3-2.行方
3-2.行方
ルークが騎士たちに連れて行かれてすぐに、ソルとミナは部屋に集まって話し合っていた。
「ミナ、どうしよう。ルークは待てって言ってたけど」
「どうしようか、少なくとも、騎士団には話を聞きに行くべきだと思うけど」
「そうだね、すぐに行こう!」
ソルは扉に向かうが、ミナはソルの腕を掴む。
「どうしたの? 早く行こう」
「ちょっと待って、もしかしたら朝を待った方がいいかもしれない」ミナが硬い表情で言う。「騎士団を信じていいのかな」
「え?」
ミナはベッドに座り、ソルに真剣な表情を向ける。
「さっきの騎士たちって、ソルはどう思った?」
ミナの問いかけに、ソルは「怪しすぎるね」と、間髪入れずに答える。
その後、ソルはすこし黙って考えるしぐさを見せた。
ベッドまで歩き、ミナの隣に座る。
「えっと……でも、騎士服や、命令書は、本物だったと思う」と、ソルは上を見ながら言った。
「そうだね」
ミナは、報奨金とともに受け取った紙を持つと、騎士団の印章を指でなぞる。
「すくなくとも、用紙は本物だと思う」
騎士服の男たちに「命令書は返してください」と言われ、手元には報奨金の用紙だけが残されている。
「それって、書かれた内容だけが偽物ってこと!?」
ソルは目を丸くして、腰を浮かす。
ミナは自分の口に人差し指をあてる。
「ソル、他のお客さんに迷惑だよ」
ソルは「あ」と申し訳なさそうな顔をして、ベッドに座りなおした。
「ごめん」
周りは壁しか見えないが、ソルは思わずきょろきょろとあたりを見回す。
「わたしは嘘の命令だと思う。もし騎士団がルークを保護するなら、報奨金のときに話が出ていると思う。それに、わたしたちを保護するなら、ルークよりもむしろソルのほうが対象になるんじゃないかな」
「俺?」ソルは眉をひそめる。
「うん、騎士団の支部で、ソルは目立ってたよ。元剣聖様の孫で、剣聖様の剣を持っていて」ミナは、言葉を切ってベッドサイドの水を口に含んだ。「それに、わたしの村からグラントまでの間も、ソルは目立ってた。ルークは、言い方は悪いけど、かけだし傭兵って感じで」
「ルークのすごさは、戦いだけじゃないもんね」
ソルが少しだけ胸を張る。
「うん」そんなソルを見て、頷きながらミナは微笑んだ。
「ルークは、グラント騎士団を見るのは今朝が初めてって言ってたよ。たしかに、ミナの言う通り、ルークだけが保護されるのはおかしいな」
「だから内容が嘘なんじゃないかって思って」
「昼に報奨金をもらったときも、手続きの後は誰も俺たちに興味なさそうだったよ」
「うん。でも、用紙や騎士服のことを考えると、ただの盗賊だけでできることなのか、疑問なの。騎士団の誰かが関わってるんじゃないかなって思って」
「なるほど、それで騎士団を信じていいかわからないって言ったんだ」
「それで、朝まで待つべきかなって。朝になったら」
「あ」ソルが声を上げる。すぐに口に手を当てて、声を落として続ける。「支部長さんか。明日は朝からって言ってたね」
ソルの言葉に、ミナは頷いた。
「今のグラントで、アルドヴェインさんしか頼れそうな人が思いつかない。だから、明日の朝、アルドヴェインさんに直接話を聞きに行こう」
ソルは尊敬のまなざしでミナを見た。
「すごいね、ミナは冷静で、頭がいい」
ミナは首を振る。
「わたしも心配で胸がはりさけそうだよ」
「そうは見えない」ソルはしゃべりながら、あわてて顔の前に手をやった。「もちろん、優しくないって意味じゃなくて」
「あはは、考えがまとめられてよかったよ。たとえば漁でも、考えずに動いてうまくいくことなんてないから」
ソルは頷いた。
「ありがとう、ミナのおかげで俺も冷静に行動できそう」
ソルは窓の方に移動して、外を眺める。
「あれ」振り返り、ミナの顔を見て首を傾げる。「でも、支部長さんもグルだったらどうするの?」
「そうなると、もうお手上げ。でもちょうどいいかも」
ミナは、手を軽く上げ、困ったように微笑んだ。
「あとは、わたしたちも同じ相手に捕まることくらいしか、ルークに会う方法が思いつかないから」
「わかったよ。その場合は、俺がなんとかするよ」
