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刃を抱く  作者: 黄色子爵
9/12

⑨

 帆乃花はE子達と繁華街のブティック通りに来ていた。R香とY実も一緒であった。帆乃花は久しぶりにE子達と行動を共にする。一行は歩き疲れ、通りのカフェへと入った。

「ねぇ?帆乃花は蛍君とどうなの?」

帆乃花はE子の急な問いかけに少し戸惑ってしまう。R香達も視線を向ける。

「い、いや、どうって…普通だよ?」

「えぇ?そんなことないでしょ?だって私達よりも優先して時間とってるじゃない?最近、付き合い悪いし…」

E子は帆乃花に微笑む。他の2人も帆乃花に向かって同じ顔をした。帆乃花にはE子達の表情がとても不気味に見えた。

「E子、どうしたの?」

「冗談よ!」

E子は声を上げて笑った。他の2人も同じように笑っていたが、帆乃花は笑えなかった。

「蛍君、不安になったりしないの?」

帆乃花は口を開けて唖然とする。E子からは明らかに嫉妬を感じる。帆乃花は堪らずE子からの視線を逸らした。

「どうしたの?下向いちゃって…」

E子は帆乃花を嘲笑った。

「蛍君は…浮気なんかしないよ…」

「そうなの?」

帆乃花の必死な抵抗に、E子は挑発的な声で対抗する。

「蛍君、ケンイチと一緒にいるところをよく見かけるけど大丈夫なの?」

「大丈夫って、何が?」

帆乃花はとぼけた様にE子を見つめる。

「え?言ったよね?ケンイチはバイだって」

E子の口調が明らかに変わった。

「う、うん…」

帆乃花はこの場から離れたかった。

「あんたのことだから、蛍君とケンイチの間を壊すと思ったのに…」

帆乃花はE子の発言に驚き、再び視線を手元に落としてしまう。

「この前、学食でケンイチ君と3人でいたよね?」

E子の隣に座るY実が口を開いた。

「そ、それは…」

帆乃花は言葉に詰まってしまう。やはり見られていた。

「その感覚がわからないな…」

更にR香まで話に加わってきた。先程まで楽しそうに買い物をしていた4人とは思えない。

「その…ケンイチ君は蛍君の友達で、途中でケンイチ君が来たから…」

帆乃花は事実を伝えるが、それが却って火に油を注いでしまう。

「だから何?友達を捨てた男と楽しそうにしててもいいって言うの?」

E子の感情が露わになる。Y実もR香も相槌を打っている。その時、買い物に誘われた理由を理解した。E子とは大学で知り合った間柄だ。付き合いも大学内だけのものである。そんなE子からの誘いに帆乃花は戸惑いがあったのだ。

「ご、ごめん…」

帆乃花は苦し紛れにE子に謝罪する。

「誰のお陰で蛍君と付き合えてると思ってるのよ…」

事実であった。ケンイチが蛍をE子達に紹介し、蛍はその時に帆乃花に一目惚れしたのだ。E子の言ってることは間違いではない。

「ごめん。これからはケンイチ君とは口聞かないから…」

帆乃花は早く逃れたい一心で、安易な言葉を口にしてしまう。

「ところで、E子?」

R香の言葉にようやくE子の視線が帆乃花から逸れる。

「今まで聞けなかったけどさ、ケンイチ君がバイって本当なの?」

「本当よ!だって、車の中で男の人とキスしてるの見たもん!」

R香もY実も目を見開くが、帆乃花だけが下を向いてR香達の驚嘆を聞いていた。

「帆乃花?蛍君はケンイチ君と関係があるんじゃない?」

「それ、私も気になった!」

R香もY実も自分を心配しているようであったが、帆乃花はそれを嘲りと感じ取ってしまう。

「まぁ、帆乃花も気をつけなさいよ…」

帆乃花は奥歯を噛みしめた。もう我慢できない。帆乃花はお金をテーブルに置くなり立ち上がると、カフェを出ていった。声を掛けようと思えば、十分に時間があった。しかし、E子達は帆乃花の背中を目で追うだけであった。

 帆乃花は伏せたまま繁華街を歩いていく。脳裏にはE子達の嘲りの声がまだへばり付いていた。次第に視界がぼやけてくる。帆乃花はハンカチで目元を押さえ、必死に視界を整える。すると、道路の反対側に愛おしい顔を見つける。帆乃花は数秒見つめ、本人なのか確認する。紛れもなく、蛍であった。帆乃花は全身が温かくなるのを感じたが、すぐに心が締め付けられてしまう。蛍の横にケンイチがいたからだ。二人は楽しそうに歩いていた。今の帆乃花にはあまりに残酷であった。先程のE子達の声が聞こえてくる。


 帆乃花はおぼつかない足取りで家まで帰った。玄関に入るなり、蛍にメッセージを送る。

「ご、ごめん…なさい…」

携帯電話の画面に涙が滴り落ちた。

 私は携帯電話のメッセージ通知音を聞いた。何気なくそのメッセージを開く。私はメッセージに釘付けになった。

「蛍、どうした?」

私はゆっくりと視線を上げる。

「ケ、ケンイチ…僕、帆乃花に会いに行かないと…」

ケンイチは黙ったまま私を見つめた。

「ああ…行ってこい…」

明らかに寂しさが混ざっていた。少なくとも私にはそう聞こえた。

「ご、ごめん…今度、ハンバーガー奢るから!」

「いいって!今日はありがとな!」

私は背中にケンイチの視線を感じながら、帆乃花のもとへと走った。

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