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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
アジール ~ ガウル編

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24/40

24話 綻び

私の名前はテオ。

 大国同士の戦災に巻き込まれ、故郷も家族も失って死に物狂いで荒野を彷徨っていたところを、ガウル様に救われた『持たざる者』の一人だ。今はアジールの門番の手伝いや、雑用をこなして暮らしている。

 この城に、聖都からアルスさんとライゼンさんがやって来てから数ヶ月が過ぎた。初めは、正直に言って怯えていた。アステリアの神童と呼ばれたライゼンさんは、私たちのような人間を見下す傲慢な存在だと噂で聞いていたし、アルスさんも、どんな人か分からなかったからだ。

 けれど、二人を見ていて、私や周りの住人たちの印象は少しずつ、けれど確実に変わり始めていた。


「おいテオ、見たか? あのライゼンさん、裏の岩山で毎日血を吐くような特訓をしてるらしいぞ。大声を上げながら、何度も何度も自分の魔法を限界まで絞り出してるんだってよ」


「あぁ、知ってる。アルスさんだってそうだ。川べりでボロボロになって、服を血で染めながら特訓している。あんなに凄い人たちが、あそこまで必死に頑張ってるんだ。……回路が未熟だからって、私たちがへこたれてちゃダメだな」


 夕刻すぎ空が暗くなり始めたころ、他の住人たちとそんな会話を交わす。

 二人の圧倒的な努力の熱量は、閉ざされたこの城の空気に勇気を与えていた。かつての恐怖や誤解は完全に薄れ、今では彼らのひたむきな姿が、私たちのささやかな励みになっていたのだ。


「あけてくれ! ここがアジールなんだろ! たのむ、あけてくれ!」

 アジールの分厚い岩の城門の向こうから、突如として必死に助けを求める男の絶叫が響いた。私と一緒に門番をしていた男が、覗き穴から外の様子を伺いながら声を張り上げる。


「入れてやりたいが、ガウル様の許可が必要だ! 今から呼んでくるから、そこで待ってろ!」


「そんな! 間に合わない! いま魔物に追われているんだ! ガルバディア帝国から出てきた化物だ! 追いつかれたら殺されちまう!!」


 男の声は涙に濡れ、今にも途切れそうだった。背後からは、聞いたこともない不気味な獣の咆哮が迫っている。


「テオ、どうする!?」


「ガウル様を呼んでる時間はないよ……! 僕が責任を持つ、開けるんだ!」


 かつて自分も同じように荒野で死にかけ、ガウル様に救われたのだ。見捨てることなんてできない。私は周りの村人にガウル様を呼びに行かせ、夢中で開門のレバーを引いた。

 重々しい音を立てて、岩の門がゆっくりと開く。


「さあ、早く中に――」


 差し込んだ光の向こうにいたのは、助けを求めていた人間の男……だけではなかった。

 その男は青ざめた顔でガタガタと激しく震えて今にも逃げ出しそうだった。

 男の後ろに、影のように佇んでいたのは、赤黒く変異した肥大化した皮膚、頭部から生えた歪にねじ曲がった角、そして悍ましい魔力を放つ三体の異形。イグニスの組織が作り出した『人工魔族』だった。


「ひっ――あ、ああ……!」


 声を発する間すらなかった。中央の魔族がニヤリと不気味に口を裂き、こちらに向けて手をかざす。次の瞬間、視界を圧するほどの凄まじい衝撃波が私の身体を正面から襲った。


「がはっ!?」


 私は内臓を激しく打たれ、数十メートル後方へと派手に吹き飛ばされた。岩壁に激突し、血を吐いて崩れ落ちる視界の中で、魔族たちが悠然とアジールの内部へ侵入していくのが見えた。


「敵襲だぁぁぁッ!! 門が破られたぞ!」


「化け物だ! 化け物が城に入ってきた! みんな逃げろ!」


 一瞬にして、平和だった集落は地獄のパニックへと変貌した。子どもを抱えて走り出す母親、転んで踏みつけられる老人。悲鳴と怒号が狭い岩の通路に反響する。


「おい、そこの女ァ。お前、使えるか?」


「ハハッ、こいつはゴミだ。次を探そう」


 魔族たちは何か特定の『獲物』を探すように、冷酷な目で周囲を見回していた。彼らは楽しむように爪を振るい、行く手を阻む住人たちの背中を引き裂き、容赦なく傷つけていく。飛び散る鮮血と、絶望の叫びが響き渡る。


「お前たち! そこまでだ!!」


 逃げ惑う雑踏を掻き分け、その凄惨な光景の前に立ちはだかったのは、ルカだった。

 その両足は目に見えてガタガタと震えており、突き出した両手もうわずっている。恐怖で涙が滲む目を懸命に見開き、ルカは声を張り上げた。


「これ以上……この城の仲間を傷つけさせない……!」


 ルカが腕の奥の魔力を全開放する。ガウル様の魔力を浴びてようやく目覚め始めた、未だ頼りない風の魔法。だが、ルカは全ての意地を込めて、鋭い風の刃を至近距離から放った。


「いけぇぇぇッ!!」


 ヒュン、と空気を切り裂く音が響き、刃は正確に先頭の魔族の胸元を捉えた。その硬い皮膚を裂き、浅くはあったが確かな『傷』を刻み込んで、赤い血をダラリと流させる。


「やった……!?」


 ルカの瞳に一瞬だけ希望が宿る。しかし、次の瞬間、その希望は無残に粉々に砕け散った。

 魔族の胸の傷から不気味な黒い煙が立ち上ったかと思うと、肉細胞が生き物のように蠢き、一瞬にして元の滑らかな皮膚へと再生してしまったのだ。出血すら、何事もなかったかのように消え失せている。ダメージなど、最初から全く与えられていなかった。

 三体の魔族は、ルカの放った魔法、そしてその肉体を観察するように首を傾げると、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


「材料、見つけた」


 魔族の一体が、獰猛な爪を突き出し、恐怖で完全に硬直して動けないルカの細い首筋へと手をかけようとする。ルカは絶望に顔を歪め、ぎゅっと目を瞑って死を覚悟した。

 ――その瞬間。


 ドガァァァァァンッッ!!!!


 アジールの強固な天井の岩盤を突き破り、上層から一直線に、目も眩むような巨大な蒼雷が垂直に叩き落とされた。

 凄まじい放電熱が通路の空気を爆破し、激しい光と衝撃波が周囲の瓦礫や魔族の身体を強烈に吹き飛ばす。


「ガァッ!?」


 直撃を辛うじて察知した三体の魔族は、本能的な危機感から素早く後ろへと跳び退き、低い姿勢で距離を取って警戒の構えをとった。

 激しく立ち込める白煙と、バチバチと床の岩を激しく焦がす青白い火花。その中心に、片手をだらりと下げた一人の少年が立っていた。細い腕が、青い電光を浴びて不気味に輝いている。


「ルカ。雑魚のくせにカッコつけてんじゃねえよ。こういうのは――」


 白煙の中から、鋭い三白眼が魔族たちを冷酷に睨みつける。


「天才に任せろ!」


 アステリアの神童、ライゼン。その全身から溢れ出る圧倒的な電撃が、薄暗くなってきたアジールを昼間のように白く照らし出していた。


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