ソルは胸を叩く。分厚い肩当の隙間から、わずかに金色の光が漏れ出した。
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「そんな命令でてないぞ!」
アルドヴェインが机に手をついて立ち上がる。
ソルは内心でミナにお礼を言った。
起きてそのままここに来ていたら、騎士団と情報を交換しないまま、飛び出してしまっていただろう。
「南地区で傭兵を問答無用で連行するなんて、俺に話が来ていないはずがない」
アルドヴェインは副官の女に目をやる。
「わたしも聞いていない」
副官の女が答える。他の補佐官たちも首を振った。
「やっぱりそうでしたか」
ミナが言う。
副官の女が指示を飛ばすと、補佐官たちは部屋を飛び出していった。
「すぐに捜索を行う。君たちはここで」
「俺たちもルークを探す」
ソルは固い口調で言った。
アルドヴェインは少し考えるが、やがて軽く息を吐いた。
「わかった、ただし、騎士に同行してくれ。透かしと印章が入った用紙に、複数の騎士服。ただの人さらいにできることではない」
「わかりました。ご配慮いただきありがとうございます」
ミナが頭を下げる。
ソルもミナにならい、頭を下げた。
その後、ミナは補佐官のひとりと簡単な打ち合わせをした。
宿屋で見たことや、漁村からグラントまでの道のり、昨日のグラントでの行動を騎士団に共有する。
情報共有が終わると、ソルとミナは、騎士とともに聞き込みを行った。
一日中走り回ったが捜査は空振りで、新たな情報がもたらされたのは、日も傾いたころだった。
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ルークは、宿屋を出ると、街はずれに停まっていた馬車に乗せられた。
豪華な装飾はないが馬車は大きく、客室部分が個室になっている。
騎士服の男が扉を開けて、ルークに乗車を促す。
内部も装飾はないが清潔に整えられており、座席はふかふかで座り心地が良い。
窓はカーテンで覆われており、外が確認できない。
カーテンに手を伸ばすと、騎士服の男に腕を掴まれる。
「カーテンは開けてはいけません」
「え」
「騎士団の規則です」
相変わらず淡々とした声だ。
「外が見えないと酔いやすくて」
ルークはとっさに出まかせを言ってみるが、男の返答は素早い。
「飲み水や、吐いてしまった場合の対処は行います」男が青い魔石を取り出す。「ただ、カーテンは開けることができません」
その後、さらに騎士服の男が両側の扉から乗り込んできて、向かいに3人、ルークの左右にひとりずつの男が座った。
個室の外から馬のいななきが聞こえると、馬車はスムーズに走り出した。
ルークは、まずいことになってきたぞ、と内心で頭を抱えた。
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ルークは馬車から降ろされると、街道から少し横に逸れた林道の奥、森の中の大きな建物に連れてこられていた。
建物は古めかしい木造建築だったが、3階建の立派な作りで、とくに壊れている様子もない。
建物には窓が見えるが、いずれも中の光は漏れておらず、あたりはしんと静まり返っていた。
周りを囲むように樹木が生えており、街道側から建物の姿は見えないつくりになっている。
ルークは、日常から切り離され、帰り道が塞がれていくような錯覚に襲われた。
たまらず騎士服の男に声をかける。
「どこに行くんでしょうか」
先ほどから、何度か騎士服の男たちに話しかけるが、一度も反応はない。
前後左右を至近距離で挟まれ、自由に動くこともままならない。
ルークは、男たちから受ける圧力に、息が詰まる。
先ほどから歩くスピードはゆっくりなのだが、汗ばみ、息が上がってくる。
先頭を歩く男が、建物の扉を開く。
ルークは、建物の中に押し込まれた。
実際には手で押されることはなかったが、男たちはルークを囲んだまま一定の速度で歩くため、ルークは抗うことができずに建物の中に足を踏み入れた。
建物の中に入ると、ルークは驚いてあたりを見回した。
