2-5.仲間
2-5.仲間
ルークの横を歩く少年が、人懐っこい笑みを浮かべながら、ルークに話しかける。
「俺、ソル。おにいさんはルークであってるよね?」
「うん、あってる」
「よろしくね」
「こちらこそよろしく」
元気に歩くソルの姿に、ルークも微笑みがこぼれる。
ソルの背中の長剣がかちゃりと音を立てる。
「ソル」
「うん?」
「さっきはありがとう。ソルのおかげで死なずにすんだ」
「いいよ、じーちゃんに人助けをしろって言われてるし、ルークみたいないい人を助けられてよかったよ」
「いい人? 俺がか?」
「うん。盗賊にやられそうなときもミナを庇ってたし、そのあとも村の人の心配ばかりしてたでしょ」
そんなソルの言葉に、ルークは苦笑する。
「必死だっただけだ」
「だからだよ」
「え」
ソルがにっこり笑う。
「じーちゃんが、余裕がないときこそ、人の本質っていうのが出るって言ってたよ。だからあの姿がルークの本当ってことでしょ」
「そんなこと」ルークはたまらず赤面して、口を閉じる。
「あると思うよ」後ろを歩いていたミナが、ルークの言葉に続ける。
「ねー」とソルとミナが顔を合わせて笑い合う。
ルークは耳まで赤くなるのを感じ、照れ隠しに鼻をかいた。
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村の安全が確認できて、村人はそれぞれの生活に戻る。
数人の村人がグラントに向かい、盗賊が出たことを報告するそうだ。
ルークとソルは村の集会場で、村人たちと昼食をとることになった。
村長や村人たちに囲まれ、口々に感謝を告げられる。
魚料理を中心に、豪勢な食事がテーブルに並ぶ。
ソルは歓声を上げて、料理を口に運ぶ。
「なにこれすっげーおいしいよ」
食器を手に持ち、満面の笑みだ。
隣に座るミナが、笑いながらソルの頬についたソースをふき取った。
ルークはそんなふたりに微笑みを向けながら、魚をほおばる。
優しい味が口に広がり、息をもらす。
図書室の本で読んだ通り、グラント領の魚料理は絶品だ。
食事を終えてゆったりと座るソルに、ルークは話しかける。
「ソルは一人で旅をしてるのか?」
「そうだよ、旅っていうか、最近山から出てきたんだ」
「山から? グラント領の山?」
地形を思い浮かべているのだろうか、ミナが視線を上にやりながら聞いた。
「わかんない」
「わからない?」
「うん、ここから少し離れたところまで、飛んできたから」
ルークは思わず身を乗り出す。
「飛んできたって、空をか?」
「そうだよ、リリウムさんっていう人に運んできてもらったんだ」
「あ」ルークは声を上げる。「白金級の傭兵だ」
「知ってるの?」ミナは首をかしげる。
「会ったことはないが。大陸のなかでも、最上級の傭兵だって聞いてる」
ルークの言葉に、ミナは目を輝かせた。
「すごい人なんだね」
「うん。でも、空を飛んでって、想像つかない」
ソルは頷く。
「そうだね、あの人には勝てる気がしないや」
ルークは苦笑する。
「ソルもすごく強いけどな」
「え」ソルが口をぽかんと開ける。「何言ってるの?」
「さっきの戦い、すごかった」ルークはため息交じりに言う。思い出すだけで鳥肌が立った。
「うん、わたしたち、見てることしかできなかったもんね」
ソルは、ルークとミナの顔を順番に眺めると、不思議そうに口を開いた。
「ふたりのほうが強いでしょ」
ソルは腕を組みながら、ミナを見る。
「村の人から聞いてるよ、盗賊からこどもを逃がすために、自分が囮になったって」
続けてルークを見る。
「さっき言った通り、自分が死にそうでも、ミナを守ってたでしょ」
「そんなこと言ったら、ソルだってわたしたちを守ってくれたでしょ」
「俺は、倒せる敵をただ倒しただけだから。ふたりみたいになれるように頑張らないと」
ソルは腕を組んだまま、うーんと難しい顔をする。
ルークとミナは顔を見合わせると、笑い声をあげた。
「なに? なんで笑うの?」
「ううん、それもおじいさんに言われたの?」
「そうだよ」
