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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
四天王始動!

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83/89

83話 死

 ――ジジジッ、ジュッ……!!


 肉が焦げる音と、鼻を突く異臭が荒野に漂う。


ライゼンは歯を食いしばり、激痛に耐えながら、右手の掌から放つ高熱の微小雷流で、左脇腹の裂けた肉を直接焼いて止血していた。全身を襲う激痛に、額から滝のような汗が吹き出る。


「ハァ……ハァ……ッ! これで……少しは持つだろ……!」


 痛みを力任せに打ち消すと、ライゼンは血塗れの脚で力強く大地を踏みしめた。


 戦闘は、依然として死の淵をなぞるように続いていた。


 ゼファキスの放つ不可視の「空間断裂」は恐ろしいほどに正確であり、ライゼンの超高速回避は、常に皮一枚・紙一重の死線を反復していた。


 すでに肉体の限界はすでに超えていた。右腕に二本、左ももに一本、背中に一本。幾重にも刻まれた傷からは、一歩動くごとにボタボタと赤黒い滴が地表へ落ち、足跡となって残る。


 しかし――ライゼンの瞳の炎は、どれほど血を流そうとも消えることはなかった。


「……フゥ。これでは埒が明かないな」


 ゼファキスは微動だにせず、退屈そうに深くため息をついた。


「お前のそのチビチビとした攻撃じゃ、俺に致命傷を与えることなんざ永遠にできねぇよ!」


「確かに。お前を刻み殺すまでに、少しばかり時間がかかり過ぎる。……時間の問題ではあるが、これでは観客も退屈する。実に面白くない……では、少々趣向を変えてみようか」


ゼファキスが初めて、両手を胸の前で突き出し、そのまま世界を押し広げるかのように大きく両腕を開いた。


ライゼンは今までと明らかに異なるゼファキスの予備動作に戦慄し、全身の警戒レベルを跳ね上げさせた。奴の手の射線、攻撃の指向性から一刻も早く逃れるべく、ランダムなステップで横へと跳ぶ。


だが――。


「これでどうだ?」


ゼファキスが静かにつぶやいた瞬間。


ライゼンの足元にあった世界が、唐突に「消えた」。


ドガァァァンッ!!


比喩表現ではない。ライゼンが立っていた半径数十メートルの大地そのものが、ごっそりと切り取られ、物理的な落下を始めたのだ。


視界が目まぐるしく回転する。ライゼンは広大な土塊とともに、荒野のはるか上空――雲に届かんとする高度数百メートルへ、一瞬にして転送されていた。


「ッ~! あいつ、どこまで無茶苦茶やりやがるッ!!」


ライゼンは上空の暴風に打たれ、強烈な重力加速度に揉まれながらも悪態を吐き、必死に体勢を整えた。


自由落下する眼下。豆粒のように小さく見える荒野の真ん中で、ゼファキスが嘲笑いながら自分を見上げている。


逃げ場のない上空。ライゼンは切り札を切らざるを得なかった。

魔力を全開にし全身を雷化させ、雷そのものとなった。


ゼファキスは地表から、上空へ向けて連続で空間断裂の刃を放ち上げた。


「空中では機動力を失う。避けようもあるまい」


しかし、ライゼンはただ一直線に落ちていく存在ではなかった。

天から地へと走る稲妻がそうであるように、大気の抵抗と電荷を捉え、ジグザグと左右に激しく屈折・炸裂しながら、ゼファキスの頭上へ向けて超高速で落雷となって急降下したのだ!


「……ほう! なるほど、確かに本物の雷とはそうやって落ちるものだな! これは私の失策か!」


ゼファキスは愉快そうに声を上げて笑った。


空間断裂の隙間を縫い、大気を裂いて一直線に疾走する紫電の閃光。ライゼンはゼファキスの真上から特大の雷となって激突した。


――ドドォォォォォォォォンッ!!!!!!!!


