2-6.グラントへの道
2-6.グラントへの道
翌朝、ルークは固い床の感触で目を覚ました。
体の節々が痛む。
頭の痛みが、昨日の楽しい宴を思い起こさせた。
昨夜は村長夫婦をはじめ、ミナと親しかった村人たちも集まり、小さな宴が開かれた。
ミナに狩猟や漁を教えてくれた村人たちは、夜の間は村の周りを見回るため参加できず、ミナは少しだけ寂しそうだった。
起き上がろうとしたが、腹のあたりに重みがあり、体を起こせない。
視線だけ下にやると、ソルの金髪が見えた。
どうやら腹を枕にして眠っているらしい。
ルークは、ソルの頭をわしゃわしゃとなでると、ソルがぶるっと震えて目を開く。
「朝?」
まだ眠そうな声を漏らしながら、ソルはゆっくりと目を開ける。
「朝だ」
ルークが苦笑すると、反対側で毛布にくるまっていたミナも身じろぎした。
「おはよう」
寝ぼけ眼のまま小さくあくびをする。
「昨日、楽しかったねぇ」
「ミナも結構飲んでたな」
「ちょっとだけだよ?」
そう言って笑うが、その表情にはまだ眠気が残っていた。
3人は身支度を整え、寄り合い所をあとにした。
戸を開けると、ひんやりとした潮風が頬を撫でる。
朝の柔らかな光を受けた海は、穏やかな青色を見せていた。
昨日と同じ海のはずなのに、その景色はまるで別物だった。
襲撃の朝は怒号と悲鳴が響き、潮の匂いすら血の臭いにかき消されていた。
今は違う。
波が静かに浜へ寄せては返す。
沖では小舟が朝日に照らされながら揺れている。
潮の香りに混じって、炭火で魚を焼く匂いが流れてきた。
ようやく、この漁村本来の朝が戻ってきたのだとルークは思った。
隣ではソルが海を眺め、静かに息を吸い込む。
「昨日の夜の海もよかったけど、朝の海はすごくきれいだね。やっぱり寄って正解だったな」
「海が見たかったのか?」
「うん。リリウムさんは、そのままグラントへ向かうつもりだったけど、頼んで海側まで運んでもらったんだ」
穏やかな海を見つめながら、ソルは小さく笑う。
「海が見れてよかったよ。それに、ふたりにも会えたし」
そのときだった。
「失礼。君たちが昨日、盗賊と戦った若者だな」
振り返ると、銀色の胸当てを身に着けた騎士と、その後ろに数人の領兵が立っていた。
「グラント領騎士団です。昨夜、村からの報告を受け、調査に参りました」
騎士は周囲を見回し、村の様子を確認すると、3人へ向き直る。
「領内の村の治安維持に協力していただき、感謝します。盗賊討伐については領で正式に確認を行います。皆さんがグラントへ向かわれるのであれば、騎士団へお立ち寄りください。褒賞の手続きをいたします」
ルークたちは顔を見合わせた。
「ありがとうございます」
代表してルークが頭を下げる。
「ちょうど今日、グラントに向かうつもりでした」
騎士は後ろを振り返った。
「ならば、グラントまでお送りしましょう。馬車を1台用意します」
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グラントへの道。
騎士団の馬車に乗り、朝の草原を進んでいた。
御者のほかに、ふたりの騎士が同行してくれている。
剣と盾を携えた壮年の騎士と、弓を持った若い騎士だ。
残りの騎士団の人たちは、調査や周辺の偵察に残るという。
途中、小型の魔獣に遭遇するが、ソルと騎士たちがいとも簡単に倒してしまう。
複数の狼を壮年の騎士がひきつけている間に、若い騎士が素早く駆け、狼たちの斜め後ろに回り込む。
2本、3本と立て続けに矢を放ち、狼を射抜く。矢を放ちながらも絶えず移動しており、狼が身体を向けると別の角度から矢が放たれる。
ソルが壮年の騎士の後ろから滑るように前に出て、狼の間をするすると通り抜け、狼を切り伏せていく。
ルークとミナも奮戦するが、1体ずつ相手にしている間に、戦闘が終了した。
ミナは少し困ったように笑った。
「弓使いって、みんなあんなに速く動けるものなのかな。わたしじゃ全然追いつけないよ」
ルークも苦笑する。
「俺もグラントの騎士は初めて見たけど、やっぱり辺境の騎士は強いんだな」
近くに立っていた御者が、戦闘の後始末を行う騎士たちを指さす。
「彼らは精鋭ですからな。ただ、おふたりも十分お強いと思いますよ。おっと」
馬がいななきをあげ、御者は馬に駆け寄る。
そんな御者を目で追いながら、ルークは少し考え、ミナの顔を見た。
「俺の幼馴染も弓使いだった。風魔法が得意でさ。戦闘になると、縦横無尽に駆け回ってたよ」
「風魔法かぁ」ミナは感心したように口に手を当てた。
ソルが横から口を挟む。
「その前に、まずは肉体強化魔法を磨かないとね」
「肉体強化魔法?」
ミナが首をかしげる。
ミナの反応に、ルークは少し不思議そうな顔をした。
「いや、使ってるだろ?」
ルークの言葉に、ソルも頷く。
「え?」
「さっきも、息を整えて走ってただろ。あれは使ってたんじゃないのか?」
ミナは少し目を丸くする。
「村の大人たちから、動くときは息を整えて集中しろって教わってたけど」
少し考えてから、小さく笑った。
「そんなことで肉体強化魔法が使えるの?」
ルークは肩をすくめる。
「近接訓練ばっかり選んでたから、肉体強化の訓練は受けたけど、俺も仕組みまでは知らないな。教官が、第1層も中途半端な駆け出しの近接脳筋どもは、まずは体を鍛えろって方針で。第2層はその後だって」
「1層と2層?」
首をかしげるミナに、ソルが答える。
「肉体と魔法のことだよ。脳筋って面白そうな教官だね」
ルークは少し考えるように続けた。
「えっと……肉体強化魔法は、空気中の魔素を取り込んで使っているらしい、とは聞いたけど」
ソルは笑う。
「魔素は少しだけ意味が違うけど、まあ、そのイメージで問題ないと思う」
「そっかあ、生活魔法しか使ったことがないと思ってた。戦いの魔法も使ってたんだ」
ミナは左手の甲を撫でながら、微笑む。
「ちょっと意識してみるよ。ソル、ルーク、何か気になったら教えてね」
その後、何度か小型魔獣と遭遇した。
ルークたちは、騎士に教えを請いながら、戦いの経験を積むことができた。
馬車は順調に道を進んだ。
草原の彼方には、グラントの城壁が陽光を浴びてそびえていた。




