第七章 光の粒
その日、僕はいろんなお金たちと話をしながら自分の出番を待っていた。
新しくレジに入ってきたお札に話しかけてみた。
「こんにちは。僕は昨日ここへ来たんだけど、あなたはここへ来る前にはどんな人のお財布にいたの?」
「あー、俺のことか?ここに来る前には黒い男性の皮財布にいたよ」
「居心地は良かったですか?」
「俺たちは、ゆっくり休める広くて暗いところならどこでもいいさ」
「その人間は、毎日お財布をお掃除してくれましたか?」
「そんなことはしないさ。なんせ忙しい会社員みたいだったからな。それでも、よく眠れたぞ」
「そうですか。僕が一番初めに入った財布のに持ち主は、毎朝お財布の掃除をしてくれたんです。そこで、他のお金と広いお皿の上で、光を浴びながら、風にふかれながら、お話してました」
「それって、あの伝説のおばあさんの話だろ?前の財布に入ってきた1000円札が話していたよ。次は俺もそのおばあさんの財布に入りたいと思ったよ」
「おばあさんの話知っているのですね。うれしい。良かった。僕ももう一度あのお財布に入りたいんです」
「そうだな、俺も行きたいと思っている」
「どうやったら、おばあさんのお財布にもう一度入れますか?」僕はお札に聞いた。
「そりゃ、祈るのさ。お前は一度おばあさんの財布に入ったことあるだろ。だからイメージしやすいじゃないか。もう一度おばあさんの財布に入っている自分をイメージして、祈ってみろよ」
初めて会ったお札がおばあさんの財布の話を知っていることに驚きうれしかった。
周りのお金たちも僕たちの話を聞いていて、それぞれおばあさんの財布に入ってみたいと言い出した。
僕は本当におばあさんの財布が恋しくなった。
真剣に祈ってみることにした。
でも、今はいろんなところへ行って冒険している真っ最中だから、この旅をもっと楽しもうと思った。
しばらくして、レジが開いた。その時に僕は、お店の人につまみ出された。
「皆さん、また会いましょう」僕はそう言って、広いお皿の中に入った。
僕をつまんだのは、女の人間だった。素早く財布に僕を入れると、お店を出て歩いている様子だった。
カバンに入れられた財布は、ゆらゆらと動いて、やがてどこかで止まった。
しばらく、何も聞こえてこなくなり、静かになった。
暗くて静かになると僕は眠たくなって眠った。
次に目をさましたのは、まだ財布の中だった。
外では人間の声がした。だれかが病気になって病院と言うところにいるようだ。
僕は周りのお金に
「病院って何?」と聞いた。
「人間は時々病気になるんだ。身体のどこかが痛いとか、かゆいとか、要するに壊れるんだよ。それを直してくれるのが病院だよ」と教えてくれた。
「この財布の持ち主が病気なのかな?」
「いや、違うみたいだな。誰かの見舞いに来てるんじゃないか?」
「見舞いって?」
「ああ、病気になった人間の様子を見に来るんだよ」
「なんで?」
「そりゃ、心配だからだろ」
「そうか」
「誰が病気なのかな?」
「おばあさんとか言ってたな」
「えっ! おばあさん」
僕は、少しびっくりした。僕が知ってるおばあさんかどうかはわからないから。
でも、僕は少し心配になった。おばあさんは元氣なのかなと思った。
少しして、もっと人間の声がざわざわ聞こえる場所に動いた。
僕は耳を澄まして人間たちの声を聞いた。
よくわからなかったけれど、もしかして、僕が一番はじめに入った財布のおばあさんかもしれなかった。そう思うと、おばあさんの様子が氣になって氣になって仕方なかった。
すると、財布の中のお札の一枚が僕に話しかけてくれた。
「あのな、落ち着いた方がいいぞ。何が心配なんだい?」
「僕がもう一度入りたいと思っている財布の持ち主がもしかしたら、病気なのかもしれないんです」
「どうして、そう思うんだい?」
「人間の会話を聞いていて、3人の孫がいて、お家の近くにコインランドリーというところがあって、とても似ているんだ」
「そうかい、それは心配だね。でもどうしてそのおばあさんの財布に入りたいんだい?」
僕はゼロが4つついているお札に向かって、おばあさんは毎朝財布を掃除してくれることを話した。
「それは素敵なおばあさんだね。ぼくだって入ってみたいと思うよ」
「そうでしょう。そのおばあさんが病気だと思うと心配でね」
「わかった、僕の友達がたくさんいるから、その友達に聞いてみよう」
「えっと、どうやって聞くの?」
「俺たちは、もともとエネルギーの塊りなんだよ。ばらばらにしたら、一粒の光になるだけなんだ。だから、自分の体を一粒の光にして、友達に送るのさ」
「体をばらばらにする?」
「イメージだよ。自分の体が、光の粒の集まりだとイメージしてごらん」
「うん、なんとなくイメージできたよ」
「そうだ、その調子。その小さい光の粒を友達を思い浮かべながらそこへ飛ばすんだ」
「光の粒ね。うん、そこまではイメージ出来たよ」
「そう、そしたら友達の顔を思い浮かべて、そこに自分の光の粒を飛ばすんだ」
僕は、イメージしながら今まで出逢ったお金たちの顔を思い出した。
真っ黒に汚れた10円玉やよれよれになった1000円札や、一緒に貯金箱に入っていた10円玉たちの顔を思い浮かべた。
そして、光の粒よ飛んでいけ!と心の中でつぶやいた。
なんとなくだったけれど、飛んで行ったような氣がした。
「どうだ、できたか?」
「うん、わからないけど、なんとなく」
「それで、いいんだ。もし、友達や仲間に呼びかけたかったら、この方法を使うとつたわるよ」
「そうか、ありがとう。あなたはなんというお金なの?」
「ほう、僕は1万円札というんだ。財布への出入りの回数は少ないけれど、その分光の粒は多いので、たくさんの友達に光の粒を送ることができるんだ」
「へーすごいね。もしおばあさんのことがわかったら、教えてね」
「もちろんだよ」
それから何日くらい経ったのだろうか。財布の入口は何度か開いたけれど、僕はつまみ出されなかった。そして、光の粒を一緒におくってくれた1万円札も、その中にいた。
「何かわかった?」僕が聞くと、
「この前の病院のおばあさんは、お前が言ってるおばあさんとは違うみたいだぞ」
「そう、なら良かった。聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして。お前も自分の光の粒を友達に飛ばす練習をしたらいいよ」
「わかった。やってみるね」僕はそういうと、毎朝財布をお掃除するおばあさんを知りませんか?という思いを友達に送った。
ある日、お財布の入口が開いた時に持ち主の人間につまみ出されたので、みんなにお別れを言って明るい外に出た。1万円札にもお礼を言って、僕はまた別の冒険の旅にでた。




