第五章 第二話 駄菓子屋さんに来る人たち
第二話 駄菓子屋さんに来る人たち
朝になってお店のシャッターがガラガラと開いた。
おばあさんは、金庫をもって入口の近くの椅子に座った。
そして、金庫を開けてぼくらを見た。
「おはよう、今日もよろしくね」おばあさんはみんなに話しかけた。
今日は明るい光が射しこんで、入口から風も吹いてきた。
なんだかとても氣もちが良かった。
さて、今日はどんなお客さんがお店に来るんだろう。僕はわくわくしていた。
朝のうちはあまりお客は来なかった。
近所の顔見知りの人間が、おばあさんと話をしに来ただけだった。
「おはようございます。今日はいい天氣ですね」
「おはようございます。そうですね。洗濯物がよく乾きますよ」
おばあさんはそういうと、入口まで歩いて行った。
「そういえば、隣のおじさんは元氣になられたかしら?」
「うんうん、やっと退院してきてね。少しずつ散歩してる姿をみたよ」
「あの時はびっくりしたね。救急車が来たんだから」
「そうよね、心配したね。でも、大したことなくて奥さんほっとしていたよ」
「年はとりたくないね。私らもあっちこっちが痛くてね。病院にいったり薬をつけたり、忙しいよ」
おばあさんもいろんなところが痛いのかな?僕は二人の話をじっと聞いていた。
しばらくお話した近所の人間はどこかへ行ってしまって、またおばあさんは「どっこいしょ」と言って椅子に座った。すると
「ごめんください」と女の人間の声がした。
「はい、いらっしゃい、あらあらかわいいね、ぼうやかしら?」
「はい、男の子です。今日はお天氣もいいので、お散歩に来たんです」
「まあ、3か月くらいかしら。お母さんは大変でしょう?」
「はい私は初めての子なので、いろいろわからなくて、でも夜は案外眠ってくれるので、起きるのは一回くらいなんです。助かってます」
「あらら、親孝行な息子だね。よくねるんだ。昼間にこうやって太陽に当たってるとよく寝るんだよ」
「そうなんですね。私は母がもう他界しているので、近くに聞く人がいなくて不安も多いんです」
「あら、それならいつでもここへ寄りなさい。この近所には子育てのプロが何人もいるよ。私も二人の息子を育てたからね、何でも聞いて」
「それはこころ強いです。困ったら来てもいいですか?」
「もちろんだよ。昼間はお客さんが少なくて、昼寝ができるくらいだからね。いつでも来てくれていいんだよ」
「ありがとうございます。なんだか駄菓子ってなつかしいですね。小さい頃母にねだって買ってもらってました。くじの付いてるガムとかあったなー。まだ売ってるのかしら?」
「あるよ。中を見ておいで。赤ちゃんは私が見ててあげるから」そう言っておばあさんは赤ちゃんの乗っている小さな車のそばに行った。
「わー、なつかしいです。これ3つもらおうかな。今夜うちの人が帰ってきたら、見せてあげよう」
「仲がいいんだね。だんなさんは、同じ年くらい?」
「ええ、同じ年で結婚しました。二人とも新米です。でも、最近うちの人も疲れてて、帰ってもあまり話をしないんです。これ買って帰ったら喜ぶかも?」
「いいね、懐かしい子どものころの話ができるじゃないか。みかんの飴もあるよ」
「わー私これ大好きでした。最近お店で売ってないと思います。ありがとうございます」
その人間はとてもよろこんで、いくつかの駄菓子を買った。
「おばちゃん、ありがとうございました。また、散歩しながら来ますね」
「ああ、いつでもおいで」
おばあさんが、そう言うと金庫を開けて、ざらざらと新しいお金たちが入ってきた。
僕は「こんにちは」と言ってみた。すると、
「こんにちは」
といくつかのお金が返事をした。
「皆さん、さっきの人間の財布からきたんですよね?」
「そうだよ」
「さっきの人間とても喜んでいましたね。皆さんはとても素晴らしいです」
「うん、やっとあのお母さん笑ってくれたんだ」
「そうなんですか?」
「そうだね、赤ちゃんを産んでから、昼間は赤ちゃんと二人だから、まともに話す人がいなくて淋しかったみたいだったよ。今日は朝からごきげんで、散歩なんかして僕たちを外に出してくれたんだ」
「そうだったのですね。人間は淋しいと思うんですね?」
「そうだよ。人間の方が淋しがりやじゃないかな?話を聞いているとそんな氣がする」
