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【連載版】婚約破棄された公爵令嬢が「どこにも行かず、ただ走らせて」と言ったので、辻馬車は夜の王都を走り続ける  作者: Vou@書籍化進行中
第十夜 【乗客】この世にあらぬ者

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第四十三話 王都中央広場

 ワーウルフが馬車に向かって走り寄ってくるのを見て、アルトは急ぎ馬車から降り、御者台に戻って手綱を握った。


 手綱を鳴らすと、ノクスが急反転し、ワーウルフの群れとは逆方向へ走り出す。


 後ろから、群れの足音と雄叫びが迫る。


 ノクスは全速力で駆けていく。


 前方に魔物の姿はない。

 追われる状況であっても、探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)は安全な道を選んでいる。


 アルトにできることは、ただ手綱を握ることだけだった。


 ——巻き込んでしまってごめん、ノクス……。


 自分の怒りに任せて、ノクスを、馬車を、危険に晒してしまったことを、アルトは今さらながら強く後悔していた。


 何とか逃げ切ってくれ。


 そう祈るように、アルトは手綱を握った。



 ところが、馬車が突然止まった。


 そこは、王都の中央にある広場だった。


 見通しはよい。だが、生きている人の気配はなかった。


 広場には、ここで魔物を迎え撃ったと思われる騎士や兵士の遺体が、無数に転がっていた。


 その中央には、(いにしえ)の聖女エリシアの石像が立っていた。


 王都の戦士たちは、聖女の加護を得たい気持ちで、ここを決戦の場に選んだのだろう。


 しかし、その願いも虚しく、彼らの中に生存者は一人としていなかった。


 その聖女エリシア像の前で、馬車は止まった。


「なぜ、ここで……」


 アルトが呟く。


 その直後、ノクスの行動も唐突だった。


 聖女像へ近づき、鼻先でその台座を押す。


 ぎしっ、と石が(きし)んだ。


「ノクス?」


 ノクスはアルトの声に何も応じなかった。


 今度は蹄で、聖女像の足元の石畳を打った。

 硬い石を削る音が、夜の広場に響く。


「何をしているんだ、ノクス!」


 アルトが叫ぶ。


 振り返ると、遠くにワーウルフの群れが見えた。


「逃げないと……。ノクス、走ってくれ……」


 だが、ノクスは動かなかった。


 まるでアルトの声など耳に入っていないかのように、聖女像の台座を前脚で打ち続ける。



 ワーウルフの群れは、もうすぐそこまで迫っていた。

 轟音となった咆哮が、広場に響く。


 そのとき、ノクスが大きく後ろへ下がった。


「やめてくれ……」


 アルトには、ノクスが何をしようとしているのかわかってしまった。


「ノクス、やめてくれ。君まで失ったら、僕は……」


 だが、ノクスは止まらなかった。

 次の瞬間、ノクスは聖女像の台座へ頭から突進した。


 ノクスの頭から鮮血が飛び散り、轟音が広場に響いた。


 聖女像が傾き、倒れ、広場の石畳に叩きつけられた。

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