第三十七話 違和感
アルトとクラリスは、ノクスと馬車を休ませるため、途中の村に立ち寄った。
そこは、ネーベル村に向かう際にも立ち寄った村の一つだった。
クラリスは、アルトがこのまま王都に戻るべきなのか分からなかった。
——王都には、王弟エルンストがいる。
アルトにとって、エルンストはリディアをリディアでなくした人物なのだ。ある意味では、婚約者を殺した人物と言ってもよかった。
たとえ改心しようが、その事実が消えるわけではない。
そして、アルトが行き場のない強い気持ちをぶつけることができる相手がいるとすれば、エルンスト以外にない。
もしアルトがエルンストに会って、殺したいほどの恨みを覚えてしまうとすれば、それはアルトにとって最悪の不幸になる気がしてならなかった。
クラリスは、今こそアルトに、探しものの馬車の乗客になってほしかった。
婚約破棄をされたあの雨の夜、クラリスの心を救ってくれたように、この馬車は、アルトが本当に必要としているものを、そして向かうべき場所を示してくれるはずだった。
探しものがはっきりしているのであれば、クラリスがそれを助けることができるはずだった。
けれど、今はそれが何なのか、まったく分からなかった。
——リディア様を探してしまったのは、間違いだったのかもしれない。
そんな思いさえ、湧き上がってくる。
「アルトさん、王都に戻るのはやめましょうか?」
「いえ……これ以上、クラリス様を僕の都合に巻き込むわけには……」
「私がそうしたいの」
「……」
「では、少しの間だけ、この村に留まってもよいかしら」
あなたの気持ちが少しでも整理できるまで。
そう言いかけて、クラリスは言葉を飲み込んだ。
それを言えば、アルトに余計な気をつかわせてしまう気がした。
「少し休みたいの……」
代わりにクラリスはそう言った。
そう言えば、アルトが引き下がることは分かっていた。
※
アルトがノクスの世話と馬車の整備をしている間、クラリスは村の様子を見に出ていた。
アルトには、一人の時間も必要だろうと思った。
今、アルトに何よりも必要なのは、時間だろう。
気持ちが落ち着くまでの時間。あるいは、彼自身がこれから何を探すのか、言葉にできるまでの時間。
それをクラリスに伝えてくれれば、あとは探しものの馬車がアルトのために動いてくれる。
そんなことを考えながら村を歩くクラリスは、ふと違和感を覚えた。
——修繕が途中の家屋や井戸が多い。
そのことに気づくと、支援で来ていたはずの兵士たちの姿が見当たらないことにも気づいた。
クラリスの胸がざわついた。
村人を見つけるや否や、クラリスは声をかけた。
「すみません、少しよろしいですか?」
村人が足を止め、クラリスを見る。
「ああ、クラリス様。村に留まってくださったのですね」
村人は、クラリスのことを覚えているようだった。
「はい。少しこの村に留まらせていただこうと思っているのですが……。王都から支援に来ていた兵士たちは、どうしたのですか?」
村人は、少し驚いた顔をした。
「ご存じないので……?」
「はい、すみません。辺境の方の、別の村にいたもので……」
「ほかの村も同じだと思いますが……」
クラリスは息を呑み、村人の次の言葉を待った。
「王都が、大きな魔物災害に襲われたそうで……。兵士の方々は皆、急いで王都へ戻っていきました」