外から見ると、木造りの古い建物に見えたが、内装は驚くほどきれいだ。
壁や床は白色の素材で継ぎ目なく覆われ、天井には魔石灯が多く設置されており、屋内を煌々と照らしている。
気づくと、周りから騎士服の男たちがいなくなっている。
ルークは扉に手をかけてみるが、ドアノブは動かなかった。
鍵がかかっており扉があかない、というよりも、ドアノブや扉自体が微動だにしない。
気づけば扉の隙間がなくなっており、もはや壁にドアノブが取り付けられているようにしか見えない。
ルークは自分が通っていなければ、「壁に絵が描いてあるんですよ」と言われても信じていただろう。
「ルークさんですね」
扉と壁の境目を指でなでていると、背後から声が聞こえた。
ルークは振り返り、声の主と対面する。
「こんばんは、僕はエルシオンです」
声の主は、ルークよりも少し身長が高い男だった。
栗色の髪の毛をふわふわと揺らし、大きな丸眼鏡でくりっとした目を覆っている。
ルークが言葉を返せないでいると、エルシオンはやわらかく笑った。
「不安にさせてしまい申し訳ありません。騎士団からの保護命令は数日と聞いているんですが」
「あの」
ルークはエルシオンの言葉を遮る。
「アルドヴェインさんに会うことはできますか?」
エルシオンは申し訳なさそうに肩をすくめる。
「それはできないんです。騎士団の内部の問題なので、全てをお話しすることはできないのですが、中央本部からの命令なんです。場合によっては、アルドヴェイン支部長たちに問題があるかもしれず、彼らに会ってもらうことはできません。騎士団の問題に巻き込んでしまい、本当に申し訳ないです」
エルシオンの言葉は早口で、しかもルークにとっては聞きなじみのない言葉も多い。
しかし、なぜかルークは聞き返すこともなく、自然と頭に言葉が入り込んでくる感覚があった。
ルークは頭に手を当てて、首を傾げた。
しばらくの沈黙のあと、ルークのお腹がぐうっと鳴った。
夕食前に連行されてきたことを思い出す。
ルークは赤面しながら腹を抑えた。
「ふふふ」
エルシオンは愉快気に笑うと、ルークを手招きして歩き出した。
「夕食を用意しています。他のメンバーも紹介しますね」
ルークは小走りでエルシオンに追いつく。
「そういえば、騎士たちの態度は大丈夫でしたか?」
「はい、とても丁寧でした。ただ」ルークは躊躇うように言葉を切る。
「ただ?」
「その、どういったらいいかわかりませんが、無表情なのに丁寧すぎて、怖かったです」
エルシオンは「あぁ、なるほど」といい、頭に手をやる。
「無礼な真似をしないように言いふくめすぎたからですかね。さあ、この部屋ですよ。どうぞ」
ルークは大きなテーブルのある、広い部屋に通された。
テーブルにはグラスや食器が並んでいる。
「こちらがミレーネとフェリクスです」
男女が頭をさげ、挨拶を口にする。
「こんばんは、ルークです」
ルークも挨拶を返す。
「さっそく夕飯にしよう。ミレーネ、フェリクス、準備をお願い」
エルシオンの言葉にふたりは頷く。
あっという間に、テーブルには豪勢な料理が並べられた。
「おいしい」
ルークは率直な感想を口にする。
「本当?うれしいわ」
ミレーネと呼ばれた女性が、ルークに笑顔を向ける。
「うん、相変わらずうまいな」
フェリクスと呼ばれた男が、ぶっきらぼうに言った。
傍らに本を開いており、顔は上げない。
エルシオンがフェリクスの隣に歩み寄り、フェリクスのおでこを指ではじいた。
「いて」
「何回言ったらわかるの? 食事中に読書は禁止です」
エルシオンは本を取り上げて、席に戻る。
不満げなフェリクスを見て、ミレーネは上品に笑い声をあげた。
ルークは、そんなやり取りを見て、緊張が少しずつ解けていくのを感じた。
満腹になると、今度は眠気が顔を出す。
その後、エルシオンの案内で清潔な部屋に通された。
ルークは腰の剣をおろして、手渡された部屋着に袖を通した。
剣に触れながら、「武器を取り上げられなかったな」とつぶやく。
本当に保護なのかもしれない。
ルークはやわらかなベッドに寝転ぶと、すぐに眠りに落ちた。




