25話 穿つ
轟音と共に立ち込める白煙の向こうで、三体の人工魔族がその醜悪な顔を歪め、一斉にライゼンへと襲いかかった。
「ガァァァァッ!」
先頭の一体が、大気を引き裂く速度で獰猛な爪を振り下ろす。ライゼンは最小限のステップでそれを紙一重でかわすと、即座にカウンターの雷撃を零距離からみぞおちへと叩き込んだ。
「『天雷』!!」
バチィィッ! と鼓膜を震わせる激しい放電音が響き、魔族の胸部から上が文字通り丸焼きになる。肉の焦げる悪臭が立ち込め、普通の生物なら即死して当然の一撃。だが、ライゼンはすぐに忌々しげに顔を顰めた。
(チッ……! 以前のアルスの野郎と同じだ。攻撃が効かねぇ)
頭部を黒焦げにされた魔族は、痛みを感じる様子すらなく、その傷口から不気味な黒煙を噴き出しながら瞬時に新しい肉細胞を再生させていく。それどころか、その奥からは残りの二体がニヤリと下卑た笑みを浮かべ、それぞれの両腕に禍々しい炎の魔力を燃え上がらせていた。
「ハハッ! 終わりだ、天才!」
「その心臓、もらう!」
二体の魔族が同時に腕を振るう。放たれたのは、大気を焼き焦がすほどの凶悪な火炎の奔流だった。左右から挟み込むように迫る炎の壁を前に、ライゼンは鋭く床を蹴る。
「舐めるなッ!」
ライゼンは全身の回路を瞬間的に解放し、自らを中心に全方位へと高電圧の電撃を爆発的に展開した。
「『小型ライトニングフィールド』!!」
バチバチバチィィッ!!! と、激しい光のドームがライゼンの周囲に形成される。迫り来る火炎の奔流はその青白い雷の障壁に衝突し、凄まじい爆発音と共に四方へと激しく霧散していった。雷と炎が衝突する衝撃波が、アジールの強固な石床をガリガリと削り飛ばしていく。
防御と同時に、電撃の余波が三体の魔族を強引に数メートル後方へと弾き飛ばした。
一瞬の隙を作り出し、ライゼンは鋭い三白眼を走らせて背後の状況を確認する。そこには恐怖で腰を抜かしたルカ、そして逃げ遅れたアジールの住人たちが大勢、身を寄せ合って震えていた。
(クソが……! ここで大技を出せば、後ろの雑魚どもまで巻き込んじまう……!)
間髪入れずに、魔族たちは再び炎の弾丸を連射しながら、超高速の連携で肉薄してくる。攻撃範囲を極端に制限されたライゼンは、流石に防戦を強いられ、じりじりと後退を余儀なくされていた。
「ライゼン! ルカ!」
その緊迫した戦場に、地を割るような鋭い足音と共に割って入る影があった。
アルス、サリア、中心に巨躯を揺らすガウルが、凄まじい魔力のプレッシャーを放ちながら通路の奥から駆けつけてきたのだ。
「遅えんだよ、ボロ雑魚どもが!」
「すまない、ライゼン。持ちこたえてくれたか!」
ガウルが地響きのような声を上げ、その場に仁王立ちになる。同時に、サリアが素早くルカの元へ駆け寄った。
「ルカ、怪我はない!? ――みんな、私に続いて! こっちに避難して!」
サリアは的確に指示を出し、怯える住人たちを誘導して安全な後方へと退避させ始める。
背後の憂いが消えたその瞬間、ライゼンとアルスの視線が交差した。言葉など不要だった。二人の天才は、同時に地を蹴って眼前の魔族へと襲いかかる。
「一匹は俺がもらう!」
アルスが恐るべき速度で突出する。アルスがどのようにこの化物を始末するのか気になったが、今はただ、目の前のバケモノを消し飛ばすことだけに集中する。
魔族の一体が、向かってくるライゼンを迎え撃とうと、漆黒の炎をその爪に凝縮させた。
「細切れにしてやる!」
「あぁ? 脳みそまで筋肉が詰まってんのかよ」
ライゼンは不敵に笑い、右手を突き出した。
「ぶっ飛べ!!天雷!」
バチバチバチィィッ!! と雷撃を凄まじい速度で連射する。
まともに喰らえば肉体が爆散する威力の雷弾が、容赦なく魔族へと着弾した。驚異的な再生能力を持つ魔族といえど、連続する衝撃と激しい放電には抗えず、その巨躯を強引に数メートル後方へと吹き飛ばされる。
「ガッ……アァッ!?」
魔族が肉体を再生し体勢を立て直す。ライゼンは即座に掌を真っ直ぐ天へと向け、意識を集中させた。
ガウルのあの絶対的な不落の盾を破るため、血を吐くような思いで、編み出した新技術。これまでは手元から放っていた雷のエネルギーを、体外、それもはるか上空の空間に固定して成形する。
今、アジールの上空にライゼンが張り巡らせた魔力により、巨大な輝くリングが静かに回転していた。円環の内部では、光の筋が、超高速で渦巻いている。
ライゼンが天に向けた掌を、目の前の魔族へと振り下ろす。
上空のリングの一部が開き、光の筋が一気に解放された。
「穿て――『神雷穿!!」
次の瞬間、天空から一本の青白い光の柱が最短距離で降下した。
それは通常の雷(光)ではない。極限まで収束され、超高速へと加速された粒子が大気を引き裂きながら突き進む、絶対的な破壊の軌跡。
ドンッッ!!!!
魔族の頭上に垂直に編み出されたその光柱は、ピンポイントで標的の肉体を捉えた。
ライゼンは出力を限界まで絞って直径を数メートル程度に抑えていたが、その中心点の威力は凄まじかった。直撃した魔族は、叫び声を上げる暇さえなかった。
驚異的な再生能力を持つ細胞が蠢く間もなく、肉体を原子レベルで爆破し、一瞬にして消し炭へと変えていく。岩盤が蒸発するほどの熱量が局所的に荒れ狂い、衝撃波が円環状に広がってアジールの通路の埃を派手に吹き飛ばした。
「ふぅ……。再生する暇もねえだろ?」
ライゼンは右手を軽く振り、傲然と言い放った。
一息ついて隣を見やると、そこにはすでに、アルスによって完全に物言わぬ肉塊へと変えられ、崩れ落ちていく二体目の魔族の姿があった。あいつがどうやって倒したのか、その全貌は分からなかったが、息一つ乱していない。
そして残る最後の一体は――。
「ガハッ……! あ、足が、動か……!?」
生き残った魔族は、背後から音もなく接近していたガウルの巨大な黄金色の魔力の手によって、床に組み伏せられ、完全に拘束されていた。