そこでソルは言葉を切ると、「あ」と言って、ルークに向き直る。
「ルークって傭兵なんだよね?」
「ああ」
「一人で活動してるの?」
ルークは一瞬だけ顔を曇らせるが、無理やり笑顔を作る。
「うん、今は、そうだな」
ミナは、ルークの表情を見て、少し心配そうな顔をした。
ソルは構わず、必死な表情で続ける。戦いのときにも見せなかった、出会って初めて見せる表情だ。
「もしよかったら、俺を仲間にしてくれない? じーちゃんから、誰と旅をするかが大事って言われてて。俺、ルークとミナみたいな仲間がほしいんだ」
ルークはたじろぐ。ガイアとエイルについていけず、解散となったパーティのことを思い出す。ソルの戦いぶりを考えると、きっと繰り返しになってしまうだろう。
「それは、できない」
ソルは口を開くが、何も言わず、ため息をついた。
「そっか、やっぱり俺みたいな世間知らずじゃだめだよね」
ルークは慌てて手をばたばたと振る。
「そうじゃない、違うんだ」
ミナが助け舟を出すように「何か事情があるの?」と言った。
ルークは口を閉じて下を向いた。
「話したくなかったら無理に話さなくても」
ミナの優しい声に、ルークは首を振った。
「いや、面白い話じゃないけど、話させてくれ」
ルークはぽつぽつと話し出した。
幼馴染と白金を目指していたこと。
いつからか「まぐれのルーク」と呼ばれるようになったこと。
実力に差が開き、足手まといになっていったこと。
ついにはパーティが解散になってしまったこと。
行き詰まり、グラントに来たこと。
「ルーク、俺の夢は白金じゃないよ」
「え」
「俺の夢は、ルークやミナみたいな人と仲間になって、外の世界を見ることだよ。だから、同じことにはならないと思うけどなあ」
「たしかにそうだね。わたしもそう思う」
ふたりのまっすぐな視線に、ルークは苦笑する。
息を吐いて、言葉を絞り出した。
「わかったよ。俺からもお願いするよ、ソル、仲間になってくれ」
「やった」ソルは両手を上げて喜ぶ。
そのとき、村長夫婦がお茶を持って部屋に入ってきた。
「ワシからもちょっといいか?」
村長がテーブルに座る。
奥さんが3人の前にお茶を並べてくれた。
「ごめんなさいね、盗み聞きするつもりはなかったんだけどね」
「単刀直入に言うが、ミナも連れていってくれんか」
「ちょっと、村長さん、何を言うの」ミナが驚いて声を上げる。
ルークとソルは顔を見合わす。
「ルークがいいなら俺は構わないけど、ミナも傭兵になるの?」
「そういえば」ルークがソルを見る。「昨日ミナが言ってた。傭兵になるために村を出るって」
「お前さんたちなら安心してミナを預けられる」
「もちろん、俺も構わない。ミナがいいならだが」
ルークはそう言うと、ミナに顔を向ける。
ミナは視線を受け止めて微笑む。
「迷惑かけちゃうよ。わたしこそルークの白金の夢の足手まといになっちゃう」
ルークは小さく首を振る。
「ミナ、俺は白金が夢って言ったけど、急ぐつもりはないんだ。それよりも、ミナみたいに信頼できる仲間と一緒に進んでいきたい」
「いいの?」
「まだ会ってから2日だけど、ミナは信頼できる人だって思ってる。よければ一緒に来てほしい」
ミナは泣きそうな顔で微笑んだ。
「わたし、ちょっと不安だったんだ。傭兵でうまくやっていけるのか。でもふたりが一緒なら頑張れそう。ぜひわたしも仲間にしてください」
ルークは強く頷く。
村長夫婦は、ミナを優しい目で見つめていた。
ソルは立ち上がって飛び跳ねた。
「やったやった。ミナも仲間だ。こんなに早くふたりも仲間ができるなんて」
「よし」村長が言う。「夜はここで宴にしよう」
「宴?」ソルが驚く。「またあの料理が食べられるの?」
村長が笑顔で頷いた。
「もちろんだ。村の家族の壮行会だからな。さっきよりももっと豪華にするぞ」
「さっきよりも豪華に?」村長の言葉に、ソルは目を丸くする。
「ルーク」
「なんだ?」
「壮行会ってすごいね。何日か滞在して、他にも傭兵になりたい人がいないか探そう」
ソルの言葉に、みんなが笑い声をあげた。




