第四十六話 夜明け前の探しもの
夜が明けようとする王都を、探しものの馬車が駆けていく。
「お休みにはなれませんか? 眠っていただいても構いませんよ」
御者台から、アルトがクラリスに声をかける。
「どうも、気が張ってしまって……。こうして王都の状況を見てしまうと、余計に眠れなくなってしまうわ」
「やはり、馬車はよくなかったかもしれませんね」
「いいえ」
クラリスは首を振る。
「それでも、この馬車は落ち着くの。眠っていなくても、疲れが取れていく気がするわ」
「それならよいのですが……」
「それよりも、アルトさんはどうなの……?」
アルトはそう尋ねられて、クラリスが、自分が休むためだけではなく、アルトの様子を気にして馬車に乗ったのだと気づいた。
「僕は……大丈夫です」
「本当に?」
「はい……」
そう答えてから、アルトは小さく息を吐いた。
「いえ……。本当は、大丈夫なのかどうかもよく分かりません」
「……」
「クラリス様も、同じではないかと思うのですが……。忙しく人を運んでいる間だけ、何とか前を向いていられるのです。恨みや後悔を、ほんの少しの間だけでも考えずに済むように」
クラリスは、しばらく黙っていた。
王都の壊れた街並みが、馬車の窓の外を流れていく。
「……私も、自分の行動が王都をこんな目に遭わせてしまったのではないかと、どうしても考えてしまうのです」
クラリスの声は、かすかに震えていた。
「少しでも償いたくて、救護も続けています。辺境の救済事業も、止めるつもりはありません。少しずつでも、進めていきたいと思っています」
「クラリス様……」
「でも……それでも、重い罪の意識と責任に、今にも押し潰されそうになるの」
クラリスは一度俯き、再び顔を上げる。
そして、御者台に座るアルトの横顔を見た。
「アルトさん……。私は、少しでもあなたの心の支えになりたいの。あなたが、私にとって支えになってくれているように」
クラリスの言葉から、その気持ちは確かに伝わった。
けれど、アルトはすぐには答えられなかった。
「でも、ひとつだけ、謝らないといけないことがあるの。言う必要もないことかもしれないけれど……。
私、とても悪いことを考えていたの。
二人で、リディアさんを探しにいっている途中……アルトさんがリディアさんを見つけられなかったら、このまま二人でずっと旅を続けてみたい、って。少しだけ思ってしまったの。
あなたにとって、どれだけリディア様が大切な方なのか、本当には分かっていなかったのだわ……。ごめんなさい」
「いえ……」
自分の胸の奥には、まだリディアへの恋しさもエルンストへの怒りも、消し去ることはできていなかった。壊れた王都や、貧しい辺境や、その中で苦しむ人々への気持ちも混ざり、クラリスの思いをすぐに受け止めることができなかった。
それでも、クラリスの言葉は、アルトの心にかすかな温かさを与えてくれた。
「……ありがとうございます」
アルトは何とかその言葉だけを口にした。
クラリスは、それ以上何も求めなかった。
辻馬車が、夜明け前の王都を駆けていく。
崩れた王都を駆けていく。
やがて、馬車が止まった。




