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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
始まり~アステリア

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5話 暴食

サリアの懸命な治療のおかげで、俺は一週間でようやく動けるようになった。

だが、癒えたのは肉体だけだ。ライゼンに完敗し、泥を舐めた屈辱は、俺の魂に消えない刺青となって刻まれていた。

絶望の底で、俺は前世の――佐藤健一だった頃の記憶を反芻していた。あの時、俺はいつも「仕方ない」と諦めてきた。だが、二度目の人生でまで同じ結末を迎えてたまるか。  心の中に灯ったのは、かつてのような爽やかな向上心ではない。 「次は、殺してでも勝つ」  それは、ドロドロとした狂気的な執念だった。

俺は強くなるために、改めて「自分の体」を分析し直した。なぜ魔法が出ないのか。回路がないからか? それとも、「回路を強引にこじ開けるための魔力量」が絶望的に足りないだけではないのか。ならば、溢れんばかりの魔力を強引に供給すればいい。

深夜、俺は村の深奥にある「禁忌の倉庫」へ忍び込んだ。  厳重な封印の先には、成人の儀で使われた「覚醒の果実」の予備が保管されていた。適合しない者が食べれば血管が破裂して死に至る「毒薬」だ。

「……足りないなら、埋めるまでだ」

俺はためらわず果実を口に放り込んだ。

 一口食べれば内臓が焼ける衝撃が走る。二口、三口。視界が真っ赤に染まり、心臓が爆音で警鐘を鳴らす。

「アルス、何を……そんな、嘘でしょ!?」

背後から響いたのは、俺を追ってきたサリアの悲鳴だった。彼女の目の前で、俺は四個目の果実を無理やり胃に流し込んだ。 「やめて! 死ぬわよ! 魔法使いだって一個で制御不能になるのに、正気じゃないわ!」  必死に俺の手を掴むサリアだったが、俺の肌に触れた瞬間「あつっ!」と手を引っ込めた。俺の体温は、もはや常軌を逸していた。

「……出ないんだ、サリア。これだけ食っても、まだ一滴も『外』には出ない」  

膨大な魔力は逃げ場を失い、俺の肉体を内側から叩き、暴れ続けている。やはり回路がないのだ。

それからの俺の修行は、周囲から見れば「自殺志願者」のそれだった。

俺は魔力を吸収し利用するすべを身につけるため、魔力の濃い沼の底に潜り、自らを窒息状態に追い込んだ。酸素供給を遮断し脳を死の淵に追い込めば、生存本能が体内の膨大な魔力を「代替エネルギー」として強制的に細胞へ定着させると考えた。あるいは、村の裏山にある断崖から、一切の受け身を取らずに飛び降りる。墜落の瞬間、致死的な衝撃を「点」ではなく「全身の細胞」に分散させるよう魔力を瞬時に硬質化できなければ、即死。この究極の背水が、神経の伝達速度を限界以上に引き上げる。ほかにも、思いつく限りの魔力制御の練習を休むことなく繰り返した。血反吐を吐き、骨が軋む音を聞きながら、俺は自分の肉体を「魔法の器」ではなく「魔法そのもの」へと作り替えていった。

「もうやめて、アルス……! お願いだから、自分を壊さないで!」

サリアが何度泣いて止めても、俺は止まらなかった。実際にサリアの治癒がなければ何度も死んでいてもおかしくない状況だった。それでも俺は止まれなかった、今俺を動かしているのは、敗北への憎悪と、ライゼンへのリベンジその思いだけだった。


成人の儀から三か月が過ぎた、ある朝。村を揺るがす戦慄のニュースが駆け巡った。 「ライゼン、イグニス、ウェンディ、ガウルが、結界を破り脱走した」

アステリアの村人は、村の外に出ることは禁止されている。村の外に魔法技術を出さないためだ。詳しくは知らないが、歴代500年間守られてきたルールだ。そのルールが今破られ、村の最強戦力である四人の天才が、アステリアを捨てたのだ。村はパニックに陥った。

「奴らを逃がすな! 死罪も辞さぬ、力ずくで連れ戻すのだ!」

村長の号令により、二十名の「討伐隊」が編成された。  隊を率いるのは、村の防衛を統括する剛腕の守護隊長・バラン。そして、何人もの魔獣を仕留めてきた熟練の魔導士たちが脇を固める。それは、あの模擬戦で俺に負けたカイルなど足元にも及ばない、村の真の「精鋭」たちだった。

村中が討伐隊の門出に釘付けになっている中、俺は冷めた目でその光景を見ていた。 (……勝てるわけがない)  二十人の「秀才」が束になっても、あの、人知を超えた四人の「怪物」には届かない。

「アルス、行っちゃうのね。みんな、行っちゃうのね」  隣でサリアが、震える声で俺の袖を掴んだ。 「……ああ。だが、彼らじゃ止められない。俺が行かなきゃダメだ」 「えっ……? 何を言ってるの? 行くって、どこに!? まさかあの四人を追うつもり!? 無理よ、絶対に無理! またあんなボロボロになるアルスを見たくない!」

サリアは俺の前に立ちふさがり、猛烈に反対した。俺の胸を何度も叩いて止めようとする。だが、俺はその手を静かに振り払い、村長の屋敷へと向かった。

村長の部屋。重苦しい空気の中、俺は単刀直入に告げた。 「村長、俺を討伐隊に入れてくれ。奴らを止めるには俺の力が必要だ」

村長は、書類から目を上げることもなく鼻で笑った。 「アルスか。果実を盗み食いして体を壊したという話は聞いている。……お前の勇気は認めるが、ここはお前の出る幕ではない。お前には『回路』がない。お前が、あの天才たちを相手に何ができるというのだ?」 「俺の力は、日々進化してる。もう負けない。」 「もうよい、下がれ。……自分の身の程を知るのも、成人の務めだ」

冷たく、一蹴された。部屋を出た俺の耳に、遠くで討伐隊が出陣する音が聞こえてきた。  期待されていない。認められてもいない。  だが、俺の心は驚くほど静かだった。やることは決まっている。勝てるレベルまで、認めざるを得ないレベルまで鍛えぬくだけだ。


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