第四十話 魔物災害
探しものの馬車は、王都の入り組んだ路地を、ときに速く、ときにゆっくりと進んでいった。
そこかしこにいるはずの魔物の気配を正確に把握しているかのように、馬車は迷いなく道を選び、速度を調整し、魔物を避けて進んでいく。
それでも、路上に倒れた人々の姿は、どうしても目に入った。
王都の奥へ進むにつれ、怒号や悲鳴が聞こえてくる。
「こんなの……耐えられないわ」
クラリスは馬車の中で、ただ泣き崩れていた。
「アルトさんをひどい目に遭わせただけでなく、王都までこんな目に遭わせてしまった……。私はいったい何なの? やっぱり『冷たい』女だったの? 王太子殿下が正しかったの? エルンスト様が正しかったの?」
「何を仰っているんです。あなたは僕のためにも、王国のためにも、誰より精一杯やってきたではないですか。ご自身を否定しないでください」
アルトは必死にクラリスを宥めようとする。
「その結果がこれなのよ!」
クラリスは、つい大きな声を出してしまった。
「落ち着いてください。探しものの馬車は魔物を避けることはできますが、大声を出せば見つかってしまいます」
アルトが、少し強い声を向けた。
「ごめんなさい……。私……本当にだめね……」
クラリスは俯き、顔を手で覆った。
「私がやってきたことは、いったい何だったの……? 皆で少しずつがんばって積み上げてきたものが、一度の災害ですべて壊されてしまうの?」
クラリスは、すすり泣き始めた。
「一生懸命やっているだけなのに……なぜ女神様は、こんなに辛い試練を与えるの」
アルトは黙って手綱に集中していたが、やがて、静かに口を開いた。
「これは、僕の勝手な想像でしかないのですが……女神様も、何かと戦っているのだと思います」
「……」
「太古の神々の創造の初めから、この世界が創造的であるためには、優しいだけの場所にはできなかったのだと思います。だからこそ、嵐も、病も、飢えも、魔物も、この世界には存在するのです。人の力ではどうにもならないものが、あまりに多いのです。
エルンスト様の考えの一部に賛同を示すようで悔しいのですが……一度にすべてを救うなどということは、どうやっても無理なのではないでしょうか」
クラリスは何も答えなかったが、アルトは構わず続ける。
「それでも女神様は、人間や生き物を慈しんでくださっている。だからこそ、祈りがあり、加護があり、こうして探しものの馬車もあるのだと思います」
アルトは、燃える王都の道を見つめた。
「僕たちは、女神様の加護を受けながら、それでも自分の足で進むしかないのだと思います」
クラリスに、その言葉が届いているのかどうか、アルトには分からなかった。
クラリスは黙って俯いたまま、手で顔を覆っていた。
遠回りを繰り返した馬車は、やがて救護院に到達した。
クラリスは、ようやく顔を上げた。
救護院の建物は残っていた。
だが、扉や窓はところどころ壊れ、板で補修され、家具で内側から補強した形跡があった。
何度か、魔物に襲われたのだろう。
——救護院にいるのは、病人や子どもたち。弱い人ばかりなのに……。
クラリスは馬車の扉を自ら開き、飛び出した。
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