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刃を抱く  作者: 黄色子爵
4/12

④

 私はよく連休に帰省する。いつも同じ電車で同じ道筋を歩いていく。しかし、今回は少し違った。

「ねぇ…飲む?」

帆乃花が私にペットボトルのお茶を差し出す。

「うん…ありがとう。でも、自分のがあるから…」

私は先程買った蓋付きの缶コーヒーを一口飲む。帆乃花は私に頭を預けて車窓から景色を眺めていた。先日のプロポーズを私なりに考えていた。ケンイチからも脅しをかけられている。親には紹介しておきたい。帆乃花を実家に誘った時はとても喜んでくれた。その笑顔が本物だと感じ安心した。私はゆっくりと歩いていく。帆乃花の鼓動が少しずつ大きくなっていることを感じたからだ。流石に緊張するだろう。

「帆乃花、緊張するよね…でも、僕がいるから安心してね!」

「大丈夫…蛍君のご両親だもん…でも、嫌われてたくないな…」

私は帆乃花に微笑んだ。帆乃花も表情は柔らかいが体の動きはどこか硬かった。私達は実家の前に着いた。帆乃花は俯いたまま動かない。

「帆乃花、準備はいいかな?」

「うん…」

帆乃花の無理した微笑み、自宅の前では無ければ思いっきり抱き締めているところだ。

「帆乃花の親に挨拶する時は…頼むね!」

「ふふふ…わかったわ」

私はインターフォンを鳴らした。

「はい!あっ、蛍ね?ちょっと待って!」

「うん…母さん、ただいま!」

玄関が勢いよく開く。父さんと目が合った。帆乃花は父を見た瞬間、私の手を強く握った。

「寒いね。早く入りなさい」

私は父の手招きで家に入った。帆乃花は玄関に入るなり、父に丁寧に挨拶をする。

「こんにちは。私、蛍君とお付き合いしている谷崎帆乃花と申します。よ、よろしくお願いします…」

「蛍の父です。よろしくね。ほら、早く上がりなさい!」

私はリビングで母に帆乃花を紹介した。母は帆乃花を見て微笑みながらも少し寂しそうであった。

 帆乃花は一生懸命に私の両親と話をしていた。帆乃花はお世辞にも社交的とは言い難い。自分の弱みを周囲に知られたくない為にいつも強がっていたそうだ。しかし、私と出会ってからは少し変わった。弱くても許して貰えることを知ったからと言っていた。頑張って話している帆乃花を両親は温かく見守っていた。食事も終わり一息ついていると、母が帆乃花にお風呂を勧める。帆乃花は遠慮したが、私も笑顔で頷いた。母と帆乃花は脱衣室へと向かっていった。すると、父が呟く。

「帆乃花ちゃん…母さんと似ているな…」

私は黙って頷いた。

「いや、俺は…」

「父さん、僕が決めたことだ」

「そうか、それなら…」

父との会話はそれだけで十分であった。父が自分の右脇腹を少し擦ったのを私は見逃さなかった。今更、何も言うことはない。ただ父は帆乃花の人格を一瞬で見抜いた。私は父親の偉大さを改めて感じる。すると、母がリビングに戻ってきた。

「帆乃花ちゃん、可愛いわね!蛍にはもったいないぐらい…あなた達、結婚するの?まだ早いわ!社会人になってからじゃないと…あなた達、同棲してるとか?」

母は堰を切ったかのように話し出す。私は耳だけを母に向けていた。すると、父が母に向かって頭を横に振る。

「蛍はそれぐらいわかっているよ。このタイミングでわざわざ連れてきたんだ。蛍の気持ちを汲み取りなさい」

母は大人しくなった。いつもとはどこか違う帰郷である。


「ありがとうございました」

帆乃花は私の両親に御礼を言う。父は微笑むが、母は少し複雑な表情をしていた。

「ありがとう。また連絡するね!」

私も両親に御礼を言って家を出る。駅に着くと、帆乃花は少しくたびれた様子でベンチに座った。

「疲れたね」

「そんなことないよ!蛍君のご両親に挨拶出来て良かった」

帆乃花は私に微笑む。私はその顔を今後も守っていくと心に誓う。すると、父からメッセージが入った。私はそれを読むと改めて親という存在に感謝する。

『ありがとう』

私は父に返信すると帆乃花の隣に座った。

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