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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
アジール ~ ガウル編

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17/20

17話 3人目の天才

凄まじい全身の火傷と裂傷は、サリアの懸命な治癒魔法によって、どうにか皮膚の形を保つまでに回復していた。

「……あ、つ」

喉を鳴らしながら、俺――アルスは、大聖都の裏通りにある寂れた安宿の食堂で、目の前の安物の中央に置かれたスープに息を吹きかけていた。全身の筋肉が電気ショックの余韻で微細に痙攣し、スプーンを持つ指先がわずかに震える。

「ほら、無理しないで。まだ指先の神経が完全に繋がっていないんだから」

隣に座るサリアが、呆れたような、しかしどこかホッとしたような溜め息をつきながら、俺の手からスプーンを奪い取ってスープを口元へと運んできた。赤く腫れた彼女の目が、この数日間の不眠不休の治療を物語っている。

「……悪い」

「感謝しなさいよね、私がいなかったら死んでたわよ」

サリアはぷいっと顔を背けながらも、次のスプーンを丁寧に俺の口元へと差し出してきた。俺の肉体は一度、完全に生理学的な限界値を超えて破壊されていた。超高電圧による細胞の炭化、そして魔石による細胞の強制暴走。電子の動きを魔力粒子で代替していた脳のネットワークが焼き切れる寸前で踏みとどまれたのは、ひとえに彼女の水と氷、そして高密度な治癒の魔力による冷却が、俺の肉体を現世へと繋ぎ止めてくれたからに他ならない。スープを飲み込みながら、俺は視線を正面へと向けた。  そこには、『アステリアの神童』が、不てくされた顔で硬いパンを齧っていた。あいつの身体は、驚くべきことに完全に元通りになっていた。衣服の隙間から覗く肌には、あれほどの重傷を負った痕跡すら残っていない。ライゼンはパンをスープに浸しながら、話を切り出す

「で? これからどうするんだ、アルス。俺が神殿の連中に見つかったら、どんな大騒ぎになるか分かったもんじゃない。サリアが夜闇に紛れて俺をここまで回収してくれたからいいものの、長居は無用だぞ」

俺は視線を自分の手のひらに戻し、冷徹に思考を巡らせる。  ライゼンの口から語られた、あの圧倒的な天才――イグニスの組織の噂。各地の村で起きている人間を誘拐して人工的に造り出される『魔族部隊』。男爵領で戦ったあの黒煙の化け物や、俺から噴出した『黒炎』の出処はすべてあいつに収束する。

「合理的に考えれば、今の俺たちであいつに挑むのは自殺行為だ」

俺は低く、ひび割れた声で言った。  

「イグニスの軍勢に対抗するには、こちらの戦力が圧倒的に足りない。ライゼン、お前の雷撃魔法が味方に回るメリットは計り知れないが……それでも、まだ駒が少なすぎる」

「チッ……認めんのは癪だが、その通りだ。あいつは化け物だ。」

ライゼンが苦々しく顔を歪める。その額には、かつてないほどの濃い影が落ちていた。  薄暗い安宿の食堂。周囲には昼間から酒を煽る労働者や、旅の商人が行き交い、騒がしい喧騒が満ちている。その濁った空気の中で、俺たちのテーブルだけが、まるで氷を置いたかのように冷たく張り詰めていた。ライゼンは、あの大聖堂で放った己の最大技『雷天絶界』すらも無意味に終わるかもしれないという、絶対的な強者への恐怖を思い出したかのように、無意識に自分の両腕をさすっていた。

「なら、まずは仲間集めだ。あいつの脅威に対抗できる規格外の戦力が要る。……言ってる意味わかるよな?」

俺の問いに、ライゼンは顎をさすりながら、どこか確信に満ちた笑みを浮かべて答えた。

「当然。あいつに対抗できるのは、アステリアの同期だけだ。まずは、そうだな……」

ライゼンが言葉を続けようとしたその時、背後のテーブルから、一段と大きな声が響いてきた。酒が入って赤くなった顔の旅の商人たちが、身を乗り出すようにして、世界情勢についての噂話を繰り広げている。

「――おい、聞いたか? ガルバディア帝国の国境沿いの荒野の「あの城」が、ガルバディア軍を退けたらしいぞ」

「あぁ、聞いた聞いた。巨岩の城『アジール』とか呼ばれているらしいな。どこの国家にも属さず、突如として荒野の真ん中に出現した謎の集落らしいが、まさか帝国の重装甲兵を相手に一歩も引かないとはな」

「何でも、その城を創り上げたのは、いかなる攻撃も、魔法も通さない無敵の肉体を持つ大男らしいぞ。その男がただ一人で城門の前に立ち塞がり、軍隊の放った大火球を正面から肉体で受け止めて、無傷で笑っていたっていうんだから、世の中信じられない化け物がいるもんだ」

その言葉を聞いた瞬間、ライゼンは「そうそう、これだよ」という感じで、不敵な笑みを浮かべてこちらを見てきた。俺は俺で、前世の物理学的な知識と、この世界の魔法の法則性を脳内で照らし合わせ、なるほどと得心がいった。

「完全に、岩の魔法の天才……ガウルだな」

俺がその名を口にすると、ライゼンはスープに浸したパンを口に放り込み、嬉しそうに頷いた。

「そうだ、奴がいれば最強の盾になる」

俺は、村の模擬戦で見せたガウルの、あの揺るぎない巨躯を思い出す。あいつは見た目こそ粗暴だが、非好戦的で、常に弱きものを守ることにその力を使おうとしていた。口調はゆっくりだが力強く、妙に安心感を与える優しい男だった。

俺とライゼンの視線が、今度は明確な目的を持って真っ直ぐに交差した。

「決まりだな。大聖都を出るぞ。次の目的地は、その巨岩の城「アジール」だ」


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