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【連載版】婚約破棄された公爵令嬢が「どこにも行かず、ただ走らせて」と言ったので、辻馬車は夜の王都を走り続ける  作者: Vou@書籍化進行中
第八夜 【乗客】婚約者が失踪した御者、その代わりとなる者

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第二十八話 辻馬車は走る

 探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)は、王都を出て走り続けた。


 王都を離れ、灯りが遠ざかると、すぐに周囲は暗くなった。

 月明かりだけが、うっすらと荒野を行く馬車を照らしている。


「リディア様は、王都にはいらっしゃらないのね」


 クラリスが口を開いた。


「……そのようですね」


「いったい、どこまで行ってしまわれたのかしら」


「……」


 アルトは、皆目見当もつかないというように、静かに首を振った。


「それにしても、こんな夜中に荒野を走って、魔物に襲われたりしないかしら」


 その言葉に、アルトが小さく笑う。


探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)は、探しもののある場所を見つけて、導いてくれる馬車ですよ。危険な場所も見つけて避けてくれます」


 アルトは、御者台からノクスを見る。


「それに、ノクスは夜目も利きますし、鼻もいいんです。ご安心ください」


「ふふ……。そうよね。実は私も、なぜかまったく不安を感じないの。本当に不思議な馬車ね」


「とはいえ、僕も夜に王都の外を走ったことはありませんが」


 アルトが小さくそう呟いた。


「あら。アルトさんは不安なの?」


「……いえ、まったく」


 二人は声を出して笑った。


 ノクスが地面を踏み、馬車が轍をなぞる。


 それ以外には何の音もしない、荒野の夜だった。


「まさか王都の外に出るとは思わず、思わぬ長旅になってしまうかもしれません。申し訳ございません」


 アルトが御者台で小さく頭を下げた。


「何を仰っているの、アルトさん。探しものの依頼をしたのは私のほうですよ」


「……本当に、ありがとうございます」


 アルトは、今度は深く頭を下げた。


「それに……何だか……とても気持ちいいわ」


「……」


「王都の灯りから離れて、月明かりがこんなにもきれいなものだと初めて知ったわ。周りには何もなくて、この王国にアルトさんと私だけになったみたい」


 そのとき、ノクスが小さく鼻を鳴らした。


「あら、ごめんなさい。アルトさんと私と、ノクスさんね」


「王国に私たちだけだったら、いろいろな面倒なこともないのでしょうね」


「……どうでしょう」


「あら。私が面倒を起こすとでも言うの?」


 アルトは、どこか寂しそうに小さく笑った。


「いえ。クラリス様は、それでもどこかで苦しんでいる人がいないか、探しに行くのではないかと思うのです」


「王国に私たちしかいなかったとしても?」


「はい。クラリス様なら、きっとそうすると思います」


「変なの」


 そこで、クラリスがはっとした。


「ごめんなさい。私ったら、変な話ばかりして。アルトさんは、そんな気分ではないわよね。これから、リディア様に会いに行くのですから」


 アルトは首を振った。


「いえ……この静かな夜のおかげでしょうか。とても気持ちが落ち着いているのです」


「そう……」


 クラリスが、馬車の窓から月を見上げる。


「本当に、すてきな夜ね」


「はい」


「きっとリディア様もご無事で、お元気にされているはずだわ」


「はい」



 辻馬車が、静かな夜の、王国の荒野を駆けていく。


 その御者が、遠い過去に失ったものを探して。

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