第一章 第二話 お金って価値があるの?
第一章
第二話 お金って価値があるの?
「今度こそ俺の出番かと思っていたのに・・」と小さな声で後ろの方で声が聞こえた。
「あなたはだあれ?」と僕が聞くと、「俺も100円玉だよ」と言った。
「君もさっきの人と同じ100円玉なの?」
「そうさ」
「へー、なぜ君はつかまれなかったのかな?」
「それはおばあさんが欲しかったものの値段が、100円玉1個と5円玉一個で交換されたからだよ」
「何と交換されるの?」
「俺たちにはわからないよ。でも、このおばあさんは、交換が終わったときに必ずこの財布に『ありがとう』と言うんだ。だから、何と交換したかはわからないけど、おばあさんはいつもしあわせそうだよ」
「へー、そうなんだ。あなたの出番は次かもしれないね」
「うん、そうだといいな。この財布に入ってくる前に、おれは大きな男という人間の持っている財布に入っていたんだ。とてもとても窮屈で、せまっ苦しかった。みんな顔を突き合わせて、ぎゅーぎゅーに押し込まれていたからね」
「そんなにたくさんいたの?」
「そうだな、でもこの財布みたいに、毎日光が射すこともなかったし、いつも大きな男のポケットにいれられていたから、みんな早く出たい出たいと思っていたんだ」
「どうして出たいと思ったの?」
「だって、汚くてせまいところにいつまでもいたくないだろ?」
「うん、きれいな方がいいね」
「お前さんは新しいから、まだ顔がピカピカだろう。俺だって最初はそうだった。でもな、俺たちは人間の好きなものと交換される運命だから、いろんなところへ連れていかれるんだよ。そうやっていろんな財布を渡り歩いているうちに、顔が汚れてしまうんだ。汚い財布もあれば、明るい財布もあるし、なんだかお札と一緒に押し込められるときもあって、大変な時もあったよ。」
「お札って何ですか?」
「お札はさっきの100円玉が言ってたように、紙でできたお金だよ」
「お金って、僕たちのこと?」
「そうだよ。俺たちは顔や形がちがっても、お金と人間たちに呼ばれている。その中で、小さくて硬いものを100円玉とか10円玉と呼んでいるんだ。お札は紙というぺらぺらの薄い四角いものでできているけど、俺たちより、もっと大きなものと交換できるらしい」
「大きなものと交換できる?大きなものとはなあに?」
「俺も良くは知らないが、人間たちはあれもほしい、これもほしいと、欲しいものばかりの話をしているんだ。誰かが持っていたら、自分も欲しいと言って手に入れようとする」
「僕たちのようなお金と何か欲しいものを交換するのが人間のやることなの?」
「きっと、そうだろうな。俺もこの財布に来るまでに何百回もの違う財布の中に入れられた。そのたびに持ち主は違ったけれど、お金とものを交換すると嬉しそうにしているぞ」
「へー、それがお金のやることなんだね?」
「きっとな、財布の外に出ていけばわかるさ。外の世界はひろいぞ。大きな男の財布に入っていた時、ほとんどのお金が早く出たいと思っていたよ、俺もあるときにやっとつまみ出されて外に出たら、大きな建物のレジと呼ばれる別の箱の中にはいったんだ」
「レジって何?」
「お金の種類が完全に別の部屋に分かれていて、同じ顔のお金ばかりと一緒に入れられるんだ」
「へー、じゃ僕は10円玉のお金の部屋に入るってこと?」
「そうそう」
「おもしろいね。入ってみたいな」
「そうだな。おばあさんが、お店という建物に行って、何かと交換してくれたらお前もレジにはいれるぞ」
「へーたのしそうだな」
「何が楽しいもんか。レジに入ったら、一日に3回はその部屋から出されて、人間の手で数えられるんだぞ。汚い手でつかまれて、たまったもんじゃない」
「ええー、3回も取り出されるの?」
「そうだよ。お店によってはもっとだ。俺がいったところはスーパーという大きな大きないろんなものが並べてあるところのレジにいったので、一日五回は数えられたぞ。寝る時間もないんだから」
「そんなに忙しいの?」
「俺たちは忙しくないよ。人間たちが忙しいんだ。俺たちの数を数え間違えると、怒られるんだ。なんか偉そうなやつが出てきて、数えているやつを怒鳴っていたんだ」
「怒鳴るって?」
「こんな感じだぞ~うおおおおおおお」とそのお金は大きな声を出した。
「わ、わかったよ。もうわかったから、静かにして。僕たちお金は、人間を喜ばせるために、ものと交換されて、財布とレジと銀行の建物の中をぐるぐる回っていくことがやることなの?」
「まあ、そういうことだな。時々子どもと言う小さな人間がいて、その子の手は小さくてあったかくて柔らかいんだ。その子供たちはとても大事に俺たちをにぎってくれるんだ。それがとても氣もちがいいんだ。そうやっていろんな財布を渡り歩いているうちに、顔が汚れてしまうんだ」
「小さな人間の子どもってお金を持ってるの?」
「たいていは大きな人間が持っていて、時々子どもに渡すんだ。子どもは自分の好きなお菓子と交換できることを知っているので、目をキラキラさせて喜んでくれる。おれはその時が一番心地いいな」
「へー、僕も早く子どもの手に入りたい」
「このおばあちゃんには、3人の孫がいるようだ。その子どもたちが来た時にチャンスがあるかもしなれいな」
僕はわくわくした。子どもの手って、小さくて暖かいんだって。どんなに心地がいいんだろう。
すると、さっきまで黙っていた隣の10円玉が、小さい声で言った。
「あまり期待しない方がいいぜ」
「えっと、それってどういうこと?」僕は聞いた。
「俺が前にいた財布の持ち主は、大きな女という人間だった。二人の子どもがいて、ある時にお小遣いといって、俺だけじゃなかったけど何枚かのお金を渡したんだ。そしたら、その子どもがいったのさ。
「ママ、これだけなの?これだけじゃおかし買えないよ」
「俺はショックだった。子どもが喜んでくれると思って張り切って財布を出たのに、子どもはがっかりした顔をしたんだ。10円玉なんてそんなもんなんだと落ち込んだよ」
「そうなんだ。喜んでもらえない時もあるんだね」
「あら、子どもは貯金箱と言う器をもっているのよ。その中にお金をためてほしいものを買うの。貯金箱に入れるなら、どんなお金でも子どもたちは喜んでくれるわ」と小さい丸い1円玉が言った。
「私たちは、一枚では何も買えないけれど、いくつも集まると、欲しいものと交換できるようになるのよ。だから、たくさん集まるまで貯金箱という器に入れてもらうの。そして、大勢集まったら、子どもはうれしそうに銀行に行って、お札に変えてもらえるのよ」
「お札って、紙の?」
「そうよ。1000円、5000円、10000円という種類もあるの。私たちが1000個集まったら、1000円札と交換してもらえるのよ」
「へー、すごいな。一個ではお菓子は買えないけど、たくさん集まったら買えるということだね」
「そうよ。だから残念に思わなくていいの。私たちには価値があるの。それなのにその女と言う人間は、子どもにそのことを教えてないだけなの」
「なるほどな、俺の氣持ちもすっきりしたよ。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。私たちは、違う顔をしているけれど、ちゃんと役割があるのよ。だから胸をはって、財布の中にはいっていればいいの」
一円玉の言うことは、財布の中にいたお金のこころに響いた。
「そうだ、そうだ!」
僕もそう思った。
それからどれくらい時間がたったのかな。おばあさんが次に財布の入口をぱちりと開ける時が来た。




