表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
魔界の門編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/78

64話 化け物

ドンッッッ!!!!


肉を、骨を、容赦なく打ち砕く凶悪な打撃音が訓練場に重く響き渡った。

アルスの解き放った容赦のない一撃は、レオンの腹部――そこに潜む魔物の『中心核』が存在する座標を正確無比に打ち抜いていた。


アルスの分厚い右腕が、レオンの腹部を背面まで完全に貫通している。


「あ――」


サリアの悲鳴すら凍りつくような、凄絶極まりない惨劇。

レオンの口から大量の鮮血が噴き出し、その身体がびくりと硬直した。


だが、アルスの狙いは狂気の中に潜む精密そのものだった。超振動を乗せたその指先が、少年の神経を侵食していた魔物の核だけをピンポイントで捉え、跡形もなく圧砕していたのだ。


誰の目から見ても完全に致命傷。しかし、レオンの瞳からは黒い泥のような濁りが急速に引いていく。脳を支配していた化け物の呪縛が、綺麗に消滅したのだ。


「し、しょう……ありがとう、ございます……。俺、俺の、ままで……死ねる……」


レオンは血の混じった涙を流し、安堵したような弱々しい笑みを浮かべた。そのままがくりと首を折ると、意識を失って完全に気絶した。


「レオン君!! 嘘、嘘でしょう、アルス、あなた何てことを――!!」


サリアが半狂乱になって駆け寄ろうとした、まさにその時だった。


「下がっていろ、サリア! ここからだ!」


アルスは歯を食いしばり、凄絶な苦悶の表情を浮かべた。

自らの左手に黒炎を収束させると、レオンの腹部に突き刺さったままの『自分の右腕の肘関節』を目掛け、超振動を纏わせた手刀を迷わず一気に振り下ろした。


ブシュゥゥゥッ!!!


鮮血が激しく舞う。アルスは己の腕を躊躇なく切断したのだ。

立ち昇る激痛に顔を歪ませながらも、アルスは左手で右の切り口を押さえ、レオンの体内に埋もれた自らの切断した腕へと魔力を流し込む。


「な、何をしてるの……!? 正気なの!?」


サリアの叫びが響く中、物理法則を冒涜するような信じがたい現象が起きた。

レオンの体内に残されたアルスの右腕が、直前に噛み砕き飲み込んだ『魔石』の暴走的な生命力によって、ドロドロと融解し始めたのだ。


それはレオンの欠損した臓器、引き裂かれた筋肉や血管の細胞へと瞬く間に「同化」し、少年の細胞そのものと完璧に馴染みながら、傷口を内側から急速に塞いでいく。


他者の肉体を、己の肉体で直接補完する。

二人の境界線が混ざり合い、レオンの腹部に穿たれた凄惨な穴が、アルスの肉組織によって完全に縫合されていく。


「……はぁ、はぁ、……これで、穴は塞がったな」


アルスは痛みで顔をしかめながら、レオンの身体からゆっくりと身を引いた。

その右腕は肘から先が完全に消失しており、生々しい断面からドクドクと赤黒い血が流れ落ちている。


「アルス、腕が、あなたの腕が……! 今すぐ止血を――」


「必要ない。言っただろう、魔石の力があれば、こんなもの――」


アルスが断面に左手を当て、体内の魔石のエネルギーを爆発的に解き放った。

瞬間、肉の断面から骨が、筋肉が、血管が、異常な速度でニョキニョキと生え出し、おぞましい音を立てて形を成していく。ほんの数秒のうちに、失われたはずの「右腕」が何事もなかったかのように生え揃っていた。


アルスは新しく生えた右手の指をグッパーと動かし、感覚を確かめるように重い息を吐き出した。


「……っ」


その光景を目前で目撃したサリアは、救命の手を止めたまま、ガタガタと全身を激しく震わせてその場にへたり込んだ。


傷口が跡形もなく塞がり、穏やかな寝息を立て始めたレオン。

そして、自らの腕を躊躇なく切り落とし、魔石の力で一瞬にしてそれを再生させてみせたアルス。


「……あ、アルス……あなた、本当に、大丈夫なの……?」


サリアの声は、完全に引きつり、震えていた。

その瞳に宿っているのは、安堵などではない。純粋で、底知れない「狂気への恐怖」だった。


弟子が助かったことへの安堵など、いま目の前で起きた異常すぎる光景によって綺麗に吹き飛んでいた。自らの肉体を他人に植え付け、腕を生やす人間など、この世界のどこを探しても存在しない。


「これは……魔法、なの……? 魔法使いは、こんなこと、できない……。あなた、本当に……人間なの……?」


人間離れしたその異質すぎる力。神の奇跡か、あるいは魔物の業か。

サリアは目の前に立つ男が、自分たち人間とは決定的に違う「何か得体の知れない怪物」へ変貌してしまったのではないかという恐怖に、ただただ打ちのめされていた。


アルスは、恐怖に慄くサリアの視線を逃げることなく真っ向から受け止めた。

そして、新しく生え出たばかりの滑らかな右腕を静かに見つめ――何一つ、言葉を返さなかった。


静まり返った訓練場には、ただ、生き延びた弟子の静かな呼吸音だけが、虚しく響き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