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第三章 第二話 ひとりぼっちの朝

第二話 ひとりぼっちの朝


光は見えなかったが、あたりが騒がしくなって物音がし始めたので、きっと朝なんじゃないかと思った。人間が銀行に入ってきて、話し声が聞こえてきた。

「おはようございます。本日も一日よろしくお願いします」

「窓口をきれいに掃除しておいてね」などと、人間の言葉が聞こえた。


僕は今日はどこへ連れていかれるのだろうか?

他の10円玉が話してくれたような誰かの財布に行くのだろうか?

ドキドキとワクワクが入り混じっていた。

いずれにしても僕たちは人間を喜ばせることができる素晴らしいお金という存在なのだということがわかってうれしかった。僕は生まれてきてよかったと思った。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「これだけ預金をしたいのですが・・・」


人間の靴の音が騒がしくなった。もっとたくさんの人間が集まってきているのだろう。

僕たちは、大きな箱の中で静かに待った。みんな外の人間の音を聞いていた。レジの箱が開けられるたびに明るくなって、まぶしくなった。何個か100円玉や50円玉や10円玉が出て行った。僕はまだレジの中にいた。


どれくらいの時間がたったのだろうか?

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「この支払いをお願いします」と男と言われる人間の声がした。そして、レジの入口が開いた。

女という人間が僕をつかむと、広いお皿の中に入れた。100円玉も一緒だった。

「ありがとうございました。210円のお返しでございます」

その人間は「ありがとう」と小さい声で言って、僕たちをポケットに入れた。


僕はあいにく財布に入れられなかった。一緒に来た100円玉に、

「財布に入れられなかったね」と言うと、「よくあることだよ」と言ってそれきり黙ってしまった。

ポケットの中は、人間が歩く度に前に後ろに動いた。ズボンという洋服の端っこについているらしく、歩くとゴソゴソ動くのだ。

「あーまたぶつかっちゃったね。ごめんなさい」

「お前のせいじゃないさ。財布に入れない人間が悪いんだ」

100円玉は二つともポケットに入るのが初めてじゃなかったんだ。

だから、僕とぶつかっても怒りもしなかった。


しばらくして人間が止まった。僕らもやっと動かなくて済んだ。

ほっとしているのもつかの間、人間の手がポケットに入ってきた。

どうやら100円玉を探しているらしい。

僕たちのほかに何枚か一緒にポケットに入っていたので、人間は何度もポケットからお金を出しては、手のひらで確認して、またポケットに手を突っ込んだ。

僕は「ここだよ」と言ってはみたものの、どうやら、出番ではなかったらしい。

一度手のひらに置かれたが、またポケットに戻されようとした。


と、その時、僕はポケットに入らず、人間の靴の先に落ちてしまった。

人間はどうやら氣づいていないようだった。僕は「おーい、僕はここだよ」と言ってはみたものの、人間はジュースと言う飲み物をとって、どこかへ行ってしまった。


僕はどこへいるのかわからなくなった。目の前には大きなジュースの入っている箱があって、それから何人かの人間が僕の前を通りすぎた。僕が小さいからみんな氣が付かないようだった。

僕は人間を喜ばせるためにやってきたのに、だれも僕に氣づいてくれなかった。

なんだかとても悲しくなった。


そのうち雨が降ってきた。しとしと僕の顔を濡らしてしばらく降り続けた。

暗くなるととくに人間は見えなくなった。

時々、にゃーと鳴く生き物が僕の方をちらっと見ては通り過ぎていく。

動けない僕は、じっとここにいるしかなかった。僕はいつのまにかそのまま眠ってしまった。


あたりが明るくなってきた。もう雨は降っていなかった。

僕は今日こそは人間に氣が付いてもらえると思ってワクワクしていた。

初めて空を見た。白かった色がだんだん青くなっていく。

そして、ついに光のかたまりが見えた。きっとこれが太陽というのだろう。


僕は、ひとりぼっちで財布にも入っていなかったけれど、青い空と太陽を見ることができたので、うれしかった。でも、友達の10円玉やいろいろ教えてくれた100円玉が恋しかった。そして何よりおばあさんの財布が恋しかった。


あたりが明るくなると少し離れたところに、丸い輪っかの着いた大きな箱がいくつも動き始めた。

貯金箱の中で話していた10円玉が言っていたこれが車というものだろうか?

誰かに確かめたかったけど、あいにくあたりには僕と同じお金はいなかった。

そして、おばあさんのしわしわの手に包まれたいと思った。とてもあったかい手だったことを覚えている。久しぶりに動いて、僕は疲れて眠ってしまった。



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