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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
四天王始動!

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80/89

80話 前線のライゼン

アルス失踪の2日前・・・


 魔界の門を囲む漆黒の城塞が、今日も空を削り取るようにおどろおどろしく聳え立っていた。


 天を突く城壁からは絶えずどす黒い魔気がドロリと滲み出し、太陽の光すら歪めて暗雲の渦を作り出している。鼻を突くのは、爛れた硫黄と古血が混ざり合ったような死の臭いだ。


 人間側の前線基地は、その異界の門からわずか三百メートル離れた荒涼とした丘の上に築かれていた。あの城壁を突破し魔界へと繋がる禍々しい脈道を断つ――それこそが、この死地に集められた人類たちの至上命令であった。


「砲撃用意ッ! 狙いは東壁! てぇぇぇッ!!」


 カルダンの怒号とともに、陣地後方に並んだ重装魔導砲が一斉に火を噴いた。


 ズドォォォンッ!!! ズドォンッ!!!


 地響きとともに放たれた魔導光弾が、真っ直ぐに漆黒の城壁へ激突する。轟音とともに爆風と土煙が巻き上がり、城壁の頑丈な装甲を激しく砕いて生々しい大穴を穿った。


 ――だが、次の瞬間だった。


 ズズズ……ズズズ……。


 傷口からドロリとした黒い魔力が溢れ出し、生き物のように蠢き始める。ほんの二、三秒。魔力の砲撃によって開けられた破孔は、肉芽が盛り上がるように塞がり、何事もなかったかのように傷一つない漆黒の壁面へと戻ってしまった。


「くそが……相変わらずムカつく壁だぜ」


 前線の土塁の上で腕を組み、ライゼンが吐き捨てるように呟く。


 これまで人類がこの城塞を攻め落とせなかった最大の理由。それが、この城壁全体に張り巡らされた悪夢のような『自己修復機能』だった。兵士たちがいくら大砲を撃ち込んで風穴を開けたところで、突入隊が壁に駆け寄る前に元通りに塞がってしまうのだ。


 ――ギギギギギッ!


 砲撃の衝撃に苛立ったのか、東門の重厚な隙間が開き、中から滑り出てくる影があった。全身を硬質な漆黒の鱗で覆った異形の魔族たちだ。体長はゆうに人間の三倍を超え、吐き出す息だけで枯草を腐らせるほどの毒気を孕んでいる。


「ライゼン様! 東側より敵影! 十二体、出てきました!」


「今日で三日連続の同じルートかよ。相変わらず学習能力のねぇ雑魚どもだぜ!」


 ライゼンが億劫そうに肩を回しながら、前線へ一歩踏み出す。その姿が視界に入った瞬間、殺気に満ちていた陣地全体の空気が一変した。


「ライゼン様が出られたぞ!」


「頭領に無駄な手出しはさせるなッ!」


 兵士たちの瞳に、狂熱的なまでの敬慕と士気の炎が灯る。彼らにとって、目の前の粗野な男こそが、絶望の最前線における唯一無二の太陽であった。


「ガアアアアアッ!!」


 地鳴りを立てて突進してくる魔物に対し、ライゼンは眉ひとつ動かさず、ただ右手を無造作に掲げた。


(……この程度の雑魚相手に、無駄な魔力は一滴も払えねぇ)


 ライゼンの掌に集まるのは、紫電の雷光。だがそれは、彼の本来の破壊力から見れば、意識して極限まで絞り込まれた最小限の魔力に過ぎない。


「――失せろ! インドラ!」


 バチィィィンッ!!!


 放たれた一筋の閃光が、空気を裂いて先頭の魔族の胸板へと突き刺さった。


 ドゴォォンッ!!!


