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第四章 第一話 子どもが喜ぶもの

第一話 子どもが喜ぶもの

 

僕は一日中、同じ場所で人間が氣づいてくれるのを待った。

なんだか人間がとても大勢歩いてくるようになり、僕は人間の靴で踏まれそうになった。

そして、誰かの靴にあたって、ジュースの箱の近くへ動いてしまった。

そうすると、もっと人間からは見えにくくなっていると思った。

雨は降らなかった。太陽が移動していた。

朝見えていたところから、真上になって、反対方向へ動いていた。

相変わらず人間は通り過ぎて、僕に氣づいてくれなかった。


ずいぶん待ったけど、僕に氣づいてくれるのは、小さな鳥や毛むくじゃらのニャーとなく生き物くらいで、それも喜ぶこともなく通り過ぎた。

何人かの人間がジュースを買ったけど、僕には全く氣づかなかった。


太陽がまた空の低い位置に動いて、空の色が青色からピンク色になってきたころ、誰かがジュースを買いにやってきた。

すると、その人間はジュースをとるのに姿勢を低くした。その時

「おっ、ラッキー、10円みっけ」と言って僕に氣づいて手でつかんでくれた。

僕はとてもうれしかった。


その人間は男という人間なのかなと思った。大きなかばんを持っていた。

しばらくその人間の手の中にぼくは包まれていた。


「ただいま」と言って、その人間は靴をぬいだ。

「おかえり、お弁当箱出してね」という声が聞こえた。

「わかっとる、ちょっと着替えるから待って」とその人間は言うと、僕を広い台の上に置いた。

「お兄ちゃん、もうご飯できてるから、早く手を洗ってきなさい」ともう一度声が聞こえた。

「おう」と言って、僕を台の上に置いたまま、別の部屋に行ってしまった。


ここはどこだろう?ポケットにも財布にも入れられなかった。

でも、大事に手のひらの中に包まれていた。

子どもほど小さくはなかったけど、大人の人間ほど大きいわけでもなかった。

一体あの人間は何者だろう。

お兄ちゃんと呼ばれていたな?財布の中じゃないので、確かめようがなかった。


部屋の中は真っ暗になった。夜なのかな。しばらくして、突然明るくなった。

さっきの人間ともう一人小さな人間が入ってきた。

これは子どもだと思った。

「お兄ちゃん、遊んでよ」

「兄ちゃんは勉強があるんだから、あっちにいっとけよ」

「いやだ、いやだ」と子どもはお兄ちゃんという人間にくっついて離れなかった。

その子どもが台の上の、僕に氣づいた。

「あれ、お兄ちゃんこれ10円玉じゃない。いいな。欲しいな」

「これは俺が拾ったの、だめ!」

「いやだ、いやだ、ほしい」と大きな声を出し始めた。

「もう仕方ないな、じゃこれやるから、あっちにいけよ」というと僕をつかんで子どもに渡した。

「わーお兄ちゃんありがとう!やったー」と子どもは喜んでいた。

僕は子どもの手の中に包まれて氣もちよかった。

柔らくてあたたかかった。


子どもはその僕を別の部屋に持っていき、小さなお財布に入れた。

とても大事にそして、何よりうれしそうに、僕を見た。

僕もうれしかった。

小さな子どもの目は僕を見て、何か考えていた。


「何が買えるかな?明日ママに駄菓子屋さんに連れて行ってもらおう」と言った。

子どもは駄菓子やさんというところに欲しいものがあるのかもしれない。

そこで僕は役に立てるのかと思うと嬉しかった。


久しぶりの財布の中で、僕は他のお金たちに挨拶をした。

「こんにちは、初めまして。ここはどこですか?」

「ここは、あきらくんの財布の中よ」と教えてくれた。あの子どもはあきら君というのだな。

「皆さんは、どこから来たんですか?」


「私は銀行から、ママのお釣りになってこの家に来たわ。あきら君がお小遣いをねだってこの財布に来たってわけ」

「俺は、あきらくんのおじいちゃんのお年玉だよ。お正月に大人の人間が子どもに袋に入れて渡すんだ。子どもはとてもよろこぶんだよ。おれはそれ以来、ずっとこの財布にいるよ」

「おれは、あきら君がママのお買い物のお手伝いをしたときのお駄賃にあきら君がもらったものさ、あきら君は、お金の違いがちゃんとわかるんだぞ!だから、ママがあきらくんに財布を買ってあげたんだ」

「へーじゃ皆さんあきらくんに大切にされているんですね」

「そうだな、この子どもは俺たちを見てとても喜んでくれるんだ」

「そうね、あきら君は私たちを大切にしてくれるわね」


僕はそれを聞いてとても安心した。今夜はあきら君の財布の中でゆっくり眠れそうだ。

僕はうれしかった。


あたりが明るくなった。朝が来たのかな? 昨日は外で寝たから、寂しかったけれど、初めて空と太陽を見ることができた。そして、今日は友達とあきらくんの財布の中でぐっすり眠った。


朝から、あきら君の声が聞こえた。

「ママ、今日駄菓子屋さん連れてってー」

「そうね、ママね、忙しいから、ちょっと待って。先にお兄ちゃんのお弁当作って、あきらくんを幼稚園につれていかなくちゃいけないのよ」


外はなんだか、バタバタとママの足音が聞こえていた。しばらくしてあきら君が財布を開けた。

「今日は駄菓子屋さんに連れて行ってもらうからね、いい子にしててね。幼稚園にいってくるからね」

そういって、僕たちをまん丸いかわいい目で見てから、財布をそっと閉めた。



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