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刃を抱く  作者: 黄色子爵
8/12

⑧

 私は久々にケンイチと大学構内のベンチに腰を掛けていた。

「この前はありがとう。今日は帆乃花ちゃんと一緒じゃないのか。珍しいな…」

ケンイチの顔はどこか照れくさそうであった。

「うん、帆乃花はE子ちゃん達と買い物だって」

「そうか…」

ケンイチはE子の名前に反応してしまう。

「気にすんなってば!」

私は携帯電話を見ながらケンイチに伝える。既に帆乃花から3件ほどメッセージが入っていたのだ。

「E子には悪いと思っているんだ…」

ケンイチの視線が下がるのを見て、私は帆乃花へのメッセージを保存する。

「ケンイチ、お前はお前らしく生きればいいんだよ!なぁ?」

ケンイチの表情は変わらなかった。断っておくが、私はE子とは知人である。しかし、ケンイチの友人でもある。E子には申し訳ないが、私は友人の味方をする。帆乃花も同じ立場であるからこそE子の味方をするのは当然である。

「蛍にも迷惑かけるよな?帆乃花ちゃんとは大丈夫なのか?なんなら、俺…」

私はケンイチの言葉に誇り高き怒りを覚える。

「なんなら…なんだよ?ケンイチ…」

ケンイチも私の声質が変わったのがわかったのであろう。

「蛍…いや、ごめん…」

ケンイチが多恋愛に走るのは、決して自己顕示欲を満たす為ではなかった。ただ寂しいのだ。一人に注いだ想いが壊れた時、その喪失感に堪えられないだけなのだ。だからこそ、ケンイチはその想いを分散させる方法をとる。私は同じことをしようとは思わない。しかし、ケンイチの気持ちは理解できた。

「今日、時間ある?」

「ああ…バイトも休みだ。どうした?」

「たまには2人でどっか行こうよ!」

ケンイチは目を見開いた。

「帆乃花ちゃんは…いいのか?」

「帆乃花だってたまには友達と話したいでしょ?今頃、僕の愚痴でも言ってるんじゃないかな?」

私はケンイチに微笑んだ。

「い、いや…帆乃花ちゃんはそんなことないと思うけど…」

「大丈夫、大丈夫!」

私は半ば強引にケンイチを連れ出した。

「どこに行くんだよ?」

電車の中で私の隣に座っているケンイチが聞く。

「目的地が決まってないと、お前と出かけられないの?」

「い、いや…そんなことはないけど…」

ケンイチは横目で私を覗く。私はその視線を黙殺すると、帆乃花へのメッセージを送った。

 わたしたちは繁華街まで来ると、昼から飲めるダーツバーへと入っていった。

「ケンイチはこういうの得意って言ってたよな?」

「まあ…」

「たまにはゆっくりしようよ!」

私は荷物を置いて、飲み物を注文する。

「最初は僕のおごりだ!」

私は機械に硬貨を入れていく。

「蛍…」

ケンイチも観念したのか、黙って荷物を置いた。

「僕から投げるよ!」

私は我流でダーツを投げていく。なんとなく真ん中を狙って投げるが、大きく下方に逸れるとボードにも刺さらない。

「あらら…」

「力を入れ過ぎなんだよ!」

ケンイチは私に投げるフォームを教えてくれる。

「いいか?力を入れたらダメだ!必要最低限の力だけでダーツを投げる!」

「必要最低限って、どれぐらい?」

私は可笑しくケンイチに質問する。

「え?それは投げて感覚を掴んでいくんだよ。こうやって投げれば狙った場所より少し下に逸れるな、とかさ…」

「なるほど…」

私は口角を上げながら、再びダーツを投げた。

「おお!」

機械音と共にケンイチが声を上げた。

「蛍!スゲーじゃん!」

「え?真ん中より上に刺さったよ?」

「今刺さった場所は20のトリプル!真ん中のブルよりも点数が高いんだ!」

「そうなの?僕、才能あるかもな!」

「へへ…まぐれだって!」

私は久々にケンイチが楽しそうに笑っているところを見た。


「いてて…もう腕上がんない…」

「蛍は力み過ぎなんだよ」

私達はダーツを何ゲームかプレイし、ダーツバーを後にした。

「少しお腹空いたな…」

ケンイチが呟く。

「そうだね!どこか入ろうか?」

私達は近くにあるファーストフード店に入っていく。

「なあ…蛍?」

ケンイチがハンバーガーにかぶり付きながら言う。

「ん?」

私も同じようにハンバーガーにかぶり付く。

「ありがとうな…」

ケンイチが小声で言う。

「たまにはケンイチと遊びたかったし…帆乃花と付き合ってから、なかなか時間取れなかったからね…」

「そうだよ!彼女が出来たら付き合い悪くなるからな!」

私達は笑いながらハンバーガーを平らげる。

「それにしても、蛍はよくやってるよ。帆乃花ちゃんを大切にしてて、偉いと思う!」

ケンイチはサイドメニューのポテトを食べながら言う。

「覚悟が違うのさ!覚悟がね!」

私は少し得意気に言う。ケンイチも私の口調が面白かったのか、声を出して笑う。

「実家はどうだったんだ?帆乃花ちゃんを連れて行ったんだろ?」

私は少し苦笑いをしてしまう。帆乃花の本性を父が一目で見破ったこと、母が帆乃花をあまり気に入らなかったこと、私は帆乃花本人さえも知らないことをケンイチに伝えた。

「マジか…お前の親父さん、凄いな!」

ケンイチは素直に私の父を褒めた。私は摘んだポテトを見つめると、母親のことをケンイチに伝えた。

「僕の母さんと帆乃花は似てるんだ…」

ケンイチは黙って私の話を聞いてくれた。私は少し躊躇いながらも、父の脇腹の傷痕について話した。

「えぇ!?」

ケンイチは唖然としていた。そんな反応になることは理解できる。皆がこれぐらいの反応でいてくれれば、私はもう少し友達が増やせることだろう。しかし、それは現実的ではない。

「蛍の原形を知ったわ…」

真顔で呟くケンイチがとても可笑しく、私は体を揺らして笑ってしまう。

「なるほどな。だから、帆乃花ちゃんは…いや、蛍は帆乃花ちゃんに近付いたのか?」

ケンイチの言葉に私は固まってしまう。私自身、母の影を帆乃花に感じ取ったのだろうか。私は無性に帆乃花に会いたくなってしまった。

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