表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
ウェンディ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/45

30話 怪盗ウェンディ

今、バルド領を揺るがしているのは、アステリアの村を脱走した風の天才、怪盗ウェンディの予告状だった。彼女が狙うのは、バルド伯爵が不当な搾取によって手に入れた『天風の碧玉』。今宵の午前零時、厳重な警備をすり抜けてそれを奪うという、大胆不敵な犯罪声明が街中に張り出されていたのだ。


「――怪盗ウェンディを捕らえた者には、金貨五百枚を出す、だとさ」


その予告に対し、バルド伯爵が即座に打ち出したのが、法外な賞金を懸けた臨時の護衛募集だった。バルド伯爵。平民を人間とも思わず、重税と奴隷労働で私腹を肥やす、この界隈では誰もが呪う悪徳貴族だ。領民の命を吸い上げて肥え太ったその男が、今、アステリアの天才が放つ風の気配に、怯え、怒り狂っている。

鉄錆と安酒の臭いが立ち込める酒場の片隅。ライゼンが、破り取ってきたばかりの募兵の紙をテーブルに叩きつけた。紫の瞳をギラつかせ、今すぐにでも暴れ出したそうな笑みを浮かべている。


「人間の貴族様も随分とナメられたもんだ。たかが風の魔法使い一人に、怯えてやがる」

「それだけウェンディの隠密性が狂っているということよ。アステリアにいた頃から、あの子の気配遮断は異常だったわ」


サリアが冷ややかに応じながら、給仕が運んできた薄いスープに口をつける。彼女の視線は、酒場の中にいる「明らかに堅気ではない荒くれ者たち」の動きをじっと観察していた。

クライン王国の街の熱気は、すでに飽和点に達している。街の至る所に配置された重装備の私兵に加え、この高額賞金に目を眩ませた賞金稼ぎや流れ者の傭兵たちが、続々と伯爵の館に集まりつつあった。


「……ちょうどいいな」


アルスは、錆びたナイフで一切れの硬い肉を口に運びながら、冷徹に思考を巡らせていた。彼女をここで確実に回収し、仲間に引き入れなければ、イグニスの組織と戦うことはできない。


「俺たちも警備に参加して、ウェンディに接触しよう。探す手間が省ける」

「いいね、軽くしびれさせてやるぜ」


ライゼンが凶悪に口角を上げる。だが、サリアはグラスを見つめたまま、小さくため息をついた。


「そんなにうまくいくかしら? 相手はあのウェンディよ」

「どちらにせよ、ここで接触できなければチャンスはない」


アルスたちは酒場を後にし、伯爵邸の門前へと向かった。 現在、バルド伯爵はウェンディの脅威に完全に正気を失っており、腕さえ立てばどんな素性の怪しい者でも臨時の雇われ兵として受け入れるほどの狂乱ぶりだった。アルスたちはこれを利用し、簡単な実技審査をすんなりとパスして、館の警備陣へと紛れ込むことに成功した。


――そして、深夜、アルスたちはバルド伯爵の館の、巨大な宝物庫の前にいた。


そこには、金貨に目が眩んで集まった、異様な顔ぶれが揃っていた。全身に生々しい傷跡を持つ大男、不気味な呪符を背負った東方の呪術師、血の臭いを隠そうともしない暗殺者。一癖も二癖もある荒くれ者たちが、互いを牽制するように殺気を放っている。


「おい、お前ら。見ねえ顔だな」


声をかけてきたのは、その中でもひときわ巨大な鉄剣を背負った、傭兵崩れの大男だった。男の筋肉は鋼のように引き締まっており、この場に集まった並の賞金稼ぎたちとは一線を画す威圧感がある。


「東の国境沿いから流れてきた。ウェンディという怪盗を捕まえればいいんだろ」


アルスが世間慣れした傭兵を装って淡々と答えると、大男は鼻で笑った。


「ハッ、若いな。風の魔法がなんだ。俺のこの剣速なら、姿を現した瞬間に首をハネられる。魔法なんぞに頼らねえ、この肉体こそが最強なんだよ」


近年、アステリアを脱走した天才たちが外の世界で引き起こした数々の事件により、一般の戦士たちの間でも「魔法」という超常の力の認知度は急速に上がっていた。同時に、それは戦士としてのプライドを脅かす脅威でもあり、彼らは魔法使いに対抗すべく、己の肉体や剣技を極限まで鍛え上げることでその恐怖をはねのけようともがいていた。大男の言葉は、まさにその最前線にいる人間の傲慢と焦りの表れだった。

男の言葉に、アルス、ライゼン、サリアの三人は、思わず顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。 アステリアという「化け物たちの巣窟」を知る彼らにとって、魔法使いを抜いた世界での『最強』という言葉が、どれほど虚しいものかを知っていたからだ。だが、あえてそれを口にすることはない。

部屋の中央には、特注の頑丈な鋼鉄の金庫が据えられている。魔法による防壁などない時代、物理的な厚みと複雑な三重の鍵こそが最大の防衛手段だった。その周囲を、ガチガチの鎧で固めた数十人の兵士たちが円陣を組んで取り囲み、部屋の四隅には賞金稼ぎたちが目を光らせる。一分の隙もない、文字通りの完全要塞。

時計の針が、ゆっくりと午前零時へと重なる。緊迫感が最高潮に達し、誰もが息を呑んだ、その瞬間だった。


「皆さんお揃いで、パーティでもしているのかしら? それにしてはむさくるしい面子ね、おほほほー」


誰もいないはずの空間から、突如として、鈴を転がすような高飛車な少女の声が響き渡った。


「――ッ!?」 「どこだ!?」


一瞬にして宝物庫の空気が凍りつき、賞金稼ぎたちが一斉に武器を引き抜いて周囲を遮二無二見回す。先ほど大声を叩いていた大男も、完全に動揺して大剣を無様に構え直していた。

だが、部屋の隅に控えるアルス、ライゼン、サリアの三人だけは動じなかった。

(始まったか……)

アルスは静かに目を細め、体内の魔力を研ぎ澄ます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