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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
外の世界

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6話 鳥籠の外

成人の儀から一年。俺の身体はもはや、かつての面影を失いつつあった。  「覚醒の果実」を何個も食らい、死の淵を歩くような修行を繰り返した結果、俺の肉体はただ立っているだけで周囲の魔力を吸い込みんでいるような、異様な雰囲気を放つようになっていた。村人たちは俺を「無能の壊れ物」ではなく、得体の知れない「不気味なナニカ」として、遠巻きに眺めるようになっていた。

そんなある日、俺は村長に呼び出された。

「アルス、お前に特命を与える」村長は一度も目を合わせず、古い羊皮紙を差し出した。一年前、脱走した四人を追った精鋭二十名の討伐隊。彼らからの連絡が、三ヶ月前から途絶えたのだという。

「彼らへの補給と現状確認、そして……」  村長の声が低くなる。 「反逆者たちの回収もしくは殺害。これが任務だ」

笑わせる。二十人の精鋭が音信不通になった場所に、魔法の使えない俺を一人で送る。これは「任務」などではない。奇怪な行動を繰り返し、村の和を乱す俺を適当な理由で排除するための、厄介払いだ。  もし俺が死んでも、回路のない俺から魔法の秘密が漏れる心配はない。村にとっては、邪魔者が消えて万々歳というわけだ。

「……了解した。すぐに向かう」

俺は拒まなかった。この狭い村でどれだけ己を磨いても、本物には届かない。ライゼンたちを追う口実が手に入るならなんでも構わなかった。  ただし、条件が一つ出された。

「サリアを連れて行くことは許可できない。彼女は村の至宝だ」

釘を刺されるまでもない。彼女はこの一年で、村で唯一の治癒魔導士として完成されつつあった。彼女を外へ出すことは、村にとって核兵器を手放すようなものだ。

翌朝、俺は誰にも告げず、村の結界を抜けた。背負い袋には最低限の補給物資と、前世の知識で手入れした鋼の短剣が一本。

だが、森を抜けて数キロ。背後から聞き慣れた「ドタバタ」という足音が追いかけてきた。

「……おい、そこまでだ。出てこい」

巨大な樹の影から、気まずそうな顔をした金髪の少女が顔を出した。  サリアだ。しかも、いつになく真剣な表情で、大きな荷物を背負っている。

「……アルス、おはよう。奇遇ね、こんなところで」 「奇遇なわけがあるか。村長にバレたらお前、幽閉されるぞ。ルールを破るような奴じゃなかっただろ」 「今回だけは特別なの! あなた、自分だけですべて解決できると思ってるでしょ? 私が行かないと、あなたは一週間以内に野垂れ死ぬわ。それか、自分の筋肉の熱で発火して燃え尽きるのがオチよ」

彼女は腰に手を当て、ぷりぷりと怒りながら歩み寄ってきた。

「いい? 私はライゼンたちのことも心配だけど、それ以上に、『自分を粗末にする天才』のおもりをしないといけないじゃない!」 「……悪いが、足手まといにかまう余裕はないぞ」 「足手まとい? 誰が治療して、誰が食事を作って、誰があなたの暴走を抑えると思ってるの? あなた、一人だと『効率』とか言って、その辺の魔物の肉をそのまま食べそうで怖いのよ」 「村の外に魔物はいないだろ・・・」 「例えよ! ほら、行くわよ!」

結局、俺は彼女を追い返すことができなかった。  彼女はわかっているのだ。俺がこの任務で、間違いなく死ぬつもりでいることを。そして、自分がいなければ、俺が人間としての理性を捨ててしまうことを。


数日後、俺たちは村を包む深い森を抜け、はるか遠く、石造りの外壁に覆われた街を目指して平原を歩いていた。 その道中、俺たちは異様な光景に遭遇した。三十人は下らない野党の集団が、豪華な装飾の施されてはいるが年季の入った貴族の馬車を包囲していた。護衛の騎士たちはすでに血の海に沈み、まさに今、中から怯える貴族が引きずり出されようとしていた。

「アルス、助けなきゃ……!」  サリアが杖を構えようとしたが、俺は即座にその腕を掴んで止めた。 「待て。魔法は使うな。ここはアステリアじゃないんだ魔法は目立ちすぎる。……俺がやる」

俺は地面を蹴った。 (神経加速ニューラル・ブースト――発動)

「あぁん? なんだガキ……ぶふぉっ!?」  先頭にいた大男の顔面が、認識より速く沈み込んだ。鼻骨が砕ける快音。 「なっ、何が起きた!? どこから……ぎゃああ!」  野盗たちの動揺が広がるより速く、俺は「点」となって戦場を駆ける。