 凄まじい炸裂音。超高圧縮された雷撃の衝撃波により、巨躯を誇る魔族の上半身が内部から爆破されたように吹き飛び、黒い体液を撒き散らして肉塊へと変わり果てる。


 後ろに続く魔族たちが一瞬、その圧倒的な威圧に怯み、足を止めた。


「よし! ライゼン様が先陣を崩されたぞ! 畳み掛けろッ!」


「南から回り込め! 第二部隊、東から挟み撃ちだ!」


 ライゼンの放ったたった一撃の起点を見逃さず、カルダン率いる選り抜きの兵士たちが怒号とともに躍り出る。魔族もただでは死なず、太い腕を振り回して鉄甲を叩き割り、壮絶な流血戦が繰り広げられたが、ライゼンが背後で冷徹に、危うい局面だけを弾いてアシストしていく。


「十二体、完全に排除完了しました!」


「良くやった。だが、まだこんなもんじゃねぇはずだ。気を抜くな。」


 ライゼンは鼻を鳴らし、バチバチと指先で燻る火花を揉み消した。


「あ、あの! ライゼン様……!」


 背後から、上ずった熱っぽい声がした。振り返ると、大きな魔導具の鞄を抱えた小柄な少年兵が、顔を真っ赤にして立っていた。名はソル。この地獄の最前線において、複雑な魔導回路の解析に長けた少年だ。その瞳には、憧れの将に対する強い熱量が宿っていた。


「何だ、ソル。大砲の調子でも悪いのか」


「い、いえ! 大砲の動作は良好です! それよりも……さっきの砲撃で、あの城壁の再生能力について気づいたことがあるんです! ここ三日間の砲撃データと今の魔力の波形を分析してわかりました!」


「波形だぁ?」


「はい! あの不気味な自己修復、一見すると絶え間なく行われているように見えますが、修復のコンマ数秒の合間に、魔力の供給が一瞬途切れる脈動の『波』があります! 大型魔導砲3門の着弾時間を計算してズラし、全く同じ座標へ連続集中着弾させれば……結界の再生速度を一時的に超えられるかもしれません!」


 ソルは息を荒くしながら、興奮気味に羊皮紙の計算シートを差し出す。


「そうすれば……今度こそ、あの不気味な壁に『塞がらない大穴』を開けられます!」


 ライゼンはソルの真剣な眼差しをじっと見つめ、不敵な笑みを口元に浮かべた。


「連続ぶち込み作戦か。……いいじゃねえか、小難しい理屈より直感的にわかりやすくて俺好みだ」


「ほ、本当ですか!? ライゼン様!」


 ソルは尊敬する英雄に褒められ、パッと表情を輝かせる。


「おう。明日、その大砲の連射を試してみろ。ただし勘違いするなよ、無理に穴へ飛び込もうとするな。あくまで穴が開くかどうかを試すだけだ。命を無駄にするな」


「はいっ!! ありがとうございます!」


 ソルは胸元で力強く敬礼を握りしめ、跳ねるような足取りで技術班の天幕へと走っていった。その背中を見送りながら、カルダンがどこか誇らしげに目を細める。


「ソルは優秀だが、前のめりすぎて危なっかしいからな」


「……ソルだけではありませんよ。あの若者たちは皆、ライゼン様のお言葉ひとつで死地へ飛び込める覚悟を持っています」


「バカ言え。命を安売りさせるために率いてるんじゃねぇよ」


 ライゼンは鼻で笑い、陣地の奥へと歩き出した。




◇



 夜の帳が落ち、荒野の凍てつく冷気が前線基地を深く包み込む。


 遠くで魔物の不気味な遠吠えが風に混ざる中、中央の作戦天幕には不夜城のようにランプの火が灯っていた。


 天幕に入ると、カルダンが擦り切れた羊皮紙の地図に見入っていた。ライゼンがドカリと革の椅子に腰掛けると、カルダンは手元の記帳を閉じて頭を下げる。


「今日の損耗はゼロです。怪我人が数名ですね。……ライゼン様が前線で睨みを効かせてくださっているおかげです」


「上出来だ。死人が出ねえのが一番だからな」


 ライゼンは吐息とともに脚を組み、深く椅子に身を沈めた。カルダンは少しの間躊躇いを見せた後、真剣な面持ちで尋ねてくる。


「……ライゼン様。ひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「あぁん? なんだよ、改まって」


「失礼を承知で申し上げます。……ライゼン様がその真の魔力を解放し、全霊の超高出力魔法を叩き込めば、あの城壁の結界ごと、城塞を丸ごと蒸発させて粉砕できるのではないでしょうか」


