表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
魔界の門編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/78

58話 鉄の魔獣

 馬車ほどもある鋼鉄の塊が、広場の石畳を抉りながら四脚で立っている。

 レオンは結晶剣に予備の結晶をはめ込み、戦闘態勢を取った。だが、その威圧感は次元が違う。先ほどまでの重装騎士とは、根本的に「重さ」が違っていた。


(落ち着け。焦るな。見ろ――こいつは何が変わり、何が変わっていない?)


 恐怖を押し殺しながら、レオンは眼前の怪物を観察する。

 人間だった頃の骨格は辛うじて残っている。四脚になったとはいえ、重心の位置は大きく変わっていない。背中には推進用の風導具が埋め込まれている。ならば、あの爆発的な加速力も健在だ。

 つまり、直線的な突進は来る。


(問題は、あの鋼鉄の装甲だ)


 変貌前の甲冑が肉と融合し、体表のすべてを鉄の鱗が覆っている。しかも、ただの鉄ではない。魔石の力で内側から焼き固められた魔導装甲だ。結晶剣の炎の刃で、どこまで斬り込めるのか。それは、戦ってみなければ分からない。


「オオオオオオオッ!!」


 咆哮と同時に、背中の風導具が爆音を轟かせる。


 ズドドドドドッ!


 四脚が石畳を砕き、怪物が一直線に突っ込んできた。レオンは真横へ跳ぶ。突進をかわし、すれ違いざまに結晶剣の炎を最大出力で叩きつける。刃が鋼鉄の側面を走った。火花が散る。金属が削れる匂いが鼻をつく。怪物は止まることなく壁へ激突し、そのまま突き破って向こう側へ抜けた。民家の一角が塵となって崩れ落ちる。


(斬れてはいる。だが、浅すぎる)


 レオンは怪物の体表を見つめた。

 炎の刃が走った箇所には、かすかな白い傷跡が残っている。確かに傷は付いた。だが、その深さは一ミリにも満たない。


(この出力で、この程度か)

(焦るな。まずは動きを掴め)


 怪物が向き直り、三対の赤い眼球がレオンを捉えた。


「ガアアアアッ!!」


 二度目の突進。


 だが今度は、途中で急角度に進路を変えてきた。


(速い!)


 レオンは驚愕した。

 変貌前の騎士は急旋回が苦手だった。その弱点を突いて戦ってきた。だが、四脚となった今は旋回性能が格段に向上している。咄嗟に後方へ跳び、左手の建物の壁を踏み台にして上へ逃れる。怪物の突進が、ほんの一瞬前まで自分がいた空間を抉った。


(上に逃げたのは正解だ。この体格で壁を駆け上がるのは難しい)


 屋根の端へ着地し、眼下を見下ろす。


「はぁ……はぁ……」


 息が上がる。


 まだ二度しか攻撃を受けていない。それなのに足が震えていた。圧倒的な存在感だけで、体力を削られていく。怪物が顔を上げ、にやりと笑う。裂けた顎から、どす黒い炎が噴き上がった。屋根全体が一瞬で燃え上がる。


「ッ!」


 レオンは反射的に屋根を蹴り、隣の建物へ飛び移る。直後、足場にしていた屋根は炎に呑まれ、崩れ落ちた。

 走りながら観察する。顎が向いた先に、必ず炎が来る。それさえ分かれば炎は避けられる。だが炎を避ければ突進が来る。突進をかわせば炎が襲う。どちらも致命的で、回避するだけで精一杯だった。攻撃の隙は、確かにある。突進の軌道を読んだ瞬間、レオンは踏み込んだ。すれ違いざま、結晶剣の出力を一点へ集中させて叩き込む。


 ガンッ、と鈍い音。


 ほとんど手応えがない。魔導装甲には魔石のエネルギーが循環しているのか、衝撃そのものを吸収しているようだった。


(外装を斬っても駄目だ)


 次の突進では脚の関節を狙う。変貌前の騎士が急旋回を苦手としていた弱点だ。刃を甲冑の上で滑らせ、関節の隙間へ切り込む。赤黒い血が噴き出した。金属と肉が入り混じる、嫌な手応え。だが怪物は脚を引きずることもなく、速度すら落とさない。


(ダメージになっていない……。もう再生したのか!?)


 距離を取りながら、レオンは結晶剣を見た。怪物の体液が付着した部分は黒く変色し、出力が目に見えて落ちている。状況は悪化する一方だ。


(それでも、やれることは全部やる!)


「じゃあ……これは?」


 懐から使い捨ての防壁結晶を三枚取り出す。角度を計算しながら怪物の進路へ投げた。狙いはダメージではない。

突進の勢いを、わずかでも逸らすこと。怪物が突っ込む。結晶が軌道上で炸裂し、爆風が巨体をわずかに押した。ほんの少しだけ進路が逸れる。


(方向は変えられる)


 その隙に側面へ回り込み、首筋へ渾身の斬撃を振り下ろす。首を落とし、再生の暇すら与えなければいいのだ。

 だが、首筋には魔力障壁が展開され、刃は弾かれた。


(駄目だ……これも通らない。あと何がある?)


 レオンは残りの結晶を確認する。もう多くはない。怪物が再び向き直る。全身が緊張で強張った。


(師匠は今どこにいる? いや……俺が倒し切らないと)


 振り返ることはできない。視線を逸らした瞬間に死ぬ。それだけは本能で理解していた。だから前だけを見る。


「ガアアアアアアアッ!!」


 魔獣が、再び突進してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