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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
アジール ~ ガウル編

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18/21

18話 荒野の轍(わだち)、三人だけの夜

 大聖都の分厚い城門を背にしてから、すでに三日が経過していた。


 目指す巨岩の城『アジール』があるのは、ガルバディア帝国の国境沿いに広がる、不毛な荒野のただ中だ。見渡す限りの赤茶けた大地と、時折吹き付ける砂混じりの熱風が、旅人の体力を容赦なく削り取っていく。


「ちょっとアルス!! 何をナイフで剥こうとしてるのよ!?」


 岩陰での短い休憩中、サリアのけたたましい悲鳴が荒野に響き渡った。


 俺の目の前に転がっているのは、先ほど襲撃してきた砂漠地帯の害獣『デザートスコーピオン』の死骸だ。大人の頭ほどもある巨大な蠍で、毒針には致死性の神経毒が含まれている。俺は手際よくその尾を切り落とし、腹部の甲殻にナイフを滑り込ませていた。


「何って、肉の採取だ。こいつの尾の付け根にある横紋筋は、栄養価が極めて高い。節足動物の筋肉は高タンパクだ。毒腺さえ完全に切除して、100度以上の熱で15分以上煮沸すれば、寄生虫もタンパク質も熱変性して無害化する。今の俺の筋組織の修復には、良質なアミノ酸が――」


「論理的に説明すれば許されると思わないで! 蠍よ!? 魔法の触媒にするならともかく、なんでそれを今から私たちが食べる前提で話してるの!? 却下! 絶対に却下だからね!」


「……ちっ、合理的だと思うんだがな」


 大真面目に不満を漏らす俺の横で、ライゼンが引きつった顔のまま、限界まで俺から距離を取っていた。


「おい……アルス。お前、アステリアの村にいた頃から頭がおかしいとは思っていたが、本物の狂人だな。いくら回路がなくて飢えていたからって、そんな化け物の肉を食おうとするな。天才の俺の胃袋に、そんな悍ましいものを入れさせようとするなよ……!」


「お前は世間知らずの神童だから贅沢病なだけだ、ライゼン。サリア, じゃあこの足の身だけでも――」


「ダメったらダメ!!」


 サリアにパシッと手を叩かれ、俺は渋々ナイフを収めた。結局、いつも通りの硬い干し肉を齧ることになったが、ライゼンはまだ俺を「得体の知れない生ゴミを見る目」で警戒している。張り詰めていた大聖堂での空気が、別の意味で台無しになっていた。


 だが、そんな締まらない日常の時間は、長くは続かなかった。


「――おい。そこの薄汚い三人組。止まれ」


 再び歩き始めて数刻。荒野の隘路あいろに差し掛かったところで、前方から金属の擦れ合う不快な音が響いた。


 現れたのは、ガルバディア帝国の地方領主に雇われているとおぼしき、数人の私設騎士たちだった。手垢のついた甲冑を身に纏い、手には錆びかけた長槍を握っている。


「この先は領主様の私有地だ。通りたくば、持っている私財をすべて置いていけ。さもなくば生きてここを通さんぞ」


 俺は一歩前に出ようとしたが、背骨の奥の神経がピキリと拒絶反応を起こした。


 その瞬間、俺の前に細い背中が割り込んできた。両腕をだらりと下げた、ライゼンだ。


「アルス、お前は引っ込んでろ。そのボロ雑魚の身体で無理をされると、サリアの治療の手間が増える。……おい、有象無象ども。運が悪かったな。今の俺は、最高に虫の居所が悪いんだ」


 ライゼンの指先から、バチバチと青白い火花が漏れ出す。


 俺はあいつの背中に向けて、冷徹に、しかし低く釘を刺した。


「ライゼン。殺すなよ。ガルバディアの正規兵ではないとはいえ、騎士の死体が転がれば、無駄な追手がかかる。今の俺たちの目的は隠密移動だ。戦闘不能にするだけに留めろ」


 ライゼンは振り返りもせず、ふんと鼻を鳴らした。


「当たり前だ! 俺を誰だと思っている。出力を絞って、神経を軽く焼くだけの精密制御コントロールなんて、天才の俺にしてみれば朝飯前だ。お前みたいな『殺すか殺されるか』の泥仕合しかできない脳無しの戦い方と、一緒にするな!」


 ライゼンがさらに魔力を高めると、その全身から青白い電気がバチバチと激しく噴き出し、荒野の乾燥した空気を一瞬で焼き焦がした。その圧倒的な雷の密度と威圧感に、色めき立った私設騎士の一人が、恐怖に顔を歪めている。


「お前ら、俺を誰だと思ってるんだ!?」


「お前!? まさか、聖都の……」


 自身の名声が、こんな辺境の荒野にまで知れ渡っていることに気づいた瞬間、ライゼンはふっと口元を緩め、実に嬉しそうにニッコリと得意げな笑みを浮かべた。自尊心を満たされ、完全に気分を良くしている。


「人違いよ!」


「人違いだ!」


 俺とサリアの声が、見事なまでに同時に重なった。


 俺はライゼンの背中に向けて、低く、鋭い殺気混じりの声を叩きつける。


(お前、素性がバレるような真似をするな! 動きにくくなるだろ)


 せっかく聖都から逃れて隠密に行動しているというのに、自ら看板を掲げてどうする。


 ライゼンはハッと我に返り、確かに、という感じで、チッと小さく舌打ちをして渋々といった様子で顔をしかめた。そして、強引に記憶を塗り替えるかのように、あからさまにわざとらしい大声を荒野に響かせる。


「人違いだ! 俺はライゼンではない」


 そう言うと同時に、ライゼンは右手を軽く突き出した。


 もはや技の構えを取る必要すらない。あいつの指先から、目にも留まらぬ速度で無数の電撃が放たれ、一瞬で場を片付けにかかる。


 バチィィッ! と激しい放電音が響き、甲冑に流れた電流が、騎士の運動神経を瞬時にマヒさせた。男は白目を剥き、一言も発せぬまま泥人形のように崩れ落ちる。


「ヒッ、こいつやっぱり魔法使いだ! ひるむな、囲んで――」


「遅い」


 返す刀で、ライゼンは指先をわずかに払った。まるで空間を薙ぎ払うかのように、拡散した微弱な電撃を流し込み、ものの数秒で、すべての騎士を五体満足のまま気絶させてみせた。


「……フゥ」


 ライゼンは腕を振り、散る火花を消すと、これ見よがしに俺を振り返った。


「どうだ、アルス。文句のつけようがないだろ」


「戦闘に関しては……な」


「あ?」


 ライゼンは不満げに眉を跳ね上げたが、俺とサリアは同時に冷たい視線をあいつに突き刺していた。サリアは腰に手を当ててジト目を向け、俺は呆れ果てて深く溜め息をつく。戦闘の手際自体は完璧だったが、最初の数秒で完全に墓穴を掘りかけた男の、締まらない背中がそこにはあった。


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