 天幕の中に、ランプの油がはぜる音だけが響く。


 ライゼンはすぐには答えなかった。煙の燻る小さな火種をじっと見つめ、やがてフッと鼻で笑った。


「そりゃあな。俺が本気で雷を繰り出せば、あの程度の壁、一発で跡形もなく吹き飛ばしてやるさ」


「では、なぜ……それをおやりにならないのですか? ライゼン様がお力を出せば、兵士たちの危険も減り、一瞬で決着がつくはずです」


「魔力を温存しておきたいんだよ」


 ライゼンの声から軽薄なトーンが消えた。


 その瞬間に天幕を支配した重厚な魔圧。空気が物理的に重くなり、カルダンの皮膚がチリチリと静電気のような痛みを感知する。


「……来るんだよ。近いうちに、間違いなく『本当の化け物』がな」


 カルダンがゴクリと唾をのんだ。


「四天王クラスのバカげた化け物が、たった一人でこの陣地に降り立ってくる。……もし俺がここで城壁相手に全力を使い、魔力を擦り減らしてみろ。そいつが現れた瞬間、お前らも俺も、一瞬で肉の塊に変えられて全滅だ。だから俺の雷は……そいつの首を確実にハネるその瞬間まで、一滴たりとも無駄にはできねえんだよ」


 己の圧倒的な破壊力を誰よりも理解し、そして敵の真の脅威を冷徹に見極めているからこその温存。


 ライゼンは乱暴に立ち上がると、天幕の入口の布を跳ね上げた。


「だからこそ、お前たちの働きが重要なんだよ。」


 天幕の外に出ると、荒野の夜風がライゼンの頬を叩いた。


 暗黒の城塞が、星もない暗い空にドロリとした巨大な影を落としている。


 ライゼンはポケットに手を突っ込んだまま城塞を睨みつけ、右手にほんの一瞬だけ、火花を走らせた。


(来るなら来やがれ、化け物め。……俺の全霊の一撃を、お前の面に叩き込んでやる)



◇



 翌日の白昼。広大な荒野に、腹に響く激震が走った。


 ソルの提案した「魔導砲の連続集中過負荷砲撃」が、ついに実行されたのだ。


 ドゴン! ドゴン! ドゴォォォンッ!!!


 空気が爆ぜ、三連撃の魔導光線が寸分違わぬ同一座標へと着弾する。すさまじい爆風と土煙が舞い上がり、衝撃波が前線基地の天幕を激しく揺らした。


 黒い結界の魔力がドロドロと傷口を塞ごうと蠢く――だが、連続して叩き込まれたエネルギーの過負荷に耐えきれず、紫色の火花を散らして弾けた!


「や、やりましたッ! 再生が追いついていません! 小さいですが……完全に穴が開いたままです!」


 遠眼鏡を覗いていたソルが、声を裏返らせて歓声をあげる。陣地にいた兵士たちから、一斉に割れんばかりの勝ちどきが上がった。


「へっ、見ろよあの不格好な穴! ざまあみろってんだ!」


 ライゼンは豪快に胸を張り、爽快そうに大笑いした。その背中に、兵士たちが尊敬と愛着に満ちた視線を注ぐ。カルダンが隣に歩み寄り、感銘を受けたように呟いた。


「ライゼン様。やりましたな!これは快挙ですよ。」


「おう。このまま、大砲でじわじわ穴を広げて圧をかけていけば、向こうもしびれを切らして大将が出てくるはずだ!」


「ライゼン様。ただ豪快なだけの方かと思っておりましたが、計算されていたのですね」


「うるせえよ。俺だってな、正面から全部叩き壊してぇのが本音だが……時と場合ってもんを考えてんだよ」


 ライゼンは視線を城塞の暗い深淵に向けたまま、ぼそりと、だが決して揺るがない力強い声で言葉を継いだ。


「俺が我慢して拳を引いて温存に回ることで、お前らが余分に死なずに済むんなら……俺はいくらでも地味な役に徹してやるよ」


 カルダンは一瞬息を詰まらせ、胸の奥から湧き上がる熱い感情とともに、深く、深く頷いた。


「はい。……どこまでもついていきますぞ、ライゼン様!」


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