凄まじい生体エネルギーの爆発。荒野の地表がクレーター状に爆ぜ、もうもうと立ち込める巨大な土煙と衝撃波が全方位へと吹き荒れた。


「……ハァッ……ハァッ……! や、やったか……!?」


ライゼンは膝をつき、激しく肩を上下させながら、砂塵の向こう側を凝視した。雷化した拳には確かな手応えが……。


だが。


風が吹き抜け、モクモクとした土煙が開けた瞬間――ライゼンの表情が凍りついた。

そこに広がっていたのは、絶望などという生ぬるい言葉では表現しきれない残酷な光景だった。

直撃の痕跡。クレーターの中心に倒れていたのは、ゼファキスではない。

城塞の内側へ退避させたはずの、数百の部下たちの姿だった。

ゼファキスは落下の直前、転送魔法によって退避していた兵士たちを、自らの「身代わり」としてライゼンの落下地点へ強制配置していたのだ。


「ソ……ル……? カルダン……ッ!!?」


ライゼンの声が激しく震えた。

兵士の半数は、ライゼンの放った雷撃を真正面から浴び、全身を焼かれて即死していた。残された者たちも、原形を留めぬほどの重傷を負って血の海に倒れ伏している。


「……ライゼン……様……っ」


瀕死のソルが、白煙を上げる口から血を吐き出しながら、かすかな声でライゼンを見上げた。


「すみ……ません……俺たちのせいで……足、引っぱっちまって……っ」


そのすぐ隣で、腹部を激しく損壊させた副官のカルダンが、焦げ付いた手でライゼンの爪先を這うように触ろうとしていた。


「ライ……ゼン……隊長……。どうか……お命を……に、逃げ……て……」


「あ……ああ……っ」


ライゼンは立ち上がった。


だが、膝が激しく笑い、身体が金縛りにあう。自分の放った最大火力の魔法で、守りたかったはずの部下たちを自らの手で殺戮してしまった。ショックと罪悪感が喉を突き破り、かけるべき言葉すら何一つ出てこない。


葛藤し、茫然自失となるライゼンの目の前で――ソルとカルダンの腕が崩れ落ち、二人の息の根が完全に止まった。


「あはははは! 可哀想に! 守るべき『仲間』と信じていた魔法使いに、一瞬で焼き殺される気分はどうだっただろうなぁ!?」


空間の歪みからひょっこりと姿を現したゼファキスが、腹を抱えて可哀想そうに、そして心底愉しそうに嗤っていた。


ライゼンの眼孔が、血走った赤に染まる。


「どうした? 睨むことしかできないのか? お前が弱いのが悪いのだよ。弱者の分際で魔族に挑み、ヒーロー気取りで部下を率いたお前という人間が……愚かの極みなのだ!」


(……殺す……殺す……殺す……ッ!!)


胸を焼き尽くすほどの灼熱の怒り。しかし、ライゼンの頭脳は、皮肉にもその絶望的な激怒の底で氷のように冷たく研ぎ澄まされていた。


どうやってこいつを殺す?


怒りに任せた正面からの攻撃は、すべて転送されて不発に終わる。近接戦に持ち込もうと接近すれば、空間跳躍で逃げられる。手詰まりだ。


残された手は何か――。


ライゼンは走り出した。傷口から熱い血を撒き散らしながら、動き続け、思考の糸を限界まで手繰り寄せる。


ゼファキスは一見、完璧に見えた。絶対的な不可避の攻撃と、絶対的な無効化の防御。だが……奴にはたった一つだけ、明確な「欠点」が存在する。


(……こいつ、俺の攻撃を過剰なまでに『警戒』してやがる……!)


そうだ。どんなに無敵の『転送』であっても、向かってくる攻撃を「認識」しなければ転送の穴を開けることはできない。どんなに絶対の『空間断裂』であっても、対象の「位置・座標」を正しく把握していなければ狙いを定めることはできない。


ゼファキスは圧倒的に強い。しかし、奴の認識の「外」……見えていないもの、認識を超越したものには絶対に対応できない!


ライゼンは体内に残された最後の魔力量を精密に計算した。

少ない。すべてを絞り出しても、巨大な大技を一発……叩き込めるかどうかだ。

ならば、奴が認識できず、逃げられない至近距離で、自分もろとも大技に巻き込むしかない。

走るライゼンの脳裏に、一つの鋭い狂気のひらめきが舞い降りた。


(……やるしかねぇ。これしか……奴の首を獲る方法はねぇ……!)


ライゼンは残された全生命力を燃やし、全身を過剰なまで雷化させて、ゼファキスに向けて一直線に突っ込んだ!

ゼファキスは冷ややかな眼差しで、滑らかに指先を振り下ろす。空間断裂が連続で空気を切り裂く。

ライゼンは肉体を削ぎ落とされ、血を撒き散らしながらも、極限の屈折運動で幾度もの断裂を紙一重でかわし――ついにゼファキスの至近距離へと肉薄した!

次の瞬間、ライゼンは内部の魔力を一気に解放させた。


――バリバリバリバリバキイィィィッ!!!!!


極太の雷光が無差別に全方向へと放たれた。地表が黒く焦げ付き、大気が激しくイオン化してパチパチと音を立てる。荒野全体が、逃げ場のない「超高圧の帯電空間」へと変貌を遂げていく。


「ふん、死に瀕した最後の悪あがきか」


ゼファキスは嘲笑した。

自らの身体へと正確に飛んでくる雷撃の軌道だけを認識し、その着弾点に小さく空間の穴を開け、ライゼン自身へとなんなく跳ね返してみせる。


バチィッ!!


自らの雷を受け、ライゼンの全身が激しく痙攣し、その場に棒立ちとなって動きが止まった。


「隙だらけだな。……これで終わりだ」


ゼファキスは冷酷に宣告し、止めとばかりに水平の空間断裂を叩き込んだ。


スパッ――。


不気味なほど無音の切断音。

完全なる雷と化していたライゼンの首が、胴体から滑らかに離れ、宙を舞った。


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