「おい、見えねえ! 速すぎて見えねえぞ!」 「あいつ、剣も持ってねえのに……拳一つで……がはっ!」 「化け物だ! 人間じゃねえ、死神だぁぁ!!」

魔法ではない。ただの物理的な暴力。  だが、音速に近い速度で振り抜かれる拳は、野盗たちからすれば不可視の鎌と同じだった。一人、また一人と、人間だったものが肉塊へと変わっていく。十秒もかからなかった。生き残った数名が武器を投げ捨てて逃げ出したが、俺は深追いはしなかった。

静寂が戻る。助け出された貴族――クライン王国の貴族であるエドモンド男爵は、震える手で眼鏡を直しながら、腰を抜かしたまま俺を見上げていた。

「あ、あなた様は一体……。剣も、あの最新式の火器も持たぬ身で、これほどの……」 「通りすがりの旅人だ。怪我はないか」 「あ、ああ……助かりました。しかし信じられん。素手で野盗を……。」

「……少し、体が丈夫なだけだ」 「謙遜を! 命の恩人をこのまま行かせるわけにはいかない。どうか、我が邸宅へ。精一杯の礼をさせてください」

俺とサリアは顔を見合わせた。情報と拠点が必要だ。俺たちは男爵の誘いに乗り、馬車に乗り込んだ。

馬車が巨大な門をくぐり、街の中へと入ると、俺は思わず息を呑んだ。  石畳の道、行き交う多くの人々、そして鼻を突く「石炭」と「油」の匂い。警備兵の腰には剣だけでなく、武骨な鉄筒(銃火器)が吊るされている。

「な、なにあれ……。魔法の杖じゃないわよね……?」  サリアが窓から身を乗り出し、目を白黒させている。  魔法がすべてだった村とは違い、ここでは技術が支配していた。空を裂く魔法の光ではなく、硝煙の煙が空を薄暗く染めている。

「……広いな」  村という狭い箱庭で、魔法の才能に絶望していた自分がいかに小さかったか。 「アルス、見て! あの建物、村の家が十個積み上がったくらい高いわよ!」 「ああ、だが浮き足立つな。あの壁の上の連中を見ろ」  外壁の衛兵が持つ銃は、魔法使いでも心臓に一発受ければ死んでしまう「死の道具」だ。

男爵の屋敷に到着すると、俺たちは豪華な広間に通された。男爵からお礼として、見たこともない刻印が打たれた金貨数枚――この世界の通貨を渡された。

「さて、単刀直入に申し上げます。アルス殿、貴方のその腕を、見込んでお願いしたいことがある」  男爵の表情が曇る。 「最近、我が領地周辺に、魔物としか言えないような獣と、それを操るような組織的な野党が増えているのです。領民が次々とさらわれ、商路も断たれ、税収は下がる一方……。私の領地のような規模では軍も動かない。どうか、魔物討伐と護衛を引き受けてはいただけないか?」

俺は思考を巡らせた。資金と情報。これを受ける価値はある。それに、村以外の魔物にも興味があった。アステリアでは村の外には魔力がなく魔物も発生しないとされていた。

「……引き受けよう。だが、代わりにこの辺りの情勢を詳しく聞かせてもらいたい」

承諾した俺に、男爵は語り始めた。大方、周辺国との関係や財政状況など、俺たちには関係のない話が続いたが、その中に、俺の耳を捉えて離さない「欲しかった情報」が混じっていた。男爵が表情を曇らせ、声を一段と低くして漏らした、ある「不条理な噂」についてだ。現在、大陸の各地で「奇跡」を振るう若者たちが現れていること。彼らはある場所では救世主として、ある場所では破壊の化身として恐れられ、ついには「神」として崇める宗教団体まで立ち上がっているという。

「彼らは炎を自在に操り、雷を落とし、一晩で岩の城を築くと言われています。そんな馬鹿な話があるはずがない、と私は思っていたのですが……」

俺とサリアの間で、緊張が走った。  炎、雷、岩。  間違いない。村を脱走した、あの「天才」たちだ。  彼らは外の世界で、すでに「人」であることをやめようとしていた。

「……なるほど。状況はわかった」

俺は渡された金貨を握りしめた。  補給と現状確認、そして殺害。  村長から押し付けられた任務が、一気に現実味を帯びて俺の前に立ちはだかった。

「アルス……本当に行くのね」 「ああ。……まずは、この領地の掃除からだ」

俺は屋敷の窓から、煙を吐き出す街の空を見つめた。  魔法を否定し、筋肉を叩き上げた俺の拳が、外の世界で「神」と呼ばれる連中にどこまで通じるのか。  それを確かめる時が、刻一刻と近づいていた。


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