第三十九話 燃える王都
探しものの馬車は走り続けた。
王都を目指し、昼も夜も走り続けた。
その間、クラリスの胸騒ぎはいつまでも止まらなかった。
「クラリス様、少しお休みください」
「いえ……。アルトさんもノクスさんもずっと起きているのに……。それに、落ち着かなくて……」
「きっと……大丈夫ですよ」
アルトの言葉は弱々しく響いた。
魔物災害があって、何事もないなどということはありえない。
その上、王都守備隊の兵士たちは、支援のために各地へ出払ってしまっていたのだ。
アルトは、守備隊の警邏が手薄になったことが、魔物への備えを弱め、王都への襲撃を引き起こしたのではないかとまで考えてしまう。
けれど、そんなことをクラリスに言うことはできなかった。
各地への慈善事業を、誰よりも強い思いで進めてきた中心人物がクラリスなのだ。
もしその事業が魔物災害を引き起こしてしまったのだとクラリスが考えたら、彼女はどうなってしまうのだろう。
一方のクラリスは、ただ王都の人々の無事だけを一心に祈っていた。
その後も、クラリスは一睡もできなかった。
やがて、王都の城門が見えてきた。
日はすでに落ちていた。
だが、火が上がっているのだろう。
王都は赤く妖しい光に照らされ、夜の中で不気味に明るかった。
そして馬車は、王都に到着した。
※
王都の城門は壊され、開け放たれていた。
門の前には、門兵と思われる兵士たちが倒れていた。
「ひどい……」
その傷跡から、獰猛な魔物の爪や牙に襲われたのだと分かった。
馬車が門をくぐって王都の中に入ると、多くの建物から火が上がっていた。
大通りには、王都の民の遺体もそこかしこに倒れていた。
炎に照らされたその遺体の中には、老人や子どもも混じっている。
逃げ遅れたのは明らかだった。
「何で……こんなことに……」
クラリスが、かすれた声で呟いた。
アルトは、王都の惨状を見ながら、エルンストが語った言葉を思い出していた。
——魔物災害でも起きて王都が蹂躙されれば、救済どころではない。
その通りだった。
王都が崩れれば、辺境への支援も何もない。支援する者そのものが失われてしまうのだから。
現に、支援に出ていた兵士たちは王都に引き返さざるを得なくなった。その兵士たちの一部は、もう魔物との戦いで命を落としてしまっているかもしれない。
だからこそ、エルンストは不正をしてでも、王都を守ろうとしていたのだ。
「エルンスト様が正しかったというのか……」
アルトの口から、そんな言葉が漏れた。
「えっ……?」
クラリスには、その言葉が聞こえていた。
アルトは慌てて撤回しようとする。
「何でもありません……」
けれど、クラリスはすぐにその言葉の意味することを察した。
「嘘でしょう……」
「違うんです、クラリス様。申し訳ございません。僕の言ったことは何でもないのです」
だが、もうアルトの言葉はクラリスの耳に届いていなかった。
「私の慈善事業のせいで、王都がこんなことになってしまったというの?」
クラリスは、王都に上がる火に照らされた人々の遺体を、ただ呆然と見つめていた。




