第五章 第一話 年をとるってどういうこと?
第一話 年をとるってどういうこと?
その晩僕は、他のお金たちと、広いお皿に出されて、おばあさんのしわしわの手で数えられた。
おばあさんは時々、目をしばしばさせながら、めがねをずらして、数えていた。
お店は静かになり、お客さんは来なくなった。
お店の奥でガタガタと音がした。
「おー、帰ったぞ」
僕は誰かと思っていたら、僕にくっついている10円玉が教えてくれた。
「おじいさんが帰ってきたんだ」
「おじいさん外にお仕事にいってるの?」
「そうだよ。もうすぐご飯の時間になるんだよ」
おばあさんが口を開いた。
「おかえり、もうこんな時間なんだね。晩御飯の支度するから、ちょっとまっててね」
「おう」
といって、家の中からテレビの音がした。
僕たちは、金庫というもう少しがっしりした箱に入れられた。
明日の朝までここで眠るらしい。
家の奥からはおばあさんとおじいさんの話が聞こえてきた。
「今日は、どうだったんですか?」
「おう、腰がいたいわ。わしも年やからな。若いもんがなかなか入って来ないらしくて、今は雇ってもらってるけど、いつまでできるかわからんの」
「そうですか。私も子どもたちはとても喜んでくれるんだけど、近所にできた大きな駄菓子屋のチェーン店に親が連れて行ってるみたいで、最近はすっかり子どもが少なくなりましたよ。いつまでつづけられるかね?」
「そうだな、わしらは年金少ないからな。なんとか働かんといけんしな」
「そうですね。私もできる限りは続けるけど、目が見えずらくなって、数えるのが難しくなってきたんですよ」
「お互い年だな。飯食ったら風呂入るからな」
「はいはい。沸かしておきましょうね」
僕らは、静かに二人の会話を聞いていた。
僕は僕よりも先にやってきたお金に聞いた。
「おばあさんとおじいさんという人間は、年をとったら身体が悪くなるの?」
「そうみたいだな。俺たちみたいにずっと同じ形ではないらしい。人間は子どもから大人になって、年を取って、背中や腰が曲がるらしい。だから、いつまでも生きていれないんだ」
「僕も最初に入った財布の持ち主がおばあさんだったんだけど、おばあさんも腰が痛かったり目が見えにくくなるのかな?」
「人間はきっとみんなそうなるんだよ」
「そうなったら、その次はどうなるの?」
すると、僕の入っているところよりも下の方に入っていたお札というお金が口を開いた。
「人間は寿命というのがあって、いつかは年をとって死ぬんだよ。俺は前にいた人間が急に死んだんで、その人間の子どもたちに渡されたんだ。長い間、同じ人間の金庫の中に眠っていたんだが、ある日突然開けられて、その人間の3人の子どもたちに渡された。俺たちは生まれてからずっと同じ形だけど、人間は変わっていくんだよ」
「そうなんですね。あなたはたくさんの人間の財布に入ったのですか?」
「しばらくはいろんなところをぐるぐる回っていたけれど、その人間に渡った時に、金庫に入れられてとても大切に眠らされていた。俺はもっと人間を喜ばせたかったけど、金庫に入るとなかなか次の出番がなかった。何年もその中に入れられていたので、もう人間を喜ばせることはできないとあきらめていたよ」
「そうなんですね。僕たちは金庫に入ると人間を喜ばすことができなくなるんですか?」
「うん、回数は減るかもな。でも、金庫の持ち主が亡くなった後に、俺たちが子どもに渡されると、その子どもたちは泣いて喜んで受け取ってくれたよ。だから、またこうしてぐるぐる回りながら、人間を喜ばせているよ」
「なるほど、僕はここへ来る前に地面に落ちちゃって、しばらく誰にも氣がついてもらえなかったんです。とても悲しかった。でも、あるお兄ちゃんという人間が僕に氣づいてくれて、また財布に入って、他のお金たちとお話することができました」
「そういうこともあったんだな。拾われて良かったな」
「はい、うれしかったです。それからここへ来たのは、その弟が駄菓子屋さんに行きたいとママに行ったので、僕はここであきら君の好きなお菓子と交換されたんです。よかった」
「そうなんだよね。俺たちが人間の欲しいものと交換されると人間が喜んでくれる。それが俺たちもうれしいんだよね」
「僕が最初に入った財布の持ち主はおばあさんと言われる人間だったのですが、毎朝お財布を掃除してくれたんです。僕たちは広いお皿にいれられて、明るい光と爽やかな風に吹かれながらお話をしてました。その間におばあさんがお財布をきれいにしてくれて、また入れてくれるんです。本当に氣もちがよかったなあ」
「毎日財布を掃除する人間がいるの?」その声は、また違う場所から聞こえてきた。
「私は、毎日財布を掃除する人間なんてみたことないわ」
「そうですか、多くの人間はお財布を掃除しないんですか?」また、ちがう場所のお金が話した。
「一年に一度か二度なら掃除する人間に出会ったことはあるけど、なかなかいないよな」
「そうですね。僕はおばあさんの財布に帰りたいです。毎朝ありがとうと言ってくれるんです」
「俺たちも入ってみたいな。毎日掃除するなんて氣もちいいだろうな」他のお金たちもその話に興味を持った。
「ぜひ、またここからどこかへ行ったら、おばあさんの財布に入ってみてくださいね」
僕は、どこに行ってもおばあさんの財布の話をした。
すると、決まってみんなが入ってみたいと言った。
おばあさんどうしているのかな?僕はとても恋しくなった。