「僕は、外に出た時に、財布から落とされて地面にしばらくひとりぼっちになったことがあるんです。その時はとても悲しくて淋しかったんです。きっとそんな感じなのかな」
「そうだね。たぶん似ていると思う」
「あなたは淋しかったことがありますか?」
「俺は、何度もぐるぐるまわったけど、一番淋しかったのは、銀行の金庫に入れられていた時かな」
「銀行の金庫はどうして淋しいんですか」
「だって、毎日数えられるだけで、人間が喜んでくれないもの」
「そうですか。やはり金庫よりも財布の方が、人間が喜んでくれるんですね?」
「財布だと財布を持ってる人間が欲しいものと交換するから、喜んでいるところが直接見れるだろう」
「そうですね。僕もそう思います」
すると、僕たちの部屋の下にいるお札が答えた。
「銀行にいたって人間を喜ばすことができるんだぞ」
「えーどうやって?」
「俺たちは、人間の通帳というところへ、名前が書いてあるのさ。そして人間は窓口だけじゃなくて、通帳から直接俺たちを受け取ることができるんだよ。すると、俺たちは機械を通って、人間の財布に入るんだ。だから、金庫にいてもまたぐるぐる回って人間のもとへ行けるんだよ」
「そうなんですね。僕はまだあまりぐるぐるしていないから、わからないけど、もっといろんなところに行きたいな」
「そのうち、ぐるぐるできるようになるよ」
新しいお金の友達と話をしていると、太陽はだんだん低いところへ動いていた。
「おばちゃん、ガムかいたいんだけど」大きなかばんを背中に背負った子どもたちが、うようよお店にやってきた。たちまちお店は騒がしくなった。
「こんにちは。もう学校終わったの?」
「うん、今日は職員会議があるからみんな家に帰りなさいって言われた」一人の子どもがいった。
「そうかい、じゃ、一度家に帰ってからお母さんに聞いてからおいでよ」おばあさんは言った。
「俺は、お金もってるから、お母さんに言わなくても買っていいんだよ」一人の子どもが言った。
「でも、他の子どもたちも欲しいのにお金がないだろ」おばあさんは言い返した。
「とにかく、一度家に帰って、着替えてランドセルを置いてから来なさい」
「はーい」と子どもたちは答えて帰っていった。
「やれやれ」とおばあさんはまた椅子に腰かけて休んだ。
それから、少しの間、おばあさんは忙しくいろんな人間と話をしていた。
お店に並んでいるお菓子というものとお金を交換するのだ。
さっき来た子どもたちは、洋服を着替えて小さな財布を持ってまたお店にやってきた。
お店の中はガヤガヤと騒がしくなった。
何度もレジは開いたけど、その日は僕の出番は来なかった。
代わりにたくさんの友達がレジに入ってきた。
その中に顔に「10」と赤い色で書いてある10円玉が入ってきた。僕はあいさつした。
「こんにちは、初めまして。君も10円玉だよね?どうして顔に赤色の数字が書いてあるの?」
「おう、よくぞ聞いてくれた。これはな、さっきまでいた財布の持ち主のまあくんのママが書いてくれたのよ。まあくんは今お金の勉強をしていてな、俺のことが10円玉だとわかるようにママが教えているんだよ」
「へーすごいな!かっこいいですね」
「そうだろ!まあくんは小学校に通っていて、新しい勉強ってやつをしているんだ。毎日財布をあけて俺たちを手に取って、ちゃんと覚えてくれたんだ。うれしかったなあ。まあくんの手はあったかいんだ」
「へー、いいですね。まあくんって子どもでしょう」
「そうだよ。俺たちのことを大事そうに握ってくれるんだ」
「今日はまあくんはお菓子と君を交換したんだね」
「そうだよ、まあくんと離れるのは淋しいけど、今日は久しぶりにママと駄菓子屋さんに行くんだと朝から喜んでいたからね。俺もうれしかったよ」
「よかったですね、まあくんが喜んでくれて」
「えっへん、そうだよ。俺はちっとも淋しくなんかないんだ」と少し寂しそうにした。
その夜も、僕たちはおばあさんに数えられて、金庫に入れられて眠った。
暗くなってしばらくしておじいさんが帰ってきた。
おじいさんとおばあさんはしばらくテレビという大きな音が出るものを聞いていた。
僕にも聞こえたけど何を言っているのかはわからなかった。
おじいさんとおばあさんは小さな声で話を終えると、やがて静かになった。




