人の理想の未来像を語り合う時間が、何よりも好きだった。
しかし、パーティのランクが上がり、依頼の難易度が上がるとともに、対峙する敵も強くなる。
ルークは「たまに時間がゆっくり感じるほど集中できる」という曖昧な特技をもっているが、狙ったタイミングで自在に使うことはできず、ふたりに庇われることが増えていく。
日々の依頼や訓練で思いつく限りの努力を試みたが、自分の能力を狙って出すことが、どうしてもできなかった。
酒の席で、ガイアの口癖が減り、その分だけ「ルークの戦いが不安定であること」が話題になる日が増えた。
ふたりは決して責めるような言い方をしなかったが、それが惨めでルークは宿屋で泣いた。
未来を思い描けば自然と笑えたはずなのに、代わりに涙が溢れてくる。そのことに気づくと、より悲しみが深くなり、眠ることができずに泣いたまま夜明けを迎える日もあった。
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そして今、ルークは試験を前にして、顔を上げられずにいる。
ふいに肩をたたかれ、顔を上げる。
気づけば馬車が止まり、ガイアとエイルは馬車から降りていた。
心配そうに顔を覗き込む試験官と目が合う。
「急ぎすぎる必要は、ないと思うが」
そんな試験官の言葉にルークは無理やり笑顔をつくった。
「大丈夫」
強く答えたが、それは試験官への返答というよりも、自分の心に向けられた言葉のように思えた。
ルークはライセンスカードを懐にしまうと、自分の手のひらを見つめた。
何度もカードを握り直していたせいで、手のひらにはカードの跡が無数に付いていた。
跡は赤く染まっている。
指でなぞると、一瞬白くなり、じわりと赤くなる。
その中でも、ひときわ濃く残った三本の跡が、重なるようについていることに気づく。
ルークは手を握りしめると、「自分もパーティの一員だ」と自分に言い聞かせ、心を奮い立たせた。
ゆっくりと立ち上がり、魔石を握る。
馬車から飛び降り、剣を抜いた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
初回投稿なので、第1章をまとめて投稿予定です。
お時間ありましたら、お付き合いください。




