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第一章 第一話 ぼくは10円玉なんだ!

もし、あなたのお財布の中にある10円玉が、ある日突然、話し始めたら――。


「ぼくは、何のために生まれてきたんだろう?」


これは、そんな疑問を抱いた一枚の10円玉が、いろいろな人のもとを旅する物語です。


財布から出て、誰かの手に渡り、また別の場所へ。


その旅の途中で、10円玉はたくさんの仲間と出会い、いろいろな出来事を経験します。


そして少しずつ、自分の「価値」について知っていきます。


お金は、いったい何のためにあるのでしょう。


そして、人の「価値」は、何で決まるのでしょう。


10円玉と一緒に、ちょっと不思議な旅に出てみませんか。

第一章 

第一話 ぼくは10円玉なんだ!


僕は造幣局ってところで、大勢の仲間と一緒に生まれた。最初はとなりにぴったりと誰かがくっついて、テープでぐるぐる巻きにされ、長い長い道をひたすら、移動して、ずいぶん騒がしい建物の中に運び込まれた。

動けないから、すべてがなすがままだった。僕は何者なんだろう?ここはどこなんだろう?

周りをきょろきょろしても、暗い入れ物の中に入っていたので、何もわからなかった。


周りの音の中に、人間の言葉という音が聞こえてきた。雑音の中に、くり返し使われるはっきりとした意味のある言葉が聞こえてきた。


「おはようございます」

「おはようございます。今日は通帳にこれだけ入れたいんやけど、お願いできるかな」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください」


こんな感じの音がくり返し聞こえてきた。でも、まだ何も見えなかった。


ある日、突然ぱっと明るくなって、あっという間に大きなお皿の中に、知らない顔のものたちと一緒に投げ出された。


まぶしくて、最初は何も見えなかったけど、なんだかしわしわな指でつまみだされ、お皿とは違う入れ物の中に、僕の顔と違うものたちとザザーと入れられた。

ようやく、見えたと思ったらまた、真っ暗で何も見えなくなった。


「お前ピカピカだな、出てきたばかりだろ?」と真っ暗な中で声がした。

「えっと、だれですか?」

「おれは100円玉だよ。お前よりももっとたくさんの人を喜ばすことができるんだ」

「えっと、100円玉さんというのですね。僕のこと知ってますか?」

「知ってるも何も見たらわかるやないか。10円玉くん」

「僕って10円玉っていうんですか?」

「そうや。お前のとなりにおるのが、5円玉で、真ん中に穴があいてるやろ?そんで、そっちは、小さくて軽い1円玉や」

「へー、みんな形や色が違うんですね。なんかうれしいな。はじめまして」

「最初はおれもそんな感じでワクワクしていたなあ、でもそのうちわかるで、俺らには到底かなわないくらいの大親分がおるねん」

「大親分って何ですか?」

「俺らは、みんな丸くて固いやろ。顔の形や名前はちがうけど。そうじゃなくて、紙というもっと薄くてぺらぺらのやつがおってな。そいつらには到底かなわないくらいの力があるのよ」

「へー、力って何ですか?」

「力というのは、人間を喜ばせることよ。おれは100円玉だから、100円で買えるものと交換される。たいてい俺の顔を見て、喜んでくれるのは子供たちだな。色がいろいろついたお菓子というものと交換され、大きな人間が子どもにお菓子を渡す。すると、子どもの目がキラキラ光って、ありがとうと言うんだ」

「へー、お菓子って何ですか?」

「うん、なんか人間がすきなものらしい」

「すごいですね。あなたはそんな大事なことをしている100円玉なんだ」

「そ、そうだな。えへん。おれはそれくらいは、簡単だよ」

「へー、僕は何ができるのかな?」

「お前は10円玉だから、10円の価値のものと交換される。今の時代に10円で買えるものと言えば、一粒のチョコレートというやつかな?」

「それは、人間が喜ぶものなんですか?」

「まあな、その子供たちがよろこぶものだな。時々大きな人間も喜ぶやつもいたなあ」

「そうなんですね。なんかわくわくしてきたな、それはいつ起こるんですか?」

「そんなの俺にはわからないさ、大きな人間がこの入れ物をあけて、外に出る時が突然くるんだよ。その時にしかわからないんだ」

「へー、この入れ物は最初に入っていた大きな箱とはちがうのですね。この入れ物は何ですか?」

「これは、財布と呼ぶんだ。お前が一番最初にいたのは、大きな入れ物で人間の言葉で「銀行」というようだ。俺たちは最初みんなそこにいるんだ。それから、様々な人間に渡されていく。この財布の入れ物をもっているのは、周りの人におばあさんと言われている大きな人間だ。いつも、この入れ物の掃除をしてくれる。その時に俺たちも新鮮な空氣を吸うことができるんだ。とっても、氣もちがいいんだな」

「そうなんですね。あなたはいつから、この財布というところにいるのですか?」

「この財布には一週間くらいかな」

「一週間ってどれくらいですか?」

「そうだな、この入れ物を掃除して、光と空気をあててもらって、7日目を一週間というらしい。大きな人間は時間を基準として、生活しているらしい。俺たちは見えないけど、聞こえるからよく周りの音を聞くといろんなことがわかってくるぞ」


僕は、どうやらいい仲間に出会ったようだ。僕は10円玉というらしい。一粒のチョコレートと交換できて、それができたら、子どもという小さい人間を喜ばすことができるみたいだ。他にもいろいろ教えてもらった。


財布というこの入れ物の中は、真っ暗で何も見えないけれど、周りにはたくさんの仲間がいた。僕と同じ顔をしていたものもいたけど、ちがう顔のものもいた。まだ、よくわからなかった。


しばらくして、入れ物は突然開いた。

「まぶしい~」と思って、上を見たら、大きな人間が見えた。それは僕たちとは全く違う形をしていた。

二つの真ん丸な目をこちらに向けていた。


この大きな人間が「おばあちゃん」と言われている人間なんだ。大きいなあ!

すると次の瞬間に、しわしわの指が伸びてきて、僕の前にいた100円玉をつかんだ。

「どうやら、俺の出番みたいだな。若いの、行ってくるぜ。もし、またどこかで会ったらお前の話を聞かせてくれよ」そういうと、あっという間に財布という入れ物から出て行ってしまった。


大きな人間は、他にも僕たちの誰かを探しているみたいで、ガザッゴソッと財布の中で指を動かしていた。

すると、少し離れたところにいた真ん中に穴のあいた5円玉というものをつかんだ。5円玉は、周りのもの達に「さようなら」と言って、財布から出て行った。

パタンと音がして、財布の中はまた、真っ暗になった。








